共和党のドナルド・トランプ前大統領と、民主党のカマラ・ハリス副大統領が、熱い接戦をくり広げているアメリカ大統領選挙。 アメリカ政治にくわしいジャーナリストで、著書『トランプ VS. ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕』を上梓した松本方哉さんは、「トランプ氏をアメリカ大統領に絶対再選させてはならない」と警鐘を鳴らします。日本では報じられないディープな情報をもとに、その理由を解説してもらいました。
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トランプは「隙間だらけの人間」
──この本で松本さんは、トランプ前大統領は絶対に再選させてはならないと、ご自身のスタンスをはっきり打ち出していらっしゃいますね。
ジャーナリストには、公正中立にものごとを提示すべきだという不文律があります。それはジャーナリズムの一丁目一番地、いろはの「い」です。
しかし、そこから導き出される結論をあいまいにして、真実を語らないのは誤りであると思っています。それは公正中立などではなく、単にどこかにおもねっていたり、自分が導き出したものをごまかしていたりするにすぎません。
前回のトランプ政権を分析し、トランプ氏自身の行動や性格に関する事実を積み重ねたことから導き出されるのは、トランプ氏を今回の選挙で再選させてはならないという結論しかありませんでした。そこはきちんと書かねばならないと考え、明確に打ち出すことにしました。
──トランプ前大統領とは、いったいどんな人物なのでしょうか?
直感にしたがって生きている、隙間だらけの人間だと思っています。
7月の共和党大会で行なわれた指名受諾演説では、最初の20分間は自分が暗殺されかかった話をしていました。とても内省的な話で、自分にも悪いところがあった、みんなが手をとり合う社会にしていくべきだと訴えていて、ひょっとしたら暗殺未遂のせいで本当にトランプ氏は人が変わったのかもしれないと思わされる内容でした。
このまま終わったら、間違いなくトランプ氏の勝利だと思ったくらい、素晴らしい演説内容だったんです。
ところが彼の直感は、これでは面白くないだろうという方向へ走ってしまった。聴衆を沸き立たせるには、当時まだ大統領候補だったジョー・バイデン氏を叩く発言をすべきだと考えたのでしょう。トーンは少し抑え気味でしたが、結局いろいろな暴言を吐いて、崇高な演説をみずからぶち壊してしまいました。
これは直感にしたがって生きている、隙間だらけの人間がとる態度だろうと思うわけです。
他人は自分を称えたり、自分が望むことを実行するのが当然で、そうでない人間は敵であり、滅ぼすべきだ。トランプ氏