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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.09.13 公開 ポスト

【夢ごは日誌】天気雨は、きっと清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

天気雨は、きっと

「晴れ女」とか「雨男」とかいうものは、その人に不思議な能力があるんじゃなくて性格や優しさの表れなんだと思う。

「私、晴れ女だから」と言う人は、晴れの日に目が向いて、「晴ればっかりだな」と思う。「俺、雨男だから」と言う人は、雨の日に目が向いて、「雨ばっかりだな」と思う。

私の夫は、自分のことを「曇り男」だと言う。晴れでもない、雨でもない、曇りの日にまで責任を感じなくていいのに。「だいじょうぶ、私が晴れ女だから」と答える。実際、わたしたちの結婚式は台風が接近したが、見事にそれて、眩しいくらいの晴天だった。

楽しみにしていたイベントに雨が降ったとき、慰めのひとつとして「俺、雨男だからごめん」と言う人もいる。文句の行き場がないことの、行き場を引き受けてくれるのだ。

星座占いもしかり、天を人に結び付けるとき、そこに願いや祈りや慈しみがあるように思う。

先日、友だちに花束を贈って励まそうと、その子の住む駅に早めに着いて、花屋へ向かって歩いていた。この日も晴れていて、日傘をさしながらどんな花束にしようか考えていた。

あまり明るすぎるのはよくない。ささやかで主張し過ぎず、それでいて暗くはない、やさしい色の、そっと寄り添うような。

そのとき、さぁーっと日傘をやさしく撫でるような音がして、空を見上げたら、金糸のような雨が降っていた。私の半径1メートルの間だけ。それも一瞬。5秒、ううん、3秒くらいのできごと。

あまりにもピンポイントだから、上の階の住人が花の水やりでもしているのかとキョロキョロ見回してみたけれど、ただスカッとした青色の空が広がるばかりだった。

それはそれはやさしい天気雨だった。

出来上がった花束を抱え、友だちの家へ急ぎ、このことを話そうと思った。

「あの子をよろしくお願いします、と言っているような雨だったよ」

友だちは少し笑ってくれた。

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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