推理作家協会賞受賞作家が、元総理銃撃事件をモチーフに描いた衝撃サスペンス。6月19日刊行予定、柴田哲孝さんの新作小説『暗殺』の発売に先駆けてその序文を特別公開します。
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序文
二〇二二年七月八日――。
時刻は午前一一時三一分と記録されている。
日本の、元内閣総理大臣が奈良県の近鉄大和西大寺駅前で演説中に凶弾に倒れ、死亡した。享年六七だった。
絶対に、起きてはならない事件だった。
おそらく日本の近代史において、国の内外にこれほどの政治的な偉業を成し遂げ、国民に愛され、世界に信頼された首相は他にいなかっただろう。
日本のみならず全世界に衝撃が疾り、国民は動揺と共に悲しみに暮れた。
この事件には不審なことが多い。
遺体から致命傷となった銃弾が消えてしまったにもかかわらず、警察は深く調べることもなく捜査を打ち切った。なぜなのか――。
しかも三カ所の銃創の中には、壇上に立つ被害者を低い位置から撃った凶漢によるものとは別に、逆方向の高い位置から右前頸部に着弾したものがあった。この単独犯では有り得ない解剖所見を警察は無視し、事実を握り潰した。なぜなのか――。
政府要人暗殺という重大事件であるにもかかわらず、警察による現場検証は事件の五日後まで行なわれなかった。なぜなのか――。
事件のすべてを知る唯一の人物、四一歳の狙撃犯の男はその場で取り押えられ、警察の管理下に置かれた。だが、動機や事実関係がほとんど明らかにされぬまま鑑定留置がなされ、以後の情報はおよそ半年間にわたり遮断されてしまった。
なぜなのか――。
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暗殺
元総理が凶弾に倒れ、その場にいた一人の男が捕まった。
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日本を震撼させた実際の事件をモチーフに膨大な取材で描く、傑作サスペンス。
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