『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
心はいつもじたばたしてる
『夢みるかかとにご飯つぶ』を発売してから、SNSやAmazonレビューや書店在庫や、気になることが多すぎて気づけば気持ちがずーんと沈んでいた。
読んだよ、と久しぶりに連絡をくれた友だち、SNSに届く心のこもった感想、いいニュースももちろんあるのだけど、ずっと発表会の本番が続いてるみたいで、いったん舞台からはけたいなぁという気持ちになっていた。
携帯を持たず、パソコンも置いて、本も一冊も持っていかないで、ただひとり、なんにもしないをしたい……。
あれ、ちょっと待てよ。
それ、やろうと思えばできるな……。
仕事を前と後ろにぎゅぎゅっと詰めて、子どもたちは夫に預けて、半日だったらぜんぜんできるな……。
たぶんそれ、すぐやったほうがいい。
というわけで、一人でスーパー銭湯に行くことにした。
あさイチで行きたかったけど、このメール返してから……この原稿戻してから……とやってたら、家を出たのは11 時過ぎ。しかも携帯は持ってきてしまったし、カバンの中には本が一冊とプロットノートとペンが入ってる。
なんにもしない、は難しい。
行き先をスーパー銭湯にしたのは正解だった。
携帯も本もノートもロッカーに預けて、はだかでお湯につかるしかない。
塩サウナで塩をひじひざかかとにすり込んでみたり、サウナのち冷水のち外気浴で整ってみたり、激しい寝違えを起こした首・肩に電気風呂を当ててみたり。それでも合間には「夢ごは」のことを考えてしまう。
気をそらそうと、周りを観察してみる。BEAMSとコラボしたおしゃれ銭湯だから若い人が多い。若い人のからだは痩せている人も太っている人も、みんな美しさに勢いがある。どうか、そのことに本人がなう気づくことがありますように。
そうなのだった。
自分が美しい瞬間を、自分で気づくのは難しい。心はいつもじたばたしているから。
私だって誰かからみたら、ひたむきな美しさがあったり……しないか。
どう見られるか、どう読まれるかなんて結局コントロールできない。私ができることはこのじたばたする私を、時々労わってやることぐらいだ。
ちょっとだけ肌がつるつるになって、帰路についた。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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