1. Home
  2. 社会・教養
  3. キリスト教の100聖人
  4. 十二使徒には補欠がいた!? ユダの後釜に...

キリスト教の100聖人

2024.07.09 公開 ポスト

十二使徒には補欠がいた!? ユダの後釜にくじで選ばれたマティア島田裕巳(作家、宗教学者)

キリスト教の「聖人」たちを8つのパートに分けて列伝化した幻冬舎新書『キリスト教の100聖人』。歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれるこの画期的な一冊から、一部を抜粋してお届けします。

十二使徒とは?

新しく宗教が生まれるとき、最初の時点では、新たな教えを説きはじめた開祖、創唱者しか存在しない。だが、それをもって宗教の誕生と言えるかどうかは疑問である。開祖の説きはじめた教えを信じる者、つまりは信者が誕生しなければ、本当の意味で宗教が生まれたとは言えない。信者が生まれることで、それぞれの宗教は拡大していくきっかけを得ることができる。

その際に、どの宗教においても、弟子という存在は重要だ。儒教の『論語』は、孔子が弟子に語ったことばが中心になっている。仏教の釈迦にも十大弟子がいて、彼らが師といかなる関係を結んだのかが仏典につづられている。

イエスには、12人の弟子がいて、彼らは「十二使徒」と呼ばれる。使徒は、キリスト教の信仰を広める上で重要な貢献をしたことになるが、その姿は福音書や使徒言行録に記されている。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作「最後の晩餐」

ただ、これから見ていくと分かるが、十二使徒のなかにはただ名前があげられているだけの人物も少なくない。そこからは、12人の使徒がいたということが重視され、個々の使徒についてはさほど情報がなかったことが分かる。

もちろん、ペトロやヨハネのように、重要な使徒もいる。また、その言動がほとんど伝えられていない使徒についても、後世にさまざまな伝説が生み出されている。使徒が実際にどのようなことをしたのかよりも、むしろ伝説に大きな価値がおかれていたりする。

 

これは聖人全体について言えることで、それぞれの聖人がどのような生涯を歩んだかよりも、伝説として語られたことの方が決定的な重要性を持つ。だからこそ聖人が崇敬の対象になるということが少なくないのである。

そうした伝説の集大成が『黄金伝説』ということになるが、他にも聖人にまつわる伝説はいくらもある。そこに聖人崇敬の基盤がある。

 

伝説に描かれることは、歴史上の事実というわけではない。それは創作されたもので、架空の出来事であることがほとんどだが、信者たちはそれを事実として受け入れていく。したがって、聖人崇敬の世界は、数々の伝説によって彩られている。今日の合理主義の観点からすれば、迷信とも言えるが、そうした伝説が人々の信仰に大きな影響を与えたことは否定できないのである。

補欠の聖人マティア

マティアは、十二使徒の補欠のような存在である。

十二使徒のなかには、もともとイスカリオテのユダが含まれていた。ところが、よく知られているように、ユダは師であるイエスを裏切る。それによってイエスは十字架にかけられて処刑されてしまうのだ。

ユダが使徒になった経緯は語られていないが、裏切りには金がからんでいる。「ヨハネ」によれば、ユダはイエスの集団の会計係をしていたが、その金をごまかしていたとされる。「マタイ」では、さいちようのもとに赴いたユダは「あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか」と尋ね、銀貨30をせしめている。

裏切りの対価として銀貨30枚を受け取ったユダ(János Pentelei Molnár, Public domain, via Wikimedia Commons)

よく知られているのは、イエスが最後の晩餐の席で、ユダが裏切ることを予言する場面である。「マルコ」によれば、イエスは使徒たち一同が席につくと、「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人で、わたしと一緒に食事をしている者が、わたしを裏切ろうとしている」と言い出す。これによってイエスは、ユダの裏切りを予告したのだ。

ユダが、祭司長や群集を引き連れてイエスのもとへやってきたとき、イエスが誰かが分かるように接吻する。これは印象的な場面である。マタイでは、イエスに有罪判決が下ると、ユダは後悔し、金を返そうとするが、それを拒まれ、銀貨を神殿に投げ入れ、首をくくって死んだとされる。使徒言行録では、地面にまっさかさまに落ち、体が真ん中から裂け、はらわたが出て死んだともされる。

 

これは裏切り者がいかに過酷な報いを受けるかを示しているが、ユダがこうした悲惨な死をとげたことで、十二使徒が11人になってしまった。そこで使徒たちは、ユダの代わりを選ぼうとする。そこでは、イスラエルの十二支族のことが意識されていた。

使徒言行録によれば、新たな使徒の候補者となったのは、一人はバルサバと呼ばれユストともいうヨセフで、もう一人がマティアだった。どちらを選ぶかくじを引くことになり、マティアがあたった。くじとは安易な方法にも思えるが、古代の社会全般では、くじによって神意が分かるとされていた。ただし、その後マティアがどう活躍したかは述べられていない。エルサレムで殉教したという伝承もある。

*   *   *

続きは幻冬舎新書『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』でお楽しみください。

関連書籍

島田裕巳『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』

宗教では聖人と呼ばれ崇められる人物がいる。キリスト教の信仰世界では、〈神と神の子イエス〉はその絶対性ゆえに一般の信者からは遠い存在であるため、両者の間で、信者の悩みや問題を解決する存在として聖者が浮上する。本書では、聖者たちを、イエスの家族と関係者、12人の弟子、福音書の作者、殉教者、布教や拡大に尽力した者、有力な神学者や修道士、宗教改革者など8つのパートに分けて列伝化した。数多の聞き覚えのある名前を手がかりに、歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれる画期的な一冊。

{ この記事をシェアする }

キリスト教の100聖人

宗教では聖人と呼ばれ崇められる人物がいる。キリスト教の信仰世界では、〈神と神の子イエス〉はその絶対性ゆえに一般の信者からは遠い存在であるため、両者の間で、信者の悩みや問題を解決する存在として聖者が浮上する。本書では、聖者たちを、イエスの家族と関係者、12人の弟子、福音書の作者、殉教者、布教や拡大に尽力した者、有力な神学者や修道士、宗教改革者など8つのパートに分けて列伝化した。数多の聞き覚えのある名前を手がかりに、歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれる画期的な一冊。

バックナンバー

島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP