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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.08.15 公開 ポスト

第229回 メンテナンスいとうあさこ

お恥ずかしながら、一人暮らしを始めて35年の月日が経ちますがわたくし、一度も住まいのエアコンの掃除をしたことがありません。再度言います、お恥ずかしながら。20代の頃は小さなアパートで、窓にはめるタイプのエアコン。そもそも掃除なんて思いもしなかった。30代は普通のいわゆる壁掛けのエアコンで、フィルターは何度か掃除しましたが、んー、時代ももしかしてあったのかな。清掃をプロの業者さんに頼むなんて、一部のお金持ちの方のやることで、こちとら何せお金がなかったですし、これまたまったくもって思い浮かばなかったです。40代はやっと仕事がいただけるようになって、ありがたくも忙しくてあまり時間がなかったのもありますし、やっぱり知らない人をウチの中に、なんていうのもちょっと怖かったりしてね。そんなこんなでいろんな理由、というか言い訳を並べて、エアコンは完全にほったらかしでここまでやってまいりました。今の家にはもう7年住んでおりますが、もちろん(? )一度も清掃しておらず。数年前からは、エアコンのスイッチを入れるのが怖くなりまして。ほら、テレビとかでやっているじゃないですか、エアコンの中にはカビが、とか、雑菌が、とか。それがスイッチを入れたとたんに部屋に撒き散らかされる、と思うとなかなか不快。正直冬は何か着ればいいのでなんとかなってきたのですが、夏です。問題はここ数年の異常な暑さ。そこで私がとった対策は、“耐える”。昭和のよくないとこ、出ました。“耐える”。実家の親にも「あの頃の暑さとは違うんだから」とクーラーをつけるよう言っているそばから、自分がこれじゃダメですよね。首にタオル巻いたりしてね。汗を拭き拭き、な生活でなんとかやり過ごしていたんです。

 

ただその日は急にやってきます。何かの収録の後、森三中・ムーさんとご飯することになりまして。そこでたまたまクーラーの話に。私が「もうめっちゃ暑くてさぁ。汗ダクダクで暮らしてるよ。」なんて笑い話の感じで話したところ、ムーさんに怒られました。「昔の暑さと違うんだよ?」はっ。私が親に言ってる言葉。「やだよ、あちゃこ姉が熱中症で家で倒れたとか死んじゃったとかさぁ。」持つべきものは友達だ。ちゃんとまっすぐ言われて、ちゃんと胸に響いた。よし、人生初のエアコン清掃、申し込んでみるか。そう心に決めた時、更にムーさん。今、エアコンの清掃会社もやっているというラフ・コントロール重岡さんまで紹介してくれて。もうこうなったら、思い立ったが吉日、です。すぐに連絡をして、その数日後。重岡さんがウチにやってきた。清掃初めてなもんで、そのやり方とか具合をやっぱり見たくてね。ちょいちょい覗きにいくからやりにくかったでしょうが、本当に丁寧にやってくださいまして。途中、テレビとかで見たことある、真っ黒い水も出てきたりして。お一人で黙々と1時間半。7年間の汚れを本当に本当にキレイにしてくださいました。スイッチ入れても無臭。快適。最高。暑い中の作業、心から感謝です。一歩足を前に踏みだしただけで、こんなに気持ちのいい世界が待っているなんて。重岡さんによると夏にクーラーを使った際、水が出てカビになるので、その後の秋に清掃するのが一番よいとのこと。これからは毎年ちゃんと清掃していきます、と自分と重岡さんに誓ったのだった。

さて。そんなエアコンのメンテナンスの話を書きながら、実はこの日の朝。人が来るから軽く掃除しよう、と掃除道具の入っている廊下の開きの扉を開けた。開けただけなのですが、“ぎっくり”、発症。思い返すと、今の家に引っ越してくる直前になったから7年ぶりだ。7年ぶりにエアコンをキレイにしよう、って日に、7年ぶりの“ぎっくり”。いや、今までも何度かぎっくりの“気配”が出たことはあったんです。ピキッ、みたいな。軽ぎっくり。でもそういう時は完全に出ないように直前で止めて、それ以上いかないコツはわかっている、と自負しておりました。私はぎっくりのプロ、“ぎっくらー”だ、と。それがこの日は本当に突然、何の予兆もなく、急にズドンと脳天から杭を打ち込まれたような痛みが、いや、もう痛みとも思わないほど瞬時にきて、膝から崩れ落ちたのです。ただ床に倒れ込んでしまうと、起き上がるまで数時間かかってしまうのはわかっていたので、とっさに棚にしがみつく。「ファイトォー! いっぱ~つっ!」さながらの形相で、信じられないほどスローに、だましだましゆーっくりゆーっくり立ち上がる。

私「大丈夫? も少し動くよ?」

腰「いやいや、待ってよ。痛いって言ってんじゃん。」

私「それは私が一番わかってるっつーの(笑)」

腰と対話しながら再度、強めの“ズドン”が来ないように、何度かうめき声をあげながら、とにかくゆっくり動く。掃除は諦め、腰のサポーターを取りに行く。しまった。腰のサポーター、棚の下の方に入っている。出来得る限り腰を動かさないよう、足を駆使してサポーターを取りだす。あ、あと湿布もだ。これまたまさかの引き出しの下の方に入れてある。再度、掴まれるところ全てに掴まりながら、少し体を低くし引き出しを開ける。再び足を使って湿布を取り出す。掴まっている手を放すと腰に来るので、壁の方を向いて体を壁に完全にゆだねる。腰に湿布を貼り、サポーターをその上からしっかり巻く。うん、やれる事はすべてやった。あとはおさまるのを待つしかない。

同じ日にエアコンと腰のメンテナンス。それだけでもバタバタDAYでしたが、更にまさかの右手の人差し指をざっくり切ってしまった。本当に初歩的な不注意。缶詰の空き缶を捨てる前に洗っている時、軽くゆすぐだけにすればよかったのに、何かちゃんと洗っちゃって。んでもってちゃんとザックリ切っちゃって。すぐ“自分の力で直す系”の絆創膏を貼りましたが、全然血が止まりません。次は指のメンテだ。一難去ってまた一難。でも部屋が快適で涼しいから、ま、いいか。

【本日の乾杯】こないだ大久保さんちで焼きそばをいただいた。ホットプレートで「夏祭りみたいね」なんて言いながら。目玉焼きと紅しょうがもちゃんと。最高。夏、そして大久保さん、ありがとう。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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