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愛されるデザイン

2024.10.11 公開 ポスト

“現場のデザイナーに光を”任天堂を脱サラした47歳デザイナーの挑戦前田高志(クリエイティブディレクター/株式会社NASU代表)

父親の介護のため任天堂株式会社を退社し、独立。デザイン会社・NASUを立ち上げ、ゲーム、漫画、お菓子から格闘技まで様々なコンテンツのブランディングを手がける、デザイナーの前田高志さん。話題となった書籍『勝てるデザイン』から3年、新たに「ディレクター」としての視点も盛り込んだ仕事術本『愛されるデザイン』より、試し読みをお届けします。

*   *   *

広がれデザイン活動

2022年頃から僕は、「広がれデザイン活動」というスローガンを掲げて、活動するようになりました。オフィスに「SPREAD THE DESIGN」と書かれたパネルを掲げるほど、大事にしている言葉です。

デザインの認知が『家庭の医学』と同じくらいにお茶の間にまで広がれば、もっと面白く楽しく豊かな世界になると僕は本気で思っています。思えば任天堂を退社してからの僕の活動は、全てが「広がれデザイン活動」に帰結するものでした。

独立後、社会という野に放たれてわかったのは、デザインの本当の力はまだまだごく一部の方にしか理解されていない、ということです。そのことに絶望し、デザインのことを知ってほしいから、僕はまず、ブログを立ち上げて発信し始めました。そして、「マエデ」というクリエイターコミュニティを立ち上げ、実験的なデザインで社会にアプローチしてきました。

『愛されるデザイン』(前田高志著、幻冬舎刊、税込2,500円)

すると次第に、SNSで業界やクライアントに対して不満を書いているデザイナーが楽しく仕事をできるよう力になりたい、と考え始めました。それが日本にデザイン文化を残す第一歩となる。そしてデザイナーに限らず全ての人が生きる上で、人生を楽しめるようになること。そういう気持ちが強くなりました。僕の会社NASUで作った書籍『デザイナーが最初の3年間で身につけるチカラ』(ソシム)は、苦しい最初の3年を楽しく乗り越えるための心の支えになることを目指した本です。

デザイナーという職業は大変で、もっと評価されたい。海外と日本国内のデザイナーの価値の差、フィーの格差も時折話題になります。もっとデザイナーに光が当たってほしい。そんな気持ちが強くなり、今年、新しいデザインアワード「Design-1 Grand Prix(デザインワン・グランプリ)」を立ち上げることを決意しました。一世一代の勝負です。僕の人生が1冊の自伝になるとしたら、Design-1 Grand Prixは、間違いなく大見出しになるトピックでしょう。

(※編集部注※ Design-1 Grand Prix では現在作品募集中。2024年10月27日〆切。詳しくは https://design-1gp.com/

デザインの現場に光を

Design-1 Grand Prixでスポットライトを当てたいのは、「リアルな現場のデザイナー」です。

世の中にデザインアワードはすでにいくつも存在しますし、どれも理念と歴史のある素晴らしいものばかりです。しかし、今ある多くのアワードは、デザインの実力そのものだけでなく、仕事の規模や知名度も含めて総合的な作品としての評価となっているものが多いのではないでしょうか。賞に出品したくても、どうせ出品できるものはない……と頭をよぎってしまうのです。

念のためお伝えしておきますが、それらを否定したいわけではないです。むしろ、僕自身どちらも大好きなアワードです。デザインの年鑑を眺めるのが趣味なくらいです。

アワードに出品する目的で、大きな仕事をしたい。4大マスメディアの仕事がしたい。かっこいいものが作れる仕事がしたい。そう思うことは人としてごく自然なことですが、デザイナーとしては不自然なことのように感じます。だったらリアルなデザイン現場にフォーカスしたデザインアワードを立ち上げてみよう。仕事でやっていることがそのままアワードの評価につながると、日々の仕事もより楽しくなると思うのです。

