『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
余裕のないママは唐揚げを揚げている
時々、ママ友から「私はまゆちゃんみたいに優しいママじゃないから」と言われて驚く。その後、「この間も子どもに怒鳴っちゃって自己嫌悪だよー」と続く。
チョト待て。私だって家ではしょっちゅうどすの利いた声やら金切り声やらあげているよ、と言うと、「えー想像できない! 保育園のお迎えの時も〇〇ちゃんがぐずっても、優しく受け止めて落ち着くの待ってあげてるでしょう」
それは、そうしたほうが早く癇癪が治まるから。心の中では公にはとてもできない罵詈雑言が吹き荒れているよ。
「でもさー、インスタ見てるとすごいいいお母さんしてるじゃん。あちこち連れていってあげて、子どもたちもいつもニコニコだし」
どこの誰がインスタに鬼の形相の自分と阿鼻叫喚の子ども載せる? 時々やってくる奇跡みたいな瞬間しか載せてないだけだよ。それによーく見てごらん。テーブルの上はしっちゃかめっちゃか、床の上もおもちゃやら脱ぎ捨てた子どもの服が散乱、どこをどう背景にしても映り込む荒れた部屋……そう、それこそが私の日常の真の姿。
「でもさ、でもさ」なおもママ友は言い募るのだ。
「私のほうが絶対怒鳴ってると思う。自分でも自分が恐ろしくなる時がある」
そういう人には、こう質問することにしている。
あのさ、もしかしてお弁当に入れる唐揚げ、ちゃんと揚げてない?
「え、うん。揚げるけど。だって冷食ってなんか抵抗あるし、揚げたてのほうが子どもたちもおいしいって言うし」
「私は子どもが生まれてから唐揚げ揚げたこと、たぶん一度もないよ。唐揚げと言えば冷食! 子どもたちもその味しか知らないから、喜んでバクバク食べてるよ」
「え……」
その顔はしっかりと引いている。
結局、そういうことなのだ。子のために朝から唐揚げを揚げるママはやっぱりえらいし、子の癇癪にアルカイックスマイルで乗り切ろうとする私もやっぱりえらい。そこには両方、愛がある。
叱責も手抜きも自己嫌悪もすべては子への愛から来ている。それを印籠のように子に振りかざしてはいけないけれど、こうやって親同士で話すときには、せめてさ。
讃え合おうよ。
「私たち、ほんと、よくやってるよね」って。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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