8月1日(木)19時半より、ひらりささんと鈴木綾さんのオンライン読書会を開催します。課題図書は、『セックスする権利』(アミア・スリニヴァサン著 山田文訳 勁草書房)。開催を前に、ひらりささんが、2023年に共同通信に寄稿した同書の書評をご紹介します。
世界の複雑さと鮮やかさをあぶり出す
挑発的な書名だ。
これは原題”THE RIGHT TO SEX”の直訳であり、本書のエッセイのうち、「インセル」と性愛についての構造的問題を分析した一編から取られている。
インセル――英語で「不本意な禁欲主義者」に由来するこの俗語は、男性ネットユーザーたちが「非モテ」の苦しみを共有するために使っていたが、ゆきすぎた女性嫌悪から銃乱射などの無差別殺人を実行する者が現れたことで世界的に注目された。
彼らが暴力を正当化するロジックが「セックスする権利」(の侵害)だ。
一笑に付したくなる発想だが、著者はそうしない。フェミニズムの目指す場所の対極にあるようなこの概念を糸口に、彼らの個人的憎悪の裏にたしかに存在している、社会構造――白人優位のヒエラルキーの中である種の男性が周縁化されている状況を暴き出す。
そして、インセルもまた抑圧の中にいることを論理的に示したうえで、読み手に促す。「欲望は政治によって選ばれたものに逆らい、欲望そのもののために選ぶことができる」と。
#MeToo運動をたどる「男たちに対する陰謀」や、自らも一員である学術界のタブーに迫る「教え子と寝ないこと」。これらのエッセイにも、主流フェミニズムと対立する側の主張をあえて取り上げる姿勢が見られる。
その上で差別の助長やマイノリティの軽視を回避すべく慎重に重ねられる言葉と論理は、著者の哲学者としての才能に支えられているだろう。
しかし何より、すべての人を当事者として巻き込まんとする強い意思、「世界をすっかり変えようとする政治運動」としてフェミニズムを実践する覚悟が感じられた。
「正しくなさ」こそを丁寧に解体する筆さばきは、世界の複雑さをあぶり出し、ここが鮮やかな色に満ちていることを教えてくれる。
そう、フェミニズムを知ると、世界はより厄介で、より面白くなるのだ。入門にうってつけの、刺激的な一冊である。
8月1日(木)19時半~21時半オンライン読書会
ひらりさ×鈴木綾『セックスする権利』読書会~誰を求め、何を求められたいのか?
語りどころ満載の課題図書です。事前に課題図書を必ず読む必要はございません。聞くだけの参加もOKです。内容・申し込み方法は幻冬舎大学のページをご覧ください。
ひらりさ⇔鈴木綾 Beyond the Binary
社会を取り巻くバイナリー(二元論)な価値観を超えて、「それでも女をやっていく」ための往復書簡。