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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.09.01 公開 ポスト

【夢ごは日誌】心はいつもじたばたしてる清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

心はいつもじたばたしてる

「なんにもしない」と言いながら、後半はまんがコーナーで「違国日記」を読みふけった。

『夢みるかかとにご飯つぶ』を発売してから、SNSやAmazonレビューや書店在庫や、気になることが多すぎて気づけば気持ちがずーんと沈んでいた。

読んだよ、と久しぶりに連絡をくれた友だち、SNSに届く心のこもった感想、いいニュースももちろんあるのだけど、ずっと発表会の本番が続いてるみたいで、いったん舞台からはけたいなぁという気持ちになっていた。

携帯を持たず、パソコンも置いて、本も一冊も持っていかないで、ただひとり、なんにもしないをしたい……。

あれ、ちょっと待てよ。

それ、やろうと思えばできるな……。

仕事を前と後ろにぎゅぎゅっと詰めて、子どもたちは夫に預けて、半日だったらぜんぜんできるな……。

たぶんそれ、すぐやったほうがいい。

というわけで、一人でスーパー銭湯に行くことにした。

あさイチで行きたかったけど、このメール返してから……この原稿戻してから……とやってたら、家を出たのは11 時過ぎ。しかも携帯は持ってきてしまったし、カバンの中には本が一冊とプロットノートとペンが入ってる。

なんにもしない、は難しい。

行き先をスーパー銭湯にしたのは正解だった。

携帯も本もノートもロッカーに預けて、はだかでお湯につかるしかない。

塩サウナで塩をひじひざかかとにすり込んでみたり、サウナのち冷水のち外気浴で整ってみたり、激しい寝違えを起こした首・肩に電気風呂を当ててみたり。それでも合間には「夢ごは」のことを考えてしまう。

気をそらそうと、周りを観察してみる。BEAMSとコラボしたおしゃれ銭湯だから若い人が多い。若い人のからだは痩せている人も太っている人も、みんな美しさに勢いがある。どうか、そのことに本人がなう気づくことがありますように。

そうなのだった。

自分が美しい瞬間を、自分で気づくのは難しい。心はいつもじたばたしているから。

私だって誰かからみたら、ひたむきな美しさがあったり……しないか。

どう見られるか、どう読まれるかなんて結局コントロールできない。私ができることはこのじたばたする私を、時々労わってやることぐらいだ。

ちょっとだけ肌がつるつるになって、帰路についた。

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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