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ヤクザに学ぶ交渉術

2024.08.19 公開 ポスト

ヤクザの交渉は場所選びから 企業幹部と「玄関ホール」で交渉した経済ヤクザM氏山平重樹

理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……。さまざまなテクニックを駆使する「ヤクザ」の交渉術は、意外や意外、ビジネスパーソンにも参考になる部分が多々あります。そのテクニックを豊富な実例とともに紹介するのが、裏社会の事情にくわしい山平重樹さんの『ヤクザに学ぶ交渉術』。読めばこっそり試したくなる本書から、一部を抜粋してお届けします。

交渉は場所選びから始まっている

経済ヤクザとしてつとに名を馳せる広域系三次団体組長のM氏。

「交渉というのは、どこで行なうかという、最初の場所選びの段階からすでに始まっているもんなんだ」

とM氏はいう。

企業との交渉で、M氏たちが3人ほどで相手側の会社に乗りこんでいったときのことだ。

「どんな内容の交渉だったか、いまとなっては忘れたが、それは圧倒的にわれわれに有利、企業側には不利な交渉だったわけだよ。企業にすれば、申し開きの余地もないような失態でね」

当然ながら、M氏たちは応接室に通され、会社の偉いさんたちが応対に出てくるわけである。

そこでM氏はハタと考えた。

〈待てよ。会社の応接室というのは、いわば密室だ。こんな自分たちのほうが圧倒的に正しく、誰が考えても悪いのは企業だという交渉ごとに、密室を使うという手はないわな。

それでなくても、世間じゃわれわれのほうが悪者で通ってるんだ。こういう状況じゃ、分のいい話も悪くなってしまう。あとでこいつらに、右翼やヤクザに脅かされたって、ありもしないことをでっちあげられてもかなわんしな……よし、ここはガラス張りの交渉というもんをやろう〉

 

M氏はさっそくその考えを企業側に申し出た。

「どうですか、われわれとすれば、密室でこそこそ話したくない。いっそ下の受付け前のホールで話しあいませんか。誰に見られようが、誰に話を聞かれようが、やましいことはひとつもありませんから」

「えっ、あそこでですか」

M氏の提案に、企業のお偉いさんたちは少なからず意表を突かれたようだった。

そこは、会社を訪ねてくる客が必ず通る、人の行き来が最も激しい場所であった。

「そうですよ。構わないでしょ」

M氏は有無をいわせなかった。すでに応接室を出てそこへ向かおうとしている。

あえて人目につく場所で交渉した結果…

企業側にすれば、

「いや、あそこでやるわけにはいきません」

と拒否したいのは山々だったが、それをできないところが、交渉は端からM氏側のペースで進められていることを証明していた。

※写真はイメージです

さて、会社のお偉いさんたちと、いかにも裏社会の住人にしか見えない、怖そうな連中がゾロゾロ目の前に現われたのを見て、まずびっくりしたのは受付嬢であった。

一行はホールの目と鼻の先のソファーにすわって、何やら話しあいを始めだした。

 

その様子は、そこを通る社員や来客たちには、嫌でも目につき、みなが、

いったい何ごとだろう?

と興味津々といったふうに、それでも恐々とうかがいながら通りすぎていく。

なかには立ち止まって眺め、聞き耳をたてる好奇心の旺盛な者もいた。

それはどう見ても話しあいという様子ではなく、ガラの悪い、怖いお兄さんたちに企業側がさんざんやりこめられ、頭をさげているという図にしか見えなかった

事実、その通りであったわけだが、会社のお偉いさんたちにすれば、針のムシロである。

来客の目に、この場の情景がどう映っているかと思うと、気が気でなかった。

〈何だ、この会社は。あんなヤクザみたいな連中に脅かされて、ペコペコ頭さげて、そんなに何か良からぬことをしてるのか?〉

というふうに見られているとしたら、社会的信用はガタ落ちであった。

 

「わかりました。そちらさまの納得するような形でやらせていただきますので、どうか今日のところはひとつこのへんで……」

追いつめられた会社側は、一刻も早くこの状況を終わらせたかったから、ほとんど相手のいいなりに話を進めるしかなかった。

M氏にすれば、してやったり──といったところで、内心でかいさいを叫んだのだった。

作戦勝ちであろう。

*   *   *

この続きは幻冬舎アウトロー文庫『ヤクザに学ぶ交渉術』でお楽しみください。

関連書籍

山平重樹『ヤクザに学ぶ交渉術』

ヤクザにとって交渉は命を賭けたもうひとつの抗争だ。絶対的不利の状況から大逆転を図り、黒を白と言いくるめる、その圧倒的な交渉術を支えるものとは? 理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……様々なテクニックを駆使する交渉流儀には隠された秘訣があった! ヤクザ社会に精通した著者が書き下ろす現代人必読の実用的エッセイ。

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