30代にして、『大悟の芸人領収書』(日本テレビ系列)、『だれかtoなかい』(フジテレビ系列)、『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系列)、を担当している大人気の若手放送作家・澤井直人さん。人気放送作家へと昇りつめた澤井さんは、日々どのように企画を生み出しているのでしょうか。
若手放送作家のみならず、企画を生み出す仕事に就いた、多くの若手に読んでいただきたいコラムです。
* * *
放送作家とテレビディレクターの企画遊び
お台場・フジテレビでの『だれかtoなかい』の定例会議終わり。会議室の対角線に座っているディレクターの新井田さんと目が合った。
「ちょっとお茶でもします?」と聞かれたが、後ろの会議が流れたということもあり、サウナに行こうと目論んでいた僕は「もしお時間あるならサウナ行きませんか?」と強引に誘導する。すると「僕も実はこの後あいているので是非!」と新井田さん。大井町まで一緒に移動し、おふろの王様へ向かった。
放送作家とディレクターのサシでサウナに来たら、ずっとやってみたかった遊びがあった。
『サウナ3セット企画会議』
これはサウナ室の前で企画のお題を発表し、サウナ室の中でそれぞれが企画を考え、水風呂を経由して、外気浴のブレイクタイムで企画を発表するという遊び。基本、サウナに行くとサウナ→水風呂→外気浴のルーティーンを3セットするので、この流れでいけば、整いながら計6個の企画ができるのだ。
今回は、
❶どぶろっくさんの冠番組 ❷子ども番組 ❸道徳番組
の3つのお題で企画会議をした。
やってみると案外集中できた。サウナ室は元々静かで集中できる空間であるし、中にいられる時間に制限があるというのもこの遊びとの相性が良いのだろう。汗と共にアイデアを絞り出し、僕たちは目標通り、6つの企画案を生み出すことができた。
山の手線で企画遊びがしたい
他にもまだまだやってみたい企画会議はある。例えば、
『山手線一周会議』
その名の通り、山手線を一周(約60分)している間に企画を考え、戻ってきた駅の喫茶店で案を発表し合うという遊びである。普段、デスクでPCに向かっていても企画が全く浮かばないことがあるが、景色が変わったり、目の前に大都心の人が流動的に行き来するので、着想のヒントに出逢える確率はぐんと上がる。
僕は、常日頃から会議に向かう電車の移動中に企画のメモを溜めるようにしている。LINEに『ひとりメモ』という僕しか入っていないグループを作って、そこにバンバン打ち込んでいる。もし僕と同じようなことをしている放送作家やディレクターがいたら、ぜひ『山手線一周会議』にお誘いしたい。
ちなみに、過去に湘南まで『企画会議海水浴』をしに行ったこともあるが、遊ぶだけで終わってしまった。娯楽は基本いれ過ぎない、拘束時間は短く、というのが僕の中での鉄則である。
頭を悩ませながら2時間も3時間もPCと向かい合っても、良い企画は生まれない。企画を出すことに疲れた、良い企画が出てこない、と感じたら絶対に環境を変えるべきだ。
0から企画を考えるときに重要なこと
長年企画を生み出す仕事をやってきて、気付いたことがある。
ゼロイチ企画会議はマンツーマンでやる方が良い
ディレクター1人に対して、放送作家が2人以上いる企画会議は多い。これはディレクターにとって効率の良いやり方だ。まとめて複数の放送作家の案を見ることができるし、企画数を増やすことができるから。忙しい放送作家の先輩が後輩に企画書を書いてもらう為に、この体制をとることも多い。
ただ、僕の場合はディレクター1人と放送作家1人のマンツーマンで企画会議をやった時の方が圧倒的に打率が高い。おそらくこれは、「自分にベットしてくれているという思いへ応えたい」という責任感と、1つの企画案に対して深掘りできる時間が増えるからなのだろう(企画書も自分で書けるので、書いてくれる人をマストで呼ぶ必要もない)。
