目も眩みそうな優しさに魅了されて - Hana Hope『サマータイムブルース』カワムラユキ（DJ/作家/作詞家/プロデューサー）

誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。

 

目も眩みそうな優しさに魅了されて、現実から逃げるように君は僕と手を繋いだ

翻弄しているわけじゃないのに、夏の終わりはあらゆる答えを急かすから、初めてのように目を閉じて

 

照りつける太陽に反射したコンクリートの熱は、あの人の影だけをアイスクリームみたいに溶かして

宿命とか運命とかカテゴライズしたくないから、ただただ暑さの導きだけに身を投げ出していたい

 

いつだって強運の持ち主というわけじゃない僕は、恵比寿五叉路の信号のタイミングにあたふたしたり

5回に1回は駅の自動改札でつまづいてしまったりと、地球の自転と上手に付き合えて生きられた事はない

 

えびす像の前で君と待ち合わせて、だけどたぶん5分は遅れてしまう

せっかちな君は3分と待たずに、近くのセブンイレブンかドトールに入ってしまいそう

 

夏休みの予定は狂ってしまえばしまうほど愉快痛快で、君より少しだけ長く生きた僕にはわかる特権

乗るつもりだった特急を見送っても、海にはいつか到着するし、炎天下よりも君にはサンセットが似合っているから

 

夏の歌だけを集めたプレイリストを片方づつのイヤホンで、Netflixで見た90年代が舞台のドラマみたいに

君が集めている素敵なレコードの話や、変わりゆく車窓からの景色がグリーンに包まれる様をゆっくりと

 

時間なんて自分の思うままに操る魔法は幾つかあって、その方法を君と夏の空の下でわかちあいたいから

もう時計を見過ぎるのはやめにして、いつまでも8月が終わらないことにしよう

 

 

Hana Hope『サマータイムブルース』（2024年、Sony Music Associated Records）