『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
ロマンティックあげるよ
何回目かの結婚記念日だった。
記念日は二人でちょっといいレストランに行くことにしている。
なにもロマンティックな話ではない。そのように私が仕向けている。
数週間前から「今年はどこいくー?」とけしかけて、夫がお店の候補を出し、私がセレクトする。お互い仕事を調整する。
夫は永遠の思春期ボーイなので、素直に愛情を表現することができない。ありがとうやごめんねすらほぼ言わない。私のことを名前で呼べない。照れるから。だからこうやって段取りをつけないと、夫婦っぽい時間は永遠に訪れないのだ。
そのことに不満はもちろんある。結局ぜんぶ自分仕切りの虚しさはある。でも、ステーキを食べて、二人して胃もたれし、「私たちもう、いいお肉を食べられる年齢じゃないんだね……って、コレ、去年も一昨年も言ったね」と苦笑いし合うのは、やっぱり楽しい。今年はアニバーサリープレートも出てきて、夫も牛の歩みで進化している。
帰宅まで少し時間が余ったので「なんかピアスとか買ってよ。千円くらいのでいいからさ」とデパートを見ていたら、ガラスで作られたつぶつぶが3つ並んだネックレスがあった。「わー! これ、ご飯つぶっぽくない!? これがいい!」と買ってもらったら七千円くらいだったので「だまされた……」と夫がすねている。私はとても機嫌がいい。察してもらうのをそわそわ、イライラしながら待っていたときより、ずっと機嫌の効率がいい。
ロマンティックはむずかしい。ひねり出さなきゃむずかしい。でも年に一回くらいはさ。
諦めずやってこーぜ。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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