お笑い男女コンビ「納言」薄幸さんの初著書『今宵も、夢追い酒場にて』。大酒飲みで知られる薄幸さんの笑いに満ち溢れた酒エピソードを収録した本作品から一部を特別公開! のんべえの人はもちろん、下戸の人も酔ったみたいに楽しくなれるおつまみ話を、ぜひご賞味ください。
「お前ん家でタコパしよう!」
「タコ焼き食いたい! 家にタコ焼き器無いの? みゆきちゃん家で、タコ焼きしよーや!」
少し前に、そんなLINEが届いた。
送り主は、尼神インターの渚さん。
「タコ焼き食べたいな。うちにタコ焼き器あるから、タコパしよう」は、聞いた事がある。
「タコ焼き食いたい!お前ん家でタコパしよう!」は、聞いた事がない。
パーティー開催の誘いにしては、結構珍しいお誘いだ。
そして、タコ焼き器なんて、ない。
「家にタコ焼き器無いの?」
渚さんは何を根拠に、もちろんある物だと思ったのだろう。
私はコテコテの関西人じゃない。その反対。サラサラの関東人だ。
「家にWi-Fi無いの?」のテンションで、タコ焼き器の有無を聞いてきたコテコテの関西人の渚さん。
ご希望通り、渚さん用にタコ焼き器を用意して、それから4、5日経った頃。その日仕事が一緒だったさすらいラビーの宇野君と、ルームシェアをしていた私の家でサシ飲みしていると「今日遅いん?」渚さんからLINEが届いた。
渚さんの「今日遅いん?」は、「おい! 飲もうや!」っていう意味だというのは、知り合った数年前からよく知っている。
「さすらいラビーの宇野君と飲んでいるけど、良かったら家で飲みましょう! タコ焼きしましょう」
という旨のLINEを送ると、
「木村君と行くわ」
そう返ってきた。
木村君というのは、拓哉さんの方じゃなく、インディアンスのきむさんの事。
タコ焼きを食いに、関西人が関西人を連れて来る。もうこの家は、道頓堀や。
タコ焼きにうるさい渚さん
元々背が低いのに、初対面の先輩とタコ焼きをするという緊張のせいで、身長が130センチに縮んでしまった宇野君。そんな宇野君と一緒に、渚さん達が来る前に近所のスーパーへ具材の買い出しに行く。
買い物を済ませ、15分前後で家に戻り、ドアを開ける。
「遅かったなあ」「氷どこー?」
渚さんときむさん。
もう、来てた。
来て、入って飲んでた。
来て、入って飲んで、氷探してた。
「さすらいラビーの宇野です」
なぜかもう来てた先輩達に動揺したせいで、更に縮み身長110センチになった宇野君が挨拶を済ませる。
「僕◯◯でバイトしてたんで、タコ焼き焼けますよ」
某チェーン店のタコ焼き屋でバイトをしていた経験があった宇野君。これは頼もしい。渚さんもさぞかしご満悦だろう。
宇野君のタコ焼き焼ける宣言が終わると、渚さんが口を開く。
「ちゃうねん、ちゃうねん、ちゃうねん。あそこのタコ焼き硬いやろ。そんなんちゃうねん。うちな、柔らかい奴が好きやねん。ちゃうねん。柔らかいの作って」
すっごい、ちゃうかった。
初対面の先輩に、いつも作っていたのとは全然ちゃう、柔らかいタコ焼きを作るハメになった宇野君。でも、流石経験者。身長は2桁まで縮み、35センチになってしまった小さな小さな体で、ダマにならない様に粉を混ぜて、水の分量を多めにして柔らかい生地を作り、手際良く焼いていく。
「生地少なない?」
「水少ないんちゃう?」
「卵入れた? 卵少ないんちゃう?」
全部少ないと思っちゃう、何もしない渚さんの邪魔くさい野次も華麗にかわし、綺麗なタコ焼きを焼き上げる宇野君。
「うま! タコがコリコリしてんなあ。生地がええなあ。めちゃくちゃ旨いわ!」
食べたらもう今までの野次は無かった事になるシステムらしく、渚さんは満足気にタコ焼きを頬張っていた。
ちなみに渚さんは、終始タコが旨いタコが旨いと言っていたけど、スーパーのタコが売り切れていたから、それはイカでした。
今宵も、夢追い酒場にて
やさぐれ女芸人、初の著書は「芸人×お酒」の笑いに満ちた酔いどれエッセイ!
酒好きはもちろん、下戸でも愉快に。おつまみ気分で楽しめる1冊、ぜひお召し上がりを。
大酒飲み、ヘビースモーカーなやさぐれキャラとして大注目の、お笑い男女コンビ『納言』のみゆき。味のある文章を書くことでも話題をよび、このたび満を持して初の著書を上梓! 本書は、みゆきの日常に欠かせない「芸人×お酒」の2つを合わせた酔いどれエピソードを収録。オズワルド、インディアンス、ジェラードン、空気階段といった同じ第7世代との酒場交流。さらに、カズレーザー、尼神インター渚、バイク川崎バイク、トレンディエンジェルたかしら愛すべき先輩芸人との抱腹絶倒飲みエピソードも。一方で、かつて挫折した役者の夢、今は会えないあの人への想い、普段は口にしない相方への思いなど、酔いにまかせた意外な本音も綴っている。