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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2024.09.24 公開 ポスト

「いつかこんな素敵な女性に!」うっかり寝過ごした敬老の日に考える“理想のシニア婦人”梅津奏

祖母への愛情から繋がる老婦人への憧れ

 

だいっ嫌いです、繁忙期の三連休。

平常時なら天からの恵みでしかない祝日が憎たらしい小悪魔に思える、この季節がやってまいりました。腹立たしいアイツ(祝日)のおかげで営業日数が減り、案件進行のスケジュールに脇腹パンチをかましてくる。なんで今なんだ。なんで今休まなきゃならないんだよ―!

……と散々ぶつくさ言っておきながら、9月最初の三連休は初日の夜から発熱。2/3以上の時間をベッドで過ごしましたとさ。まあ、疲れていたんでしょう。なんだかんだ必要なお休みだったのだな……と、ぼんやりする頭でここぞとばかりに合理化しようとしたのだけれど、なんだか自分を納得させられない。

最終日の午後にフラフラとベッドから這い出て、そもそも今日はなんで休みなんだ? とスマホを見たら、なんと敬老の日。私には敬いたい大切な“老”な人がいるのに、なんということだ。大失態だ。

 

両祖父はすでに亡く、東北と四国に祖母がそれぞれ住んでいる。

クール系の東北祖母と、おちゃめ系の四国祖母。キャラは違えどどちらも心底大切な存在で、筆まめな私のお便り相手でもある。老化のせいでペンをとるのも億劫になっているらしく返事はほぼ来ないけれど、私からの手紙や葉書は楽しく読んでくれている由。その言葉を言葉通りに受け取って、せっせとペンを走らせるアラフォーの孫である。

敬老の日ともなれば、ちゃんとそれ用にカードを選んで送りたかったのに……。忙しさのせいで自分がないがしろにしているあれこれのことが思われ、なんともいえない気持ちになってしまった。

 

祖母たちはいわゆるキャリアウーマンではなかったけれど、家族のケアをしながら趣味も仕事もほどよく同時進行で楽しんでいた昭和のパラレルキャリアウーマンである。彼女たちが現役時代にこなしていたであろう業務量を考えるとよくもまあ、ああも朗らかにいられたものだと感服する。もちろん、(子どもはともかく)孫に鬼の形相は見せないだろうという建前はある程度想像できるが、それでも。

 

思春期から自立するまでの真剣果し合いみたいな歴史がある両親とは違い、祖母たちに対してはもっと軽く柔らかい感情がある。そしてその親愛や敬愛を先へ先へゆるゆると手繰っていくと、私が常々夢見ている「素敵な老婦人になりたい」に繋がる。

働きすぎてケアをサボりまくっているせいで、フィジカルな老化を日々実感している今日この頃。若さにはこだわっていないつもりだったのに、音を立てて(本当に、「ずる…ずる…」みたいな音が聞こえる気がする)劣化していく肌に、顔つきに、体型に愕然としてしまっていた。そんなタイミングで「老婦人への憧れ」を思い出させてくれたことは素直にありがたく、にっくき9月の祝日に一言お礼を言ってあげてもいいと思っている。

と、ここまで考えてやっと「今の私にとって必要な休日だった」という合理化完了。本棚の前に移動して、憧れの老婦人を具現化したようなイラストレーター3人のエッセイを取り出す。はい、これにてQED!

玲子さんののんびり老い支度 』(西村玲子/主婦の友社)

やがて辿り着く好きなこと、素晴らしい出来事、無理やりに出向かなくてもいつかこちらにやってくる不思議、次はどういうことにつながっていくのでしょうね。――『玲子さんののんびり老い支度』より

住まいのしつらえ、心地よいおしゃれのこと、ままならない身体と折り合いをつける心の持ちようについて……。70代になって大病を経験し、改めて見直した暮らしのあれこれ。かわいらしいファンタジーと女性のリアルがほどよく同居した美しいイラストと共に、老いることにまっすぐ向き合った西村玲子さんの優しい言葉が詰め込まれた一冊。

くらしのきもち 』(大橋歩/集英社文庫)

私、誠心誠意とか誠実とか正直とか真面目とか努力とか好きですねえ。そうでないと創造もできないと思うので、これからもその線でいこうと思っています。――『くらしのきもち』より

平凡パンチの表紙イラストを長年担当し、素朴かつスタイリッシュという独特なタッチが魅力的なイラストレーター・大橋歩さん。おしゃれや暮らしにまつわる著作も多数持つ大橋さんが、ご自身の生い立ちやキャリア・子育てを振り返りながら綴る「日々の視点」。「人との出会いが新しい発見に導いてくれる」と語る大橋さんの、慎ましくも大胆なエッセイ。

ワクワクする!67歳からのはじめての一人暮らし 』(本田葉子/幻冬舎)  

今しか見るべき自分はいない。今でしょ! とチョイ前の流行りフレーズを口に出して言ってみる。毎朝、鏡の前で「今日よね!」と呼応する。――『ワクワクする!67歳からのはじめての一人暮らし』より

夫を亡くして3か月後、老いた義母と愛犬を連れて引っ越してきたのは海辺の街・小田原。その後二人(一人と一匹)を見送り、67歳にして初めての一人暮らしとあいなったイラストレーターの本田葉子さんのコンパクトな暮らしのあれこれ。合理的な「暮らしのサイズダウン」と、オシャレや食・お裁縫などの「好き」を楽しむ心の遊び。経験とセンスに裏打ちされたその抜群のバランス感覚は、まさに憧れの老婦人。

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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