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私は演劇に沼っている

2024.09.27 公開 ポスト

「優しさ」の対義語について考える私オム(脚本・演出家)

最近、優しさとは何なのかと考えている。

人のために尽くすこと。人を想いやること。ざっくりと大まかにいうとそんなところだろうか。対する相手を想い行動することが優しさというものの概念なのだろう。

しかし、自分が相手を想い、良かれと思ってした行動が相手にとっては不必要で不快な行動の時がある。

例えば、ダイエット中の人に高級焼肉をご馳走しようと連れていくのは優しさではない。拷問だ。肉と痩せたい気持ちの狭間でもがき苦しめることになる。

 

相手が何を喜び、何が最適なのかを考えて慎重に行動しないとならない。

優しさは少し間違えると自己満足になる可能性がある。こちらが勝手に、相手を想っていれば正しいというわけでもない。

優しさとは何なのかと、なかなか考えが出ずにいる。

優しさの対義語を調べてみた。すると、冷たいや厳しいとネットでは出てきた。

私はそうではないと感じる。冷たいや厳しいは表面的なもので、私が答えを出したい優しさの本質的な部分を表せていない。

 

なぜ最近優しさについて考えているのかというと、来月に上演する舞台のテーマのひとつに”優しさ”を取り入れているからだ。

その作品は「月農」というタイトルで、月と農業を絡めた話となっている。

簡単なあらすじは、地方の田舎町で自給自足をしながら生きる人々の物語である。そしてそこで生きる人々は様々な優しさを持っている…。

あまり詳しく書けないが、人の温かさを大切に描いた。是非ご観劇いただけると有難い。

 

「月農」の執筆をしていた頃、私は優しさとは自己犠牲だと考えていた。

自分の欲より相手の欲、望みを優先すること。譲る心で相手に尽くすこと。それが私は優しさなのかなと考えていた。

3人兄弟の末っ子の私は、譲られ優先された幼少期を過ごした。たくさんの優しさを姉と兄からもらった。

間違いなく、私が生まれて初めて実感した優しさは姉と兄からだ。親からは優しさではなく、愛である。今回の記事は優しさについてなので、親からの愛については今回は触れない。

 

とても優しい姉と兄であった。

3つ上の兄にくっ付いて、兄が友人と遊ぶのによくついて行った。

かくれんぼでも鬼ごっこでも、何でも私にはハンデを付けてくれた。5回タッチされるまではセーフ。私が鬼の時は逃げられる範囲を縮小…。などの私に対しての譲歩をたくさんしてくれた。

今思えば、確実に邪魔な存在であったと思う。兄の友人たちは手加減をしてくれていただろうし、兄も気にかけないといけない存在がいることで思い切って楽しめきれなかったのではないだろうか。

それでも兄の嫌な顔を見たことはなかった。遊びについて行きたいと私が言うと必ず連れて行ってくれた。私の兄は、自分の欲より私の欲、望みを優先してくれる優しい人間だ。

「月農」を書いていると、そんな兄の姿をよく思い出した。

作中に兄妹が登場するのだが、ほんの少しだけ私の兄の一部を入れ込んだりした。

誰にも分からない、私にしか分からない兄の優しさが作品のいいスパイスとなりますようにと願い込める。

(舞台「月農」の台本)

「月農」の執筆が終わった今、私は優しさとは自己犠牲だとは思っていない。

とある役に言わせようと書いた「優しさって自己犠牲なんだよ」という台詞を消した。

兄の優しさを否定するというわけではなく、その役から見た優しさは自己犠牲ではないと思ったからだ。そして私にとっての優しさも変わったからだ。

私が執筆を経てたどり着いた優しさとは、想像することだと思う。

相手の想いを汲み、相手の心地よい状態を想像する。それが優しさなのではないだろうか。

幼少期の兄から受けた優しさを思い出し、兄の優しさを想像している自分が穏やかな気持ちになっていることを感じ、兄に優しさを返したいと思った。その心が優しさだと気付いた。

とにかく相手の幸せ想うこと。行動はその後で良い。まず想わないと心のある優しさにならない。

優しさの対義語は無関心なのかもしれない。

 

「月農」には自分以外の人間を想う人々がたくさんいる。

是非、いろんな種類の優しさを観にきてほしい。

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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