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なぜ理系に女性が少ないのか

2024.06.27 公開 ポスト

女性に機械工学は向かない? 学問についたジェンダーイメージ横山広美

OECD(経済協力開発機構)諸国で、日本は最も理系女性が少ない国。女性学生の理科・数学の成績は世界でもトップクラスなのに、なぜ理系を選択しないのでしょうか。

緻密なデータ分析から日本の男女格差の一側面を浮彫りにする幻冬舎新書『なぜ理系に女性が少ないのか』より、一部を抜粋してお届けします。

「女性は看護学向き」「男性は機械工学向き」というイメージ

「あの学問は女性向き」「この仕事は男性向き」といったイメージ・思い込みが存在することは、多くの人が実感するところだと思います。そして、これらのジェンダーイメージが、女性が理系に進学する際の障壁となっている可能性があります。

ところが、日本では、というより世界的に見ても、これまで学問分野がどのようなジェンダーイメージを持っているのかを調べた研究はありませんでした。

そこで、私たちは、数学や物理学をはじめとした科学分野へのジェンダーイメージを数値化したいと考えました。併せて、それらのジェンダーイメージが「就職」に及ぼす影響、「結婚」に及ぼす影響についても考えるために、それぞれデータを取りました。ここまでがこの研究の第1段階です。

さらに第2段階として、第1段階で得た結果が、個人のジェンダー平等度とどういう関係にあるかについても、調査したいと思いました。

大学で講義を受ける男女の写真

まずは第1段階の最初のテーマ、学問分野そのものにはどのようなジェンダーイメージがあるか、についてです。

私たちが行った調査は以下のようなものです。

オンラインで、20歳から69歳までの男女1086名(男性541名、女性545名)を対象に、次の2つの文言を提示します。

  • 〈〇〇〇〉は女性に向いている
  • 〈〇〇〇〉は男性に向いている

〈  〉には、STEMを含む18の学問分野名(数学、化学、物理学、機械工学、情報学、生物学、農学、地学、医学、歯学、薬学、看護学、法学・政治学、経済学、社会科学、人文学、音楽、美術)が入ります。

18分野の学問それぞれに対して、5段階(「まったくその通りだと思う」「まあそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「ぜんぜんそう思わない」)で回答してもらう形式です。

全回答の平均を出した調査結果は、次のようになりました(※1)。

「女性に向いている」と思われている分野では、看護学は、実際に女性が多い分野で、半分以上の人が「まったくその通りだと思う」「まあそう思う」と答えています。「ああ、やはり」との思いを強めました。

最も女性に向かないと思われている分野は、機械工学でした。

学問の「性別のイメージ」が就職にも影響

学問や学びにジェンダーイメージがあること自体、議論するに値するテーマだと思いますが、「看護学は女性」「機械工学は男性」というイメージが実際に強いのだ、ということを再認識しました。

それらのイメージは当然、職業と結びついていると想像されます。看護学科であれば看護師、薬学部であれば薬剤師です。

 

「女性に向いている」と思われている分野は、看護学の次は薬学、音楽、美術と続き、その後に歯学、医学が来ます。音楽や美術の世界は、女性学生が多いにもかかわらず、社会的に活躍するチャンスは女性のほうが大きく削がれていると言われます。

商学・経済学よりも、美術や音楽のほうが女性に「向いている」と思われているという点も、特徴的だと思いました。社会科学や法学・政治学がそれよりさらに下位なのも、女性政治家の少なさと合わせて考えると、合点がいくところです。

この調査は日本だけで行いましたが、アンゲラ・メルケル首相が長く在任したドイツや、ロシアのウクライナ侵攻が進む中でNATO入りを決定したサンナ・マリン首相率いるフィンランドで調査すれば、また違った結果が出ることでしょう。

「女性に向いている」と思われている分野で、物理学は下から2番目でした。数学は下から4番目で、両方とも化学よりも低い結果です。

また、あまりにも歴然としていて驚いたのは、女性に最も向かないイメージとされた機械工学が、男性では最上位になっていることです。

機械工学と言えば、まずは自動車産業が思い浮かびます。日本を代表する製造業です。企業自身は、女性技術者を求めているとも耳にしますが、圧倒的な男性イメージが女性技術者を採用・育成するのに障壁となっていることは推測されます。

男性と比較して相対的に背が低く力が弱い女性でも使いやすい機器や、子育て中の人が子どもを抱っこしながらでも作業ができる機器の開発は重要です。最近は、健康に関する女性特有の問題を解決するフェムテックという分野にも注目が集まっています。

「女性ならではの視点」は必要?

これらの技術開発に女性が関わることが必須だと思いますが、一方で、「女性ならではの視点」といった、一見女性に配慮した言葉の背景に、男女差別や役割分担意識が刷り込まれていないかは、注意して見ていく必要があります。

少し前まで、年配の経営層は、「女性ならではの視点を活かし」といった言葉をよく口にしていました。女性の登用はもちろん大事なことですが、家事や育児は女性の役割、だからそれらには「女性ならではの視点」を盛り込むといった、性役割分担意識を強化するような進め方には問題があります。

もっとも、最近は家電メーカーのCMでも、男性か女性かに特化せず、家族が一緒に家事をこなし生活をするシーンが主流になりました。

 

※1 Ikkatai, Y., Minamizaki, A., Kano, K., Inoue, A., McKay, E. and Yokoyama, H. M.(2020 a). ‘Gender-biased public perception of STEM fields, focusing on the influence of egalitarian attitudes toward gender roles’. JCOM 19 (01), A08. https://doi.org/10.22323/2.19010208

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この続きは幻冬舎新書『なぜ理系に女性が少ないのか』をご覧ください。

関連書籍

横山広美『なぜ理系に女性が少ないのか』

大学・大学院など高等教育機関における理系分野の女性学生の割合は、OECD諸国で日本が最下位。女子生徒の理科・数学の成績は世界でもトップクラスなのに、なぜ理系を選択しないのか。そこには本人の意志以外の、何かほかの要因が働いているのではないか――緻密なデータ分析から明らかになったのは、「男女平等意識」の低さや「女性は知的でないほうがいい」という社会風土が「見えない壁」となって、女性の理系選択を阻んでいるという現実だった。日本の男女格差の一側面を浮彫りにして一石を投じる、注目の研究報告。

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なぜ理系に女性が少ないのか

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緻密なデータ分析から日本の男女格差の一側面を浮彫りにする幻冬舎新書『なぜ理系に女性が少ないのか』より、一部を抜粋してお届けします。

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横山広美

1975年東京都生まれ。東京理科大学理工学研究科物理学専攻・連携大学院高エネルギー加速器研究機構・博士(理学)。博士号取得後、専門を物理学から科学技術社会論に変更。現在は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長・教授。東京大学学際情報学府文化・人間情報学コース大学院兼担。科学ジャーナリスト賞(2007)、科学技術社会論学会柿内賢信記念賞奨励賞(2015)、東京理科大学物理学園賞(2022)を受賞。

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