そういう背景があり、Design-1 Grand Prixを立ち上げました。

眠れるキラーコンテンツに活路を

Design-1 Grand Prixは、「デザインの必殺技」をテーマに審査します。

デザインの必殺技カードゲーム「Desig-win」

「デザインの必殺技」とはいわば「グラフィックデザインの鉄板技」。確実にデザインのクオリティをあげる技法や手法のことを指します。例えば、文字を壁のように並べて迫力のある印象を与える「フォントウォール」など。

「デザインの必殺技」は、デザイナーが制作現場で駆使している技を可視化したものです。ですから、「デザインの必殺技」は、「現場のデザイナー」そのものであり、アワードのテーマに相応しいと考えました。このアワードで現場で活躍するデザイナーの価値を発揮し才能を発掘、可視化していきます。

「デザインの必殺技」について、「グラフィックデザインの鉄板技」と言いきってしまうと、いろいろなところからお叱りを受けそうです。しかし、若い人が闇雲にグラフィックの視覚表現を模索するより、あるものを明言化・可視化し、ひきだしやすい武器として持っておいてもいいと思うのです。労働時間の短縮にもなるかもしれない。そして、競い合うことで新たなグラフィック表現も深く広がっていくと考えています。

この「デザインの必殺技」の考えをまとめたのは、僕の著書『勝てるデザイン』でした。その巻末には「デザインの必殺技を集めろ!」というものがあり、クリエイターコミュニティ「マエデ」のメンバーを中心に先行して体験してもらいました。すると面白そうな必殺技がたくさん集まったので、デザインの必殺技のカードゲームを作るDesig-winプロジェクトを立ち上げました。

僕たち「マエデ」で作るプロダクトの多くは、クラウドファンディングを活用した資金調達を行っています。毎回プロダクトの魅力をいかに伝えるかに苦戦します。というのもマエデで作るものは、これまで世の中になかった新しいものですから、どうしても魅力が伝わるのに時間がかかるわけです。そんな中において、Desig-winは驚異的な人気を誇るプロダクトでした。今でも数多く再販を望む声をいただきます。

「広がれデザイン活動」であるアワードを立ち上げたいという想いと、Desig-winという眠れるキラーコンテンツの存在があり、Design-1 Grand Prixアワードは実現に向けて今まさに動き出しています。

Design-1 Grand Prixから新しいデザインの風を

Design-1 Grand Prixは、デザイン業界の発展にもなればいいなと考えています。

デザインの必殺技カードゲーム「Desig-win」

まずデザイナーのモチベーションにおいて。

僕の時代は今から20年以上前。就職氷河期ということもあり、一度就職したらほぼそれが本職で一社に勤めることがまだ長かった時代です。まだまだ転職も珍しく、グラフィックデザイナー一択で迷うことなく頑張りやすかった。それはそれで悩むこともありますが、シンプルでした。

今の時代の若い人にとって、AIへの不安や時代の変化、情報過多、選択の自由が広い、やりたいこと見つけろという複雑な社会背景。なかなかしんどいと思うんですよね。なので、いち早くグラフィックデザインの楽しさと魅力を体感してもらうことで、モチベーションを高め若手育成につなげられたら最高です。そこからグラフィックデザインにハマり、プロのデザイナーが増えていけばいいのです。

それから、グラフィックデザインの視覚表現そのものにおいても、発展のきっかけになれると思っています。

グラフィックデザインって、まっさらな状態から生み出しているのではなく、どこかで見たことがあるものの組み合わせで作る方がいいと考えています。脳に雷が落ちるような新しい視覚表現を作れる人はごく一握りの天才たちなのです。僕自身もすごいグラフィック表現を目指し、粘土をこねくり回すように作っては壊し、作っては壊しをしてきました。

また、今はワークライフバランスが叫ばれ、じっくりと作ることができなくなってきました。つまり、今の会社は、粘土をこねくり回すように作ることができにくい状況なのです。

