330万部を超える大ベストセラー『女性の品格』の著者で、最新刊『人は本に育てられる』も話題となっている坂東眞理子さん。初代内閣府男女共同参画局長として女性の社会進出の道を切り拓き、現在は昭和女子大学総長として活躍する坂東さんに、今の若い人たちへ贈るメッセージをいただきました。
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やってみて初めてわかることがある
──先生が社会に出られた頃は、女性は仕事ではなく育児をするものだという社会規範が今より強かったと思います。そんな中で仕事を続けられたモチベーションは、どんなところにあったのですか?
はっきりしていたのは、私は主婦としての能力があまりなかったことです。仕事をやめて、自分の力を出す場面が家事しかなくなったら、きっと自分の一番不得意な土俵で相撲をとらされているような感覚になったと思います。
私よりも早く結婚して専業主婦になった大学の同級生も、みんな口々に言っていました。家をどれだけきれいに保つかとか、夫に気配りができるかとか、そういうことがまったく身についていないことに愕然とした、と。
私たちはいろんな本を読んで、いろんなことを知っている気になっていました。でも、生活の基礎すら身についていなかったんです。だから、当時の女性の理想像からは、やっぱり外れていたんですね。
当時、女性の大学進学率はわずか3パーセントほどでした。いわば、社会から無視された存在だったわけです。社会でどんな役割を果たせばいいのか、まわりも戸惑っていたし、自分たちもわかっていませんでした。
──まだ、男女雇用機会均等法も制定されていなかった時代ですよね。
民間企業は、試験すら受けさせてくれませんでした。だから、公務員になったんです。志を持って、世のため人のため、いい国をつくるんだと言って公務員になったのならかっこよかったのですが、実はもっと個人的な事情でした。
でも、公務員になったことで、のちにライフワークとなる女性の問題を扱う仕事に出会うことができました。
女性の問題は、働く女性は労働省、農村の女性は農林省、女性の健康は厚生省、女性の教育は文部省というように、いろんな役所が関わっています。それで、当時の総理府(現在の内閣府)でまとめて引き受けることになったわけです。その意味では、自分に合った仕事だったのかなと思います。
──選択肢が少なかったからこそ、突き抜けることができたという印象を受けました。
今の女性たちは選択肢が多いぶん、自分で選ばなければなりません。でも、選ぶのってなかなか難しいんですよね。100パーセント、完全な選択なんてありませんから。ですから、とにかくやってみて、だめだったらまた別のことをやればいいと思うんです。
若い女性の多くは、自分には何ができるのかわかっていないと思います。でも、やってみて初めて、これは自分に向いているとか、これは苦手だということがわかるので、とにかく一歩踏み出してほしいですね。
今の日本人は勉強する癖がついていない
──ある調査で、「自分の成長のために、仕事以外で学習や自己啓発活動をいくつしていますか?」という質問に「ゼロ」と答えた人の割合が、日本は圧倒的に多かったそうですね。
日本人は勉強熱心、教育熱心だと信じられてきましたが、それは大学に入るまでなんです。他の国の大学生と比べて、日本の大学生は勉強しないですし、このデータを見ると、卒業してからも勉強しない。これでは「失われた30年」になるのは当然だと思います。
受験のためなら勉強するけれども、本を読むこと自体が楽しいとか、学ぶこと自体が楽しいという感覚が、日本人には少ないような気がします。勉強することの価値が、腑に落ちていないのではないでしょうか。
だから、今さら本なんて読んでもしょうがないと思ってしまう。自分で勉強する癖がついていないのは、ちょっと心配ですね。
──そんな中、先生が総長を務めている昭和女子大学では、社会人向けの学習をうながすコースを開設するなど、「いくつになっても学びは必要」というメッセージを発信しています。その根底には、どんな思いがあるのでしょうか。
江戸時代の儒学者で、佐藤一斎のこんな言葉があります。「少にして学べば、壮にして為すことあり」。子どものときに勉強すると、大人になってちゃんとした仕事ができる、ということです。
そして、「壮にして学べば、老いて衰えず」。大人になって勉強すると、年をとっても知的に衰えることはないということです。さらに、「老いて学べば、死して朽ちず」。年をとってもなお勉強すれば、死んでも名が残るということです。
最後の「老いて学べば、死して朽ちず」は、みなさんピンとこないかもしれませんが、年をとっても勉強を怠らず、説得力のある言葉を若い人たちに伝えていれば、それがみんなの記憶に残るということだと思います。
──最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
本を読むっていうのは楽しいんですよ。自分とは別の世界を経験することができます。知らないことがこんなに多いんだと思うと、ボーッとしている暇はありません。生きていることが楽しくなります。
ぜひ、本をあなたの脇に置いておいてください。「人は本に育てられる」と、私は心から信じています。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】坂東眞理子と語る「『人は本に育てられる』から学ぶ読書の力」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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