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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2024.09.09 公開 ポスト

週半分は化粧したまま寝落ちする“激務系会社員” が「ファンタジー×丁寧な暮らし」漫画で摂取するモノ梅津奏

「規則正しい生活」も「丁寧な暮らし」もファンタジー

灼熱の夏がぬるっと去ろうとしており、代わりに襲い掛かってきたのは度重なる天候不順による不安定な気圧。気圧変化に弱い私は、「五苓散」と「テイラック」を両手に握りしめてなんとか耐え忍んでいる今日この頃。

会社は決算期に差し掛かり、ときには休日も返上してひたすらデスクに向かう日々。

 

ブルシットジョブが多いとされる業界にいるが、ありがたいことに私はそんなこともなく。仕事の先に人の顔が見えるし、成果が見えやすいし、心理的安全性の高いチームだしということで、割とモチベーションは高いまま働けていると思う。

しかしとにかく、仕事が途切れず365日繁忙期で凪が無い。いやもちろん、仕事があるのはありがたいことです。だがしかし。だがしかしだ。

いつも何かに追われて緊張状態(私が特別チキンなせいもある)、ひと区切りやひと休みとはほぼ無縁。毎週何かしら事件が起きて、夜中に「ああああ!」と声を出して起きることも。

今年から週末着物生活 をはじめたことで気分の切り替えはうまくなってきた気がするが、それも、平日と休日のざっくりとしたモードチェンジのみ。平日は朝から晩まで会社におり、やっと帰宅したと思ったらベッドかソファに直行。死体のようにぐったりと横になり、適当に何かをかじりながら本を読んで寝落ちするのが日常だ。週の半分は、化粧をしたまま朝を迎えている。もっと忙しい人は世の中に星の数ほどいると思うけれど、私は体力がないのである。


こういうときは、いやこういうときも、本だ。本を読むしかない。

元気レベル50以上であれば、仕事に邁進するパワフルな人物を描いた小説・漫画、ビジネス書なんかを読んで自分を鼓舞する。元気レベル30だったら、「セルフケア」をテーマにした本や穏やかで丁寧な暮らしを描いたエッセイを本棚に探しに行く。さて、元気レベル測定不能まで到達したら……?

もう対処療法は効かない。ならば、私にはもう「ファンタジー」しか残っていない。さらに最近夜になると目がかすんでくるので、本よりも漫画がベターである。

現世の事情とか、世知辛い自分の状況とか。そんな生臭いものには一旦ふたをして、「ここではありえないどこか」にポーンと頭をふっとばす。ファンタジーはファンタジーでも、その世界なりの苦しみとか争いとかが描かれるシリアスな物語はなるべくご遠慮したい。どちらかというとギャグやほっこり寄りでお願いしたいところ。

考えてみると、「規則正しい、丁寧な暮らし」自体が私にはファンタジーみたいなものだ。

ということはつまり、「ファンタジー×丁寧な暮らし」は「ファンタジー×ファンタジー」ということであり、今の私にとってベストチョイスなんじゃないだろうか。ひらめいた私はがばっとベッドから身を起こし、猛然とKindleライブラリをスクロールしていく。

せっかくベッドから起き上がるなら、そのままバスルームまで行けばいいのに……。というか、本や漫画を読む体力でご飯くらい作りなさい。そんな天の声はさらりと無視して、うきうきで選んだ3シリーズを紹介して今日のコラムは終わりにする。そして今日はちゃんと化粧落として寝る。

ダンジョン飯 』(九井諒子/HARTA COMIX)

睡眠をとって食事をしたら
生き物ってのはようやくやりたいことができるようになるんだ――『ダンジョン飯』第7巻より

冒険者ライオスは、ダンジョンで出くわしたレッドドラゴンに妹ファリンを食べられてしまう。レッドドラゴンを倒してファリンを再生しようと考えるライオス一行だが、資金も装備も心もとなく、何より腹ペコ。「腹が減っては戦はできぬ」とばかりに、料理上手のドワーフ・センシを仲間に加えて、魔物を料理することでダンジョン攻略を試みる。規則正しい食生活がすべての基礎となるということを、ユーモアたっぷりに教えてくれる冒険漫画。

天狗の台所 』(田中相/講談社)

オン言い忘れていたが
僕は無類の食いしん坊なんだ――『天狗の台所』第1巻より

ニューヨークに住むイマドキっこのオンはある日、自分が天狗の末裔であり、14歳の1年間は日本で隠遁生活を送らなければならないと知らされる。「So Cool!」と大喜びで日本に住む兄の元へ向かうオンだが、そこに待っていたのは地味で地道な昔ながらの自給自足生活。兄の基(もとい)は寡黙だが、実は無類の食いしん坊。地域の人々と協力して田植えをし、自分の畑で野菜や果物を作る。「天狗パワーを使ってよ!」とブーブー言うオンだったが、次第に基との生活になじんでいく。

クジマ歌えば家ほろろ 』(紺野アキラ/小学館)

初めて焼いたブリンは塊になるってネ!――『クジマ歌えば家ほろろ』第1巻より

中学生の新(あらた)が帰宅途中に出会ったのは、ロシアから来た謎の生物・クジマ。鳥みたいな見た目だけれど二足歩行で手先が器用、ロシア語も日本語も上手に使いこなすクジマは、新の家に居候することに。「日本のご飯が食べたくテ…」と言うクジマを見て、新は卵焼きに挑戦するが無残な結果に。「どんなことでも初めては失敗するよ」というロシアのことわざで新を慰めるクジマは、ピローク(ピロシキの変型版)やボルシチを披露する。食いしん坊で元気いっぱいなクジマの存在が、新一家を少しずつ変えていく。

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筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。

 

 

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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