お笑い男女コンビ「納言」薄幸さんの初著書『今宵も、夢追い酒場にて』。大酒飲みで知られる薄幸さんの笑いに満ち溢れた酒エピソードを収録した本作品から一部を特別公開! のんべえの人はもちろん、下戸の人も酔ったみたいに楽しくなれるおつまみ話を、ぜひご賞味ください。
酔うと黒目だけになるふぢわらさん
私には子持ちの芸人の飲み仲間が何人か居る。
子供が居る芸人は飲んでいても、どことなくパパなんだなと感じる事が多い。
普段から、家で子供と他愛のない話をしているからなのだろうか。私が変な虫に刺された話とか、鞄の奥に煙草の葉っぱが散らばってて嫌だとか、マジで興味ないであろうクソったれ話を「そうかそうか」と真剣に聞いてくれる。逆に私が後輩からそんな話をされたら、空っぽの膀胱引っ下げてでも、トイレに駆け込む事だろう。
そんなパパ芸人と居ると居心地が良過ぎて、仕事現場で仲の良いパパ芸人を見つけると、キャッキャ騒ぎながら駆け寄ってしまう。
わらふぢなるおのふぢわらさんも、見つけると大ダッシュで駆け寄ってしまう飲み仲間のパパ芸人の1人。
とにかく優しいふぢわらさんは、飲みに誘うと9割9分飲んでくれる。優しいからと言うか、めちゃくちゃ酒が好きだから9割9分飲んでくれる。
ライブで一緒になった時に飲む約束をすると、
「みゆき出番遅いな。待ってらんないから先に店行って飲んでるよ」
そう言い残して、私を置いていってしまう。
酒に夢中で「出番終わりましたけど、どの店に入りましたか?」の返信が全然来ない事もある。
もしかしたら、優しくないのかもしれない。
ハイボールしか飲まないふぢわらさんは、凄い速いスピードでハイボールを飲むけど、凄い速いスピードで記憶をぶっ飛ばす。
私も高確率で記憶をぶっ飛ばすけど、比じゃない位猛スピードで記憶をぶっ飛ばす。そして「あ、ふぢわらさん今記憶無くしている最中だな」と、すぐに顔で分かる。信じられないかもしれないけど、黒目しか無くなるのだ。
大きな目が黒目でパンパンになったら、記憶が無い証拠。黒目がちだとか、そんな可愛いレベルじゃない。大体ハイボール2杯目辺りから徐々に黒目が肥大化してきて、ハイボール6杯目頃には真っ黒になる。
黒目だけになっても「ハイボール」とだけは、100杯目でもハッキリと注文する。
煙草を吸わないのに喫煙所に行ってしまうふぢわらさん
わらふぢなるおさんと『有田ジェネレーション』で一緒になっていた時、収録終わりにメンバー皆で打ち上げに行く事がよくあった。
ある時行った中華料理屋さんは、席は禁煙で、裏のドアを開けた所にある、暗い踊り場みたいなスペースが喫煙所だった。
いつもの様にゴクゴクハイボールを飲み進めて7杯目位でトイレに向かう、ふぢわらさん。
何か戻ってくるの遅いな? とは思いつつも、さほど気にせず飲んでいると、仕事の都合で遅れて来たダニエルズさんも合流。酒飲みヤニ吸いのダニエルズさんは、大急ぎで1杯流し込むと、大急ぎで喫煙所へ向かう。
5、6分後、ダニエルズさんは、なぜかトイレに行っていたはずのふぢわらさんと一緒に戻って来た。
ダニエルズの望月さんが言う。
「ふぢわらさん席迷って喫煙所に居たよ!」
どうしてだ。
席に迷ったとしても、どうして暗い踊り場に行っちゃうんだ。絶対席の暗さじゃないだろうに。黒目で真っ黒だから、暗いとかの感覚無いのだろうか。
さっきまで踊り場の喫煙所に居た、煙草を吸わないふぢわらさんはヘラヘラしながら、
「勘弁してよ?、俺皆に撒かれたかと思ったよ?!」
そう言って、またハイボールを飲んでいた。
どうしてこちら側が勘弁しないといけないのかは謎だけど、それはそれは美味しそうにハイボールを飲んでいた。
後日ふぢわらさんにその話をすると、恩人であるダニエルズさんに関しては、来た事さえ覚えていなかった。
今宵も、夢追い酒場にて
やさぐれ女芸人、初の著書は「芸人×お酒」の笑いに満ちた酔いどれエッセイ!
酒好きはもちろん、下戸でも愉快に。おつまみ気分で楽しめる1冊、ぜひお召し上がりを。
大酒飲み、ヘビースモーカーなやさぐれキャラとして大注目の、お笑い男女コンビ『納言』のみゆき。味のある文章を書くことでも話題をよび、このたび満を持して初の著書を上梓! 本書は、みゆきの日常に欠かせない「芸人×お酒」の2つを合わせた酔いどれエピソードを収録。オズワルド、インディアンス、ジェラードン、空気階段といった同じ第7世代との酒場交流。さらに、カズレーザー、尼神インター渚、バイク川崎バイク、トレンディエンジェルたかしら愛すべき先輩芸人との抱腹絶倒飲みエピソードも。一方で、かつて挫折した役者の夢、今は会えないあの人への想い、普段は口にしない相方への思いなど、酔いにまかせた意外な本音も綴っている。