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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.08.27 公開 ポスト

昭和のアニメ視聴スタイルで子ども時代の自分が命拾いした理由カレー沢薫

我が家には中年しかおらず、そろそろ平均年齢が四捨五入で「半世紀」になりそうなのだが、盆と正月は親戚の集まりなどにより、貴重な若人と接する機会がある。

先日、帰省中の友人の家に遊びに行ったところ、彼女の小学一年生の息子がスマホを巧みに操りながら、ONEPIECEについて語っていた。

 

スモーカー大佐は強くてかっこいい、たしぎはそうでもない、そして「〇〇は死んだ」と重大なネタバレをかまされた気がするので、もし今後ONEPIECEを読む気になった時、彼を恨むことになるかもしれない。

しかし、最近の子供もONEPIECEが好きとは知らなかった。

もちろんワンピは今も連載中の現役コンテンツである、だが何せ彼が生まれるずっと前、何だったらアンジェリークにハマってその話しかしなくなった私に君のお母さんが完全についていけなくなった頃に始まった漫画だ。

今放送中のアニメを見てもワケがわからないだろうし、100巻越えの原作を読むのは大変だからもっと新しい作品が好きなのではないかと思っていた。

しかし「今更100巻越えの作品を読む気になれない」という感覚こそ、老特有のものなのかもしれない。

確かに原作を定価で読もうと思ったらゲーマン越えであり、小学生にはとても無理、成人であっても黙って購入したらパートナーと一悶着起きてXに愚痴を晒される金額だ。

しかし、動画配信系サブスクに1個でも入っていれば、ワンピアニメは簡単に1話から履修可能だろう。

私もこの方法で今更進撃の巨人を最終話以外履修した、最終話はもったいなくてまだ見れていないのだが、エリクサーを出し惜しんだままクリアするタイプなので、見ずに死ぬ気がしてならない。

それを考えると、今の子どもは本当に恵まれている。

我々が子供のころアニメと言えば、こちらが放送時間に合わせてうがい手水に身を清め、テレビ前で待機するものであった。全裸待機という言葉が生まれる遥か前だが、知っていたら確実に脱衣していただろう。

しかも我が家はビデオデッキの伝来が他の家庭より遅かったため、まさに一期一会、網膜に焼き付けるしかなく、最終的にラジカセで音声を録音するという奇行にまで及んだ。

それが今では、リアタイや録画の必要すらなく、よほど制作側でクソ揉めが発生しない限りあとからでも視聴する方法がいくらでもある。

過去作も含めれば、一日中、親負担の定額でアニメを見ることができるだろう。

私が子どもの時、その環境を提示されたら絶叫しながら道路に飛び出し、短い生涯を終えていたはずだ。

今の子どもは恵まれている、しかし逆に言えば現代の子供と親はその恵まれた環境と戦わなければいけないのだ。

私が今の子供だったら確実に「一日中アニメをみることで時間が潰せるのに何故それよりつまらない学校へ行かなければいけないのか」というひらめきを得てしまうだろう。

それに気づかせないようにする、もしくは気づいた子どもに、学校などすべきことをさせなければならない今の親は大変だ。

実際、止めない限り永遠にYouTubeを見てしまう子どもはいるらしく、友人曰く「親がYouTubeを止めないのは子どもがかわいそう」だそうだ。

もはや「YouTubeを管理しない」という新しいネグレクトが誕生してしまっている。

確かにYouTubeがやばい、というのは何となくわかる。

まだアニメワンピを最新話まで完走というのはある種の達成感がある、しかしYouTubeの場合、永遠にザッピングを続け「面白いチャンネルを探していたら一日が終わった」ということがある。

中年の1日ならジンバブエドルぐらいの価値しかないし、何もしなくても脳細胞が死ぬので大したことではないが、成長期の貴重な時間をこのような思考停止行動で浪費するのは問題だ。

今の子どもは恵まれているが、私のようなタイプにとっては、むしろ時代が味方してくれたと言えるかもしれない。

ちなみに今の子どもがYouTubeについで永遠にさわりがちなのがニンテンドーSwitchである。

だが、友達とのコミュニケーション上、与えないわけにもいかないのか、親戚の子どもたちも一人一台の勢いで持っている。

私もSwitchは持っているし、未だにゲームで生活を破綻させがちなところがある。

ゲームの話なら若とも話ができるのではないかと思い、夫側の甥にどんなゲームをやっているのか尋ねたところ「Apex」や「荒野行動」など、多人数でプレイすることが前提のゲームの名前ばかり出てきて話が終わった。

だが、逆にこっちが先に好きなゲームの名前を出さなくて良かったといえる。

対人テニスを楽しんでいる若に、イイ感じに打ち返してくれる壁の場所を得意げに教える老になるところだった。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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