いきなり、すごい視覚表現を目指す前に、型を覚えた方がいい。その型を追求することで型を破る人が現れるのですから。

デザインの必殺技は世に出たものだけで現在100種類あるのですが、関わる人が増えれば無限に増えます。

お茶の間にデザインを

Design-1 Grand Prixはアワードですから、1回ではなく毎年開催し続けることで知名度を上げていければと考えています。僕の展望としては、Design-1 Grand Prixはデザイナーだけのものにしたくありません。

ノンデザイナーで、今あるデザインアワードの存在を知ってる人がどれほどいるでしょうか? きっとグッドデザイン賞や食品ですがモンドセレクション以外はほぼ知らないと思うのです。もちろん目的が違いますからそれがいけないわけではありません。しかし、僕はデザインをお茶の間にまで届けることを使命としていますから、デザイナーでなくとも知っているアワードにしたいのです。今はノンデザイナーでもデザインをする人が増えました。ツールも端末もデザイナーだけのものじゃなくなりました。なので、アワードも広げていくときがきたのではないでしょうか?

例えば漫才の最高峰M-1グランプリは、コアな漫才ファンでなくとも広い層が楽しめて、毎年楽しみにしていますよね。それと同じくらい、Design-1 Grand Prixもエンタメとしてお茶の間に届けていきます。

数年前、「僕はなにで日本代表のユニフォームを着るのか?」について考えたことがあります。僕としては、何か一つを極めて、日本を代表する存在になりたいわけです。グラフィックデザイナーの日本代表に憧れていました。僕の名前の通り、志は高い。しかし、グラフィックデザイナーの日本代表はいわずもがなですが、僕以外に相応しい人がたくさんいます。

最近わかりました。

僕はデザインの力を広げる側、それを遊び心でエンタメ化する人。「デザインをお茶の間に届ける人」として、日本代表のユニフォームを着るのだ。47歳にもなって、20代の頃の気持ちのまま、デザインを愛しています。

いつまでも熱く、楽しく、貪欲なままで。

関連書籍

前田高志『愛されるデザイン』

「デザインだけじゃない、これは人生の話だ」てぃ先生(保育士)/すべてのビジネスパーソンに効く仕事術!/お菓子からゲーム、格闘技(ブレイキングダウン)まで、引く手数多の元・任天堂デザイナーの思考術!

前田高志『勝てるデザイン』

「本質を見抜いて、そこに遊び心を足してくれるのが、前田さんのデザインだ」佐渡島庸平(編集者/コルク代表)/「Illustrator時短術」「おすすめフォント3選」などデザイナー必見の技術はもちろん、「ダサいデザインはなぜ生まれるのか?」「プレゼンはラブレター」などデザインを武器にしたいビジネスマン必読の内容!

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愛されるデザイン

「デザインだけじゃない、これは人生の話だ」てぃ先生(保育士)

すべてのビジネスパーソンに効く仕事術!感動のロングセラー『勝てるデザイン』の続編!ゲーム、漫画、お菓子からBreakingDownまでを手掛ける超人気デザイナー・前田高志の全思考術・仕事術がここに!!!

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前田高志 クリエイティブディレクター/株式会社NASU代表

大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂株式会社へ入社。約15年間、広告販促用のグラフィックデザインに携わったのち、2016年に独立。株式会社NASUを設立。「デザインで成す」を掲げ、企業のデザイン経営に注力。クリエイターコミュニティ「前田デザイン室」主宰。

2021年9月にデザイン書『鬼フィードバック デザインのチカラは“ダメ出し”で育つ』をMdNから、2024年4月にデザイン書『デザイナーが最初の3年間で身につけるチカラ』をソシムより出版。2024年7月にはビジネス書『勝てるデザイン』の続編を幻冬舎から出版予定。「遊び心」のあるデザインが強み。

受賞歴2006-2007 NYADC merit The Oneshow merit/全国カタログ・ポスター展 経済産業省商務情報政策局長賞/2021,2023 グッドデザイン賞/日本タイポグラフィ年鑑 入選 2022特別賞/静岡新聞広告賞2023広告主部門グランプリなど

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