『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
お葬式に行けばよかった
会社員として働いていた頃、同僚のご家族が亡くなった。みんなはお葬式に行くのだと、ネットで葬儀の作法や香典の相場などを調べては小さな声で話し合っている。
それがどうしても引っかかって、私はお葬式に行かなかった。
一度も生前のその方に会っていない私なんかが、ただ儀礼的に参列するのは失礼だと思った。でもそれは、若く浅はかな考えだった。
それから十年ほど経ったころ、私は身内を続けて亡くした。
抱えきれなくて友達をランチに誘った。私の顔を見て友達は「なにかあったんだね」と言った。一緒に食べた南インドカレーの味は全然覚えてないけれど、友達の顔がとても悲しそうだったのは記憶にある。それは私の話を聞くうちに、私の気持ちを写しとってしまったのだろう。今、このふだんの世界に、私の悲しみも大切な人の死も知ってくれている人がいる。そのことにとても助けられた。
あのお葬式は、同僚のために行くべきだった。同僚にあなたのことを気にかけていると伝えるために、ネットで失礼のないふるまいを調べ、なにも主張なくつつましく、ただのこされた人のために行くべきだった。参列した人たちはそれを当たり前に知っていたのだ。
大きな悲しみがあった人に、してあげられることがあまりにも少なくて、悲しみの元を断つことは不可能で、どんな言葉も間に合わなくて、いつも途方に暮れる。やり方を間違ってしまってその人をさらに傷つけたらどうしよう、と恐れてしまう。
でも私がその人にどう思われるか、なんてどうでもいいことだった。
たぶんできることはひとつだけ。
生きている私が、生きているその人の、そばにいると伝える。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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