ものごとを数字で把握し、論理的に伝える……。文系ビジネスパーソンにも、「数学的スキル」が必要であると言われるようになった昨今。ロングセラー『数学的コミュニケーション入門 「なるほど」と言わせる数字・論理・話し方』の著者として知られる深沢真太郎さんは、「数学のようにコミュニケーションしましょう」と提唱します。それはいったい、どういうことなのか? ご本人にくわしくうかがいました。
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「数学的コミュニケーション」とは何か?
──『数学的コミュニケーション入門』の出版から7年がたちました。当時と比べて、ご自身の中で何か変化はありましたか?
私が提唱してきた「ビジネス数学」のゴールがなんなのか、はっきりしてきたと思います。7年前は、「データを使いましょう」「計算がちゃんとできるようになりましょう」「論理的に数字を使って考えましょう」というように、「思考」がテーマのコンテンツだと思っていました。
ところが、現場で働いている人たちとお話ししているうちに、彼らが求めているのは思考ではなく「コミュニケーション」だとわかってきたんです。
たとえば、社長にプレゼンをしたり、お客さまの合意を得たり。仕事という営みは、最終的には必ずコミュニケーションをしなくてはなりません。だから、みんなそこで悩むわけです。
ビジネス数学というコンテンツも、ビジネスパーソンのコミュニケーションに作用しなくてはいけない。ゴールはそこなんだよな、というのがはっきりわかった7年間でした。
その意味では、7年前に『数学的コミュニケーション入門』というコンテンツが生まれたのは素晴らしいことだなと。ものすごく本質的な内容の1冊なんだろうなと、今でも思っています。
──「数学的コミュニケーション」とは、そもそもどんなものなのでしょうか。
すごく簡単に言うと、「数学のようにコミュニケーションしましょう」ということです。「数学のように」というのは、ムダなく、最短距離で、正しそうに、という意味です。
──「正しい」ではなく、「正しそうに」なんですね。
学校の勉強では、「正しく」論じることができましたよね。なぜなら、数学の計算問題や証明問題には、唯一の正解があるからです。
ところが、私たちが生きているビジネスパーソンの世界は、何が正しいのかわかりません。もしかしたら、「正しい」なんて存在しないのかもしれない。だから、「これが正しいです」ではなく、「これが正しそうです」というのが大事なんです。
仕事をうまくやっている人って、正しいことをしゃべっているのではなく、ものごとを「正しそうに」しゃべっているんですよね。これってすごく微妙なニュアンスで、なかなか伝わりにくいんですが……。
しゃべっていることが正しいかどうかなんて、誰にもわからない。でも、「あいつの言うことって、なんか正しそうなんだよな」と思わせることはできる。これはビジネスパーソンが欲しいスキルなのではないかと思います。
「数学的」よりも大事なものがある
──本書の第4章では、「話し方」についてもくわしく論じていらっしゃいますね。
私には、お手本だと思っている話し方があります。それは、「わかりやすい授業をする数学の先生」です。
なぜお手本なのかというと、まず説明が論理的であること。これは当然で、数学の先生が論理的でなかったら大変ですよね。
さらに、本当にわかりやすい授業ができる先生は、たとえが上手なんです。たとえば、分数の計算を教えるときに、ピザやケーキに置き換えて説明してくれる先生はいませんでしたか?
なぜ、わざわざ置き換えるのかというと、そのほうがわかりやすいからです。このように、別のものに置き換えるとか、「たとえばどういうことなのか」という話をポンッと入れるのは、私たちのビジネスコミュニケーションにおいても重要なことだと思っています。
人の話を聞いていて、「それって、たとえばどういうこと?」と思うときってありませんか? あるいは、すごくロジカルなことを言っていて、言っていることはわからないでもないけれど、どうもスッと落ちなかったりとか。
そういうときに、わかりやすい比喩、たとえみたいなものが入るだけで、「ああ、そういうことが言いたかったのね。なるほど、それならわかるわ」と納得できますよね。
わかりやすい授業をする数学の先生の話し方は、ビジネスコミュニケーションと非常に親和性が高い。みなさんぜひ、お手本にしていただきたいですね。
──この本の中で、とくに読者のみなさんに読んでほしい箇所はありますか。
最後のほうでちょっとだけ言及した、「数学的よりも人間的」という部分はすごく大事だなと今でも思っています。
『数学的コミュニケーション入門』というタイトル通り、この本は「数学的」であることを推奨しています。しかし一方で、100パーセント数学的にしてしまうと、コミュニケーションはうまくいきません。
数学的であることは大事だけど、それだけではうまくいかないよということです。この本はある意味、矛盾をはらんでいるんです。
では、本当に大事なのはなんなのか。それは、「人間的」であることです。人間的というのは、たとえばですが、相手とちゃんと目を合わせる、相手をリスペクトする。そういったことです。
そうした態度があったうえで、少しだけ数学的であれば、ビジネスコミュニケーションはうまくいくのではないでしょうか。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】深沢真太郎と語る「『数学的コミュニケーション入門 「なるほど」と言わせる数字・論理・話し方』から学ぶ数字との接し方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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