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山野海の渡世日記

2024.09.25 公開 ポスト

「胸キュン」がここにあった!山野海(女優、劇作家、脚本家)

いやあ、暑い。

九月も終わりかけているのに全然涼しくならない。

今年の外ロケの暑いこと。この3ヶ月で汗10リットルはかいたと思う。

さて、まだまだそんな暑い9月だが、今私は10月から始まる連ドラを絶賛撮影中。

なんと胸キュンドラマに出演しているのだ。

 

当然のことだが私の役所は「キュン」には全く関わらない。

何度も台本を読み込んだが、私の役の中に「キュン」の「キ」の字も見当たらない。

はい。私の役は「キュンキュン」している人たちの周りにいる、とある高校の教師の役である。

 

通常連ドラの仕事が入ると、まずマネージャーから連絡があり台本をいただく。

そして最初に主要スタッフさんと顔をあわせるのが、衣装合わせだ。

初めましての人もいれば、何度もご一緒しているスタッフもいる。

今回のドラマでは監督、チーフプロデューサー、プロデューサーなど

何度かお世話になっている方が数名いらした。

メイクさんや衣装さんは初めまして。

さて、そこからまずは監督やプロデューサーと今回いただいた私の役作りについてお話しする。

監督たちのイメージと、私が台本を読んだ役のイメージを擦り合わせるのだ。

骨格になる役の性格などを話し合い、次にその役に合った見た目を決めていく。

そこで私は一つの提案をした。メガネをかけたいと。

頼めば用意してくださるが、今回は自分のメガネを数個持参した。

その中から一つを選び、また私は提案した。

よく年配の方がメガネをかける時につけている、紐。

いわゆるメガネストラップなるものをつけたいと。

皆さん大賛成してくださり、いよいよ用意してくれている衣装数点に着替える。

パーテーションで仕切られた中で衣装に着替えていると

明らかにメイクさんの声で「塩沢ときさん」というワードが聞こえてきた。

私は思わずパーテーションの中から叫んだ!

「そう! まさにそのイメージでメガネストラップつけたかったの! どうして分かったの?」と。

するとメイクさんが

「お話し聞いてて絶対そうだと思いました!」と答えてくれる。

初めましてのメイクさんと心がつながった!

ドラマの中にはなかったが、私とメイクさんの「胸キュン」がここにあった!

慌てて衣装に着替えて外に出て行くと、監督とメイクさんがスマホの画面を見ながら何やら話している。

そのスマホ画面を覗き込むと、そこには私の前の宣材写真。

おもしろぱっつん前髪の私がいた。

メイクさんが言う。

「このぱっつん前髪でお団子頭。メガネストラップを付けたら、塩沢ときさんに近づけますね」と。

その場にいた全ての人が、満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

私は他の人より5回は多めに頷いた。

 

翌日、自分のイメージと監督やメイクさんのイメージが奇跡的に一致したことに

気をよくした私は、すぐにいつもお願いしている美容室に向かった。

私のオーダーはこうだ。

「思いっきり攻めた前髪で、昔の塩沢ときさん風にお願いします」

若い美容師さんは塩沢ときさんの事を知らなかったが、スマホで写真を見せて私のオーダー通りに前髪を切ってくれた。

その日は撮影はなかったので、髪の毛はお団子頭にせず下ろしたままで自宅に帰った。

翌日から撮影があったので、諸々準備をし、お風呂に入り

改めて自分の顔を鏡で見た。

あれ? ちょっと待てよ。

髪の毛下ろして前髪ぱっつんだと、なんか思ってたのと違う。

どちらかというと今私は、六角精児さんにそっくりだ。

いや、六角精児さんは大好きな俳優さんだ。お芝居も素敵だしなんせ歌が色っぽい。

だけど私は女性だ。しかも今回のドラマは女教師の役だ。

六角精児さんに似た女教師ってどうなんだろう……。

見れば見るほど似てると思っている私。

若干の不安を抱えながら、翌日の撮影現場に向かった。

監督やプロデューサー陣にお会いしたので、私はすぐに正直に話した。

「塩沢ときさん目指したつもりが、六角精児さんになりました」と。

その場にいた全員大爆笑。

でもその時メイクさんが「大丈夫です。お団子頭にすれば塩沢ときさんになれます」

と言い切ってくれて私はまたまたメイクさんに「胸キュン」。

そしてメイクさんの魔法のような手にかかって無事に塩沢ときさん風の高校教師が出来上がったのである。

それにあの素敵な六角精児さんの風味が入ってるなんて最高じゃないか!

この日、私は意気揚々と撮影に臨んだ。

意気揚々の私。

さて、本題のドラマであるが

胸キュンあり、笑いあり、時にほろりとしたり、とにかくとても素敵なドラマである。

どうか一人でも多くの方に見ていただきたい。

 

10月9日(水)深夜24時30分スタート

ドラマNEXT「私の町の千葉くんは

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山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。

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山野海 女優、劇作家、脚本家

1965年生まれ。東京新橋で生まれ育ち、映画女優の祖母の勧めで児童劇団に入り、4歳から子役として活動。19歳で小劇場の世界へ。1999年、劇団ふくふくやを立ち上げ、全公演に出演。作家「竹田新」としてふくふくや全作品の脚本を手がける。好評の書き下ろし脚本『最高のおもてなし!』『向こうの果て』は小説としても書籍化(ともに幻冬舎)。

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