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小泉今日子と岡崎京子

2024.08.08 公開 ポスト

1980年代のロマンティックな多数派「オリーブ少女」とニューウェーブで少数派「宝島少女」米澤泉

大人の女には、道をはずれる自由も、堕落する自由もある――。7月3日に発売された『小泉今日子と岡崎京子』は、社会学者の米澤泉さんが読み解く、ふたりのキョウコと女性の生き方論です。彼女たちが注目され始めた1980年代とはどんな時代だったのか? 8月24日(土)には、大垣書店京都本店にてトークイベントを開催します。ぜひご参加ください。

ファッション、音楽の好みは将来の生き方の違いへ

『オリーブ』のアイドル特集には、DCブランドを着た当時の人気アイドルたちが集結していた。その中で、当初から際立っていたのが小泉今日子である。

84年8月3日号の「アイドルだってオリーブ少女です。」という特集では、菊池桃子ら10人のアイドルが誌面に登場しているが、小泉今日子はそこでもトップに取り上げられている。オリーブ・ファッションに身を包み、ぎこちなくポーズを決めているアイドルたちの中で、小泉今日子だけは、そのオリーブ・ファッションを見事に着こなしている。個性的な服に着られていないのだ。それは彼女の髪型によるところも大きい。84年といえば、まさに事務所の方針に嫌気がさした小泉今日子が、聖子ちゃんカットからカリアゲショートへと変貌を遂げた年である。

その大胆なイメージチェンジに『オリーブ』も注目した。「オリーブ少女の髪型ヘアスタイルはショート・カットにきめた!」というコピーが印象的なヘアスタイル特集(84年10月3日号)では、「彼女が、もしショートに/しなかったら……?/ありがとうキョンキョン」というキャプションとともに小泉今日子の写真が掲載されている。

同年11月3日号の「オリーブ少女のプライベート時間、100人に質問!」というコーナーの「好きなアイドルは?」の項目でも、小泉今日子だけが女性アイドルで名前を挙げられている。

さらに85年から『オリーブ』の編集長になった淀川美代子は、夏のアイドル特集(85年8月3日号)で男女の着せ替え人形を付録に付けた。男性はチェッカーズの藤井フミヤ、女性は小泉今日子である。この時点で、小泉今日子はオリーブのお墨付き「おしゃれアイドル」としての地位を確立していたと言ってよい。

カリアゲショートでDCブランドにも負けない個性を持ったおしゃれアイドル「キョンキョン」、それは男の子の視線を意識するよりも自分の好きなおしゃれを追求する『オリーブ』の編集方針にも合致していた。だからこそ、オリーブ少女の髪型ヘアスタイルは、流行りのワンレングスではなく、「ショート・カットにきめた!」なのである。男の子受けを狙ったロングヘアよりも自分がしたいショート・カット。ファッション誌の編集長も男性が主流だった時代に、淀川は女性編集長として10代のオリーブ少女たちに、誰かのためではなく自分の好きなおしゃれをすることと、誰かに頼って生きるのではなく自分の足で立つことの重要性を伝えていった。

モデル、スタイリスト、デザイナー、編集者、コピーライター、作家……。80年代に入り、衣服や言葉を武器に「私」を表現する女性たちが注目を集めていた。83年にはまだ「お嫁さんに行く日のために。」(83年11月3日号)という特集を組んでいた『オリーブ』も、85年になると「オリーブ少女の職業案内。」(85年1月3日・19日号)を掲載するに至る。将来は結婚だけでなく仕事をしたい。オリーブ少女たちにキャリア意識が芽生えた1985年は、男女雇用機会均等法が制定された記念すべき年であった。

(写真:UnsplashのLAUREN GRAY)

 一方、80年代の少女たちに絶大な影響力を誇った『オリーブ』とは対照的に、宝島少女を生み出した『宝島』は、むしろ限られた少女たちに熱狂的に支持された雑誌だった。そもそも『宝島』はサブカルチャー誌であり、80年代は特に音楽情報誌の役割も果たしていた。ファッション関連の記事も掲載されてはいたもののその割合は少なく、女性向けのファッション誌という位置づけではなかった。

だが、当時人気が高かった女性ロックバンドZELDAや戸川純などを特集することで、『東京ガールズブラボー』のサカエのようにロックやニューウェーブなどの音楽好きでファッション感度も高い少女たちに愛読されていた。そんな彼女たち「宝島少女」は、あくまでも少数派であり、先鋭的なものを好む「トンガリキッズ」(中森1987)としての自負心も持ち合わせていたと言えるだろう。

すなわち、80年代の『オリーブ』は女性編集長のもと、型にはまらないファッションや自由な生き方や自立することの大切さを伝えていたが、すでにマジョリティの女子高生を含む幅広い読者層となっていたため、提唱されていたコンセプトや精神がすべてのオリーブ少女たちに共有されていたとは言えない。

それに対して『宝島』はのちに社名になるほど一時代を築いた雑誌であったが、コンテンツのすべてにおいて趣味性が高く、むろん最初から女子高生をターゲットとしていたわけではなかった。その『宝島』をわざわざ愛読する宝島少女はあくまでもマジョリティとは一線を画しており、『宝島』が打ち出すロックな思想にも共鳴していたと思われる。

多数派のオリーブ少女と少数派の宝島少女。ロマンティックなかわいらしさを志向するオリーブ少女に対し、あくまでもニューウェーブでロックな宝島少女。それはもちろん、ファッションや音楽の好みだけに留まらず将来の生き方の違いにまで結びついていくことになる。

*   *   *

つづきは、『小泉今日子と岡崎京子』でお楽しみください。

関連書籍

米澤泉『小泉今日子と岡崎京子』

大人の女には、道をはずれる自由も、堕落する自由もある――。 「少女マンガを超えたマンガ家」が種を蒔き、「型破りのアイドル」が開花させた“別の”女の生き方 気鋭の社会学者が豊かに読み解く!

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小泉今日子と岡崎京子

2024年7月3日発売『小泉今日子と岡崎京子』について

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米澤泉

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。世の中で「取るに足りない」と思われることから社会の本質を掬いとることを研究の目的とする。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『おしゃれ嫌い』『筋肉女子』など著書多数。

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