今回は新潟県の上方に位置する村上市へ行くことに。
かねてから訪れたかった瀬波温泉がある夕日の名所です。
久しぶりのプライベートキャンプに心が躍っていました。
お気に入りのキャンプ道具をパンパンに詰め込んだ、新潟でもっともダサいと噂されるボロボロの愛車でキャンプ場へ。運転席に乗り込み、ドアを閉めます。
ばん。
いつもとは違う、鈍い音。ドアに上着が挟まったようでした。
布が挟まれたにしては、音が大きいような気がするけど。おそるおそる上着のポケットに手をいれると、そこから出てきたのは……。
バキバキに割れ散らかしたiPhone。
リンゴが見事に下から齧られています。
もういやだ。もうキャンプへ行くのはやめよう。もう家で寝てよう。もういやだよ。
とはいえ、キャンプ場は予約してしまっているし、キャンプ飯の食材も買ってあるし、やめるわけにはいかない。
壊れかけの心をそっとはたいて、どうにか瀬波へと向かうことに。
おしりを齧られたリンゴが頭をぐるぐる。
放心状態でハンドルを握っていると、気づいたときにはキャンプ場に着いていました。チェックインを済ませ、設営地に足を踏み入れたときでした。
きらきらゆらぐ七色の青。
YUIの『SUMMER SONG』と、燦々とふりそそぐ陽光が水面でリフレインする。
齧られつくしたリンゴは水平線の向こう側へと飛んでいきました。
キャンプ場近郊の漁港で手に入れたのどくろを炭火で炙り、キンキンに冷えた地ビールで流し込む真っ昼間。
もうスマホなんていらない。
ちょうどいい機会だから、自然と共に生きよう。
スマホなんてなくても生きていけるでしょ。
日本一の夕日と言っても過言ではない瀬波の夕日を眺めながら、なんどもビールを流し込む。
時間の経過と共に、空の青と太陽の赤が溶け合い妖艶な紫が広がっていく。まさに魔法がかけられた夕空。
唇をつたい、喉から身体の内側へと流れ込んでくる冷たい感覚だけを、ただただ感じていた。
そうだ。
神奈川に住む母ちゃんに写真おくってあげよ。
あっ……。
LINEではなく、AppleのECサイトを立ち上げる。
新型のiPhoneをショッピングカートへ。ああ楽しみだな、新しいスマホ。