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ヤクザに学ぶ交渉術

2024.08.05 公開 ポスト

相手にとことん喋らせる 口下手でも主導権を握るヤクザの裏技山平重樹

理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……。さまざまなテクニックを駆使する「ヤクザ」の交渉術は、意外や意外、ビジネスパーソンにも参考になる部分が多々あります。そのテクニックを豊富な実例とともに紹介するのが、裏社会の事情にくわしい山平重樹さんの『ヤクザに学ぶ交渉術』。読めばこっそり試したくなる本書から、一部を抜粋してお届けします。

弁が立つヤクザは少ない

掛けあいというのは、弁が立つ者、口の上手い者ほど有利で、くちな者はダメということになるのだろうか。

一見すると、それは真理のようにも見受けられるのだが、

「いや、必ずしもそうではない。だいたいヤクザ者に弁が立つ人間なんてあんまりいませんよ。逆に喋るのはまったく苦手で口下手という人のほうがはるかに多いですよ。

ヤクザは昔からよけいなことは喋るもんじゃないと教えられてきて、それが代々この世界の伝統になってる。いまは変わってきてるかも知れないけど、昔はヤクザ者でおしゃべりなヤツはバカにされるというか、貫禄を疑われた。とくに九州のほうじゃ、口の上手い人間は“アゴが立つ”といって、いまひとつ信用されないというふうにも聞く。

それに口下手なヤクザが、こと掛けあいとなったら、まるで別人になってね、相手を圧倒して一歩も引かないなんてケースはよくありますよ。ヤクザの世界じゃ、掛けあいと口の上手い、下手は、あまり関係がないんだね」(関東の組関係者)

それはたとえば、こと喧嘩の掛けあいとなったら天下一品、その右に出る者がいなかったといわれるほどすごかった“赤坂の天皇”こと住吉会の浜本政吉親分でも、普段は決して弁が達者ということはなかったという。

 

あるいはまったく無口でとつべん、おまけにこみいった話をするときにはつっかかってしまうようなヤクザ者が、掛けあいとなると、これが同一人物かと思われるくらいりゆうちような啖呵に変わってしまう者もいるというから不思議である。

「やっぱり掛けあいというのは、喋りの上手い下手じゃなくて、胆力、気合いでもあるし、なんでもそうだけど、場慣れでもあるんですよ。

パッとすわった瞬間、威圧感じる男というのはいるんですよ。こりゃ、手ごわいな、と。兵隊をたくさん連れてきてるからじゃなくて、その人間自体が場慣れしてるんですよ。

弁の立つヤツ、口の達者なヤツというのは、関西の人間に多いんだけど、別に彼らが手ごわいとは思わないし、私はちゃんと彼らの攻略法も持ってるから」

とは関東の広域系三次団体組長だ。

口の達者な相手にはとことん喋らせる

彼らはとくに二対八ぐらいの分の悪い掛けあいのときに出てくることが多く、得意の弁舌でまくしたて、二対八を五分五分にまでひっくり返そうと目論むのだという。しかも、八の分の悪い話にはいっさい触れず、自分たちの十のうちの二しか正当性のない話ばかり繰り返すことになる。

「そやからな、この件はこうでっしゃろ。そしたらこうなりまんがな。わかりますやろ……」

うんぬんとそのことを話し続けることになるという。

「だいたい口が達者だと思ったら、相手にいいたいことをいわせるんです。黙って聞いておく。で、相手にあわせる。そう、そう、そうです、その通り、おたくのおっしゃる通りです、と。相手の周波数にも心理にもあわせる。こっちが口が上手い必要は少しもない。むしろ、聞き上手になってやる。相手にいかに喋らせるかということですよ」

要は相手と同じ土俵にあがらないということが肝心なのだ。

 

組長が続ける。

「あくまで十のうち二分のいい分しかないんだから、時間にして十分もない。壊れたレコードみたいにリピート、リピート。その二分をずっと喋り続けてるだけ

口の達者なヤツといいあいをしちゃダメ。こっちのちょっとした言葉のミステークで、あげ足とられるからね。関西系の場慣れしてるヤツは、そういうところ冷静に判断して、パッパッとあげ足とることばかり考えてますよ。だから、こっちは喋らずに相手にいわせる」

それでも、そうそう、その通り、おたくのいう通りです──なんてことを続けているうちに、さすがに相手も気がついて、

「ワリャア、おちょくってるのか!」

と怒りだす者も出てくるという。

そうなったらしめたもの、逆にこの組長のペースになるというから、前節のA組長と似ていよう。そのときこそ、ここぞとばかりにバーンと逆襲にうって出るというのだ。

「あんた、喧嘩しにきたのか、ゼニとりにきたのか、話しあいにきたのか、どっちなんだ。話しあいだっていうからオレはこうやってきてるんですよ。それを『おちょくってるのか!』なんていうんだったら、喧嘩売りにきたことになりますよ。だから、もうおたくは黙っていたほうがいいんじゃないの」

ここに至って、十のうち二分あった相手の理も、粉々にくだけ散ってしまうわけである。

 

「相手に全部喋らせて、こっちは物をいわないとなると、何を考えてるかわからないから、連中はマニュアル通りにいかなくなるんだね。

彼らは交渉ごとにマニュアルを持ってるんですよ。関西系の弱いところは、ハンドルを握ってうまくいってるときは操縦うまいんだけど、いったん操縦不可能になるとどうにもならなくなる。彼らにいかに自分らの心理・心境を読まれないようにするか。いいあいしちゃダメですよ」(前出の組長)

掛けあいによっては口下手で無口な者のほうがグンと有利に事が運ぶケースが出てくるわけである。

*   *   *

この続きは幻冬舎アウトロー文庫『ヤクザに学ぶ交渉術』でお楽しみください。

関連書籍

山平重樹『ヤクザに学ぶ交渉術』

ヤクザにとって交渉は命を賭けたもうひとつの抗争だ。絶対的不利の状況から大逆転を図り、黒を白と言いくるめる、その圧倒的な交渉術を支えるものとは? 理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……様々なテクニックを駆使する交渉流儀には隠された秘訣があった! ヤクザ社会に精通した著者が書き下ろす現代人必読の実用的エッセイ。

山平重樹『ヤクザに学ぶサバイバル戦略』

先見性、柔軟性、即応性……、できる男の条件は多々あれど、生き残りを賭けた戦いを日常において繰り広げているヤクザたちの戦略ほど、ビジネス社会で必要なことはない。リーダーシップ、錬金術、逆境の乗り切り方など、不況の泥沼でもがくビジネスマンにひとつの道標を示す現代人必読の実用的エッセイ「ヤクザに学ぶ」シリーズ第五弾。

山平重樹『激しき雪 最後の国士・野村秋介』

平成5(1993)年10月20日、朝日新聞社役員応接室で野村秋介は2丁拳銃の銃弾3発で心臓を貫き自決した。何故か? 人生を決定した特攻隊員との8歳の出会いから、偉大な父の影響、青春時代、幅広い交遊、口先でなく肉体で行動する思想、河野一郎大臣邸焼き打ちほか数々の事件の真相まで、最も近しい作家が書き尽くした民族派巨星の劇的人生!

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