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15歳からのリーダー養成講座

2024.07.24 公開 ポスト

校則はなぜ守る?教育改革の急先鋒が重視するクリティカル・シンキング工藤勇一(横浜創英中学・高等学校前校長)

「いいリーダー」には誰でもなれます。生まれつきの才能はいりません。人気者でなくても大丈夫です。でも、リーダーになる人が必ず知っておかなくてはならない、とても大切なことがあります。それは……。数々の大胆な学校改革を実現し、各界からその手腕が注目される工藤勇一さん。生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した特別授業を書籍化した『15歳からのリーダー養成講座』から一部を抜粋します。

「クリティカル・シンキング」を日本語にすると

前回はリーダーとしての最も基本的な心構えについて説明をしました。すなわち、人は簡単には動いてくれないという前提で戦略を練るのが、リーダーのスタートラインだということです。

戦略の練り方や人を動かすための技術については次回以降、解説していきます。その実践編に行く前に、もうひとつだけ、リーダーとしての大事な心構えがあるので、今回はそれを説明させてください。

 

それは「クリティカル・シンキング」と呼ばれる思考の仕方です。一言で言えば、「深く考えること」。物事をいろいろな角度から見て、そこで得られた情報をもとに深く考え、吟味する。そのうえで本質的な課題を見つけたり、根本的な解決策をいだしたりする考え方のことです。

日本語ではよく「批判的思考力」と訳されますが、この訳は誤解を招きやすいので僕はあまり使いません。あえて日本語で言うならば「本質を見抜く力」とか「吟味的思考力」とか「分析的思考力」といったところでしょうか。

「批判的思考力」と言ってしまうと、物事にケチをつけることが目的のように思われがちですが、違います。クリティカル・シンキングの目的は、課題解決や価値創造といった、あくまでも前向きなことです。

 

クリティカル・シンキングをすぐ実践できるわかりやすい方法は、「すぐに結論を出さない」ことです。自分のなかで結論が出たような気がしたら、あえて「それって本当か?」と疑い続ける。すると、その場の空気に何となく流されたり、情報に振り回されたりすることが減って、より適切な判断が下せるようになります。

校則を守らなければいけない理由とは? 

クリティカル・シンキングの一例として、みなさんにとって身近な校則について、少し考えてみましょう。

「校則とは守らないといけないもの」

「自分でその学校を選んだ(受験した)のだから、校則に文句は言えない」

おそらくこれが校則に対する一般的な受け止め方でしょう。でも、本当にそうでしょうか。

ルールとは守るべきもので、守らなかったらペナルティがある。これはたしかに仕方がない気がしますね。ルールを破ることが許される社会になれば、法律が機能しなくなります。すると人権侵害が横行し、僕たちは平穏に暮らすことができなくなります。

 

そもそも法律とは、対立を調整するために存在するものです。

みなさんが思い浮かべる理想的な社会は、おそらくみんなが自由に行動できる社会でしょう。もし法律がない状態でみんなが自由を主張すると、必ずどこかで対立が起きます

対立が起きたとき人間はどうするかというと、武力やお金といった「力」に頼るんですね。実はこれが、世の中に存在する、戦争を筆頭としたあらゆる争いごとの根源です。対立する相手を力で打ち負かそうとして、人は傷つけ合うのです。

 

対立が起きるたびに誰かが傷つく社会では、人は絶えず不安な思いをします。だから、みんなの自由をできるだけ実現しながらも、みんなが安心して暮らせる社会をつくるために、法律やルールがあるのです。

 

わかりやすい例を挙げましょう。

たとえば車で猛スピードを出すことに幸せを感じる人たちがいたとしても、それをOKにして交通事故が頻繁に起きていたら、社会全体としてハッピーではありませんね。スピードを出す本人も、歩行者の立場になったら危険にさらされてしまいます。

だから車には、法律で制限速度が設けられています。個人の自由と幸せを保障するために、あえて個人の自由と幸せを少しだけ制限するのです。

 

法律はみなさんに不自由で不幸せな思いをさせるために存在しているのではなく、みなさんが自由で幸せに暮らせるために存在しているものなのです。

いまの話は比較的、納得しやすいはずです。では、校則もこれと同じなのでしょうか。

では校則は何のため?

たとえば、無地の白い運動靴を履いていかないと、誰かが不幸になるのでしょうか。

髪の毛を染めたり、ピアスをしていたりしたら、誰かの人権が侵害されるのでしょうか。

上履きのカカトを踏んで歩いていたら、誰かが不利益を被るのでしょうか。

 

いずれも答えはノーです。

実はほとんどの校則は、「生徒の自由と幸せを保障するため」に存在していません。「規律」や「一体感」を学校組織にもたらすために存在しているだけです。

すると「規律のためならしょうがない」と納得してしまう人がいるかもしれません。ですが、ここで、「それって本当か?」と深く考えてみてほしいのです。個人の自由や幸せを制限してまで規律や一体感を追求することは、それほど重要なのでしょうか? 

 

学校が軍隊なら、全員が規律正しく行動することに意味があるでしょう。なぜなら軍隊は厳格なトップダウン型組織、つまり上の命令に下が従う組織であり、命令に従わない人が混じっていると指揮系統が乱れ、組織が機能しなくなるからです。

 

でも学校は軍隊ではありません。社会に出たときに自由と幸せを追求するための能力を身につけてもらうのが、学校の役割です。

そう考えると、みなさんの自由や幸せを奪っているのに、実はみなさんに利益がまったく還元されない校則がたくさんあることに気づくはずです。

 

ようやく最近、校則を生徒たちのもとに取り戻そうという動きが、全国的に広がりを見せるようになりました。これはうれしいことです。校則とは「学校生活における各自の自由と幸せをできるだけ侵害されないための共通ルール」であり、学校ではなく、当事者の生徒たちが決めるべきだからです。

このように、問題の本質を明らかにしていくことが、クリティカル・シンキングの一例です。

関連書籍

工藤勇一『改革のカリスマ直伝! 15歳からのリーダー養成講座』

結果を出せるリーダーになるための「基本の〈き〉」を身に付ける。 初めて部下を持つ人・チームを率いる人必読! 数々の大胆な学校改革を実現し、教育関係者だけでなく、経営者やビジネスパーソンからもその手腕が注目されるカリスマ校長・工藤勇一氏。工藤校長が、生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した全8回の特別授業がついに本になりました。

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15歳からのリーダー養成講座

初めて部下を持つ人・チームを率いる人必読!
人はどうしたら動いてくれるのか。
迷ったときは、どう決断したらいいのか。
メンバーの対立はどう解消したらいいのか。
言いたいことはどうしたら伝わるのか。

数々の大胆な学校改革を実現し、教育関係者だけでなく、経営者やビジネスパーソンからもその手腕が注目されるカリスマ校長・工藤勇一氏。工藤校長が、生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した全8回の特別授業を公開します!

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工藤勇一 横浜創英中学・高等学校前校長

横浜創英中学・高等学校前校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長(~2020年3月)。教育再生実行会議委員、内閣府規制改革推進会議専門委員、経済産業省産業構造審議会臨時委員など公職を歴任。麹町中学校では、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行し、教育関係者だけでなく、経営者・ビジネスパーソンの間でも注目を集める。初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部を超えるベストセラーに。他に『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』 (鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)、『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』(苫野一徳氏との共著/あさま社)など。

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