もし用意していた企画が刺さらなくても、残りの時間を使って絞り出せる時間が生まれる。僕も自分で考えてきた企画書が刺さらなかった後の企画会議で『逆転絞り出しホームラン』を打ったケースの方が多いかもしれない。
他にも学んだことはある。最近やって分かったのは、「優秀なリサーチャーさんを企画会議に混ぜると、企画書のクオリティが確実に上がる」ということ。リサーチャー(テレビ番組やWeb番組、CMなどを制作するために、ネタとなる情報を集める職業)は番組が決まってから参加するケースが多いが、実は企画書では情報や実例が追加点になることがよくある。企画自体は面白いのに、「具体例が弱い」「実際にネタはあるの?」と突き返され、流れた企画も腐るほど見てきた。
好意にしているリサーチャーさんも「企画会議から番組を作りたい」とおっしゃっていた。リサーチャーがいる、というのはテレビ業界ならではかもしれないが、若手の放送作家には是非、リサ―チャーさんと企画を作ることをおすすめする。
放送作家になって初めて通してもらった企画
今日も、過去に作った企画をひとつ紹介する。
『なれぞめザペアレンツ』(日本テレビ 2016年)
芸能人が自分の両親のなれそめを辿る親子旅に出るロケ番組だった。テレビ放送作家になって一番最初に通してもらった思い入れのある企画だ。
当時、日本テレビに入社したての同じ歳の局員・須原君と一緒に考えた(今では、ゴールデンの人気番組を演出をするディレクターになっている)。昔あった深夜帯の『ネクストブレイク』という若手局員が企画を試せる枠で1回、その後に、『サンバリュ』という今も続いている日曜日のお昼の特番枠で1回放送した。
アイデアのきっかけは、両親が写っているアルバムをペラペラめくってみたことだった。
僕が生まれてからの両親とのドラマはもちろん知っているけど、“僕が生まれるまで”の両親のドラマは知らないよな?
両親はどんなデートコースで愛を育んでいたの? どんな会話をしたの? プロポーズはどこでしたの? 結ばれるまでに葛藤はなかったの? 照れくさいけど、父親役になって歩いてみたいな、という好奇心にかき立てられた。
その素直な感情を、企画書の2枚目に熱量いっぱいに書き込んだら、企画が通った。
出演者はオリエンタルラジオの藤森さん。藤森さんのご両親の思い出の場所をお母様と一緒に巡っていただいた。ロケでは、藤森さんが知らない『ご両親のなれそめクイズ』も組み込んでいった。
Q:初デートの場所はどこでしょう?
Q:どのようにプロポーズされたか?
などなど
ご両親のなれそめを知る藤森さんのリアクションが凄くリアルで嬉しかった。
旅も終盤に差し掛かるとき、藤森さんのお母様が子育て中の苦労を思い出し、涙するシーンがあった。
家族を見つめ直す時間や空間を、企画を通して作り出せたことに胸が熱くなった。「今後も”人”に寄り添える番組を作っていきたい」と、そう思った。
8年前のあの頃、「絶対自分の企画をテレビで通す!」と熱い信念でテレビ局に遅くまで残って企画書を書いていたことを思い出す。
だからこそ、最初に企画が通ったときは全力でガッツポーズをしていたし、OAもテレビの前にかぶりついて見ていたし、エンドロールの写真を撮ったりもしていた。おそらくあの新鮮な気持ちは、20代のあの頃にしか湧いてこないだろう。
これから若手放送作家になろうとしている20代がいるならば、若手の(同じ歳くらいの)局員さんを探して、マンツーマンで企画会議をすることをおすすめしたい! 僕はそのおかげで、須原君と出逢うことができた。
放送作家は一人でやるものじゃない。企画はPCと向き合って考えるものじゃない。企画を生み出す環境は自分で作り出すものだ。
放送作家・澤井直人の「今日も書く。」
バラエティ番組を中心に“第7世代放送作家”として活躍する澤井直人氏が、作家の日常のリアルな裏側を綴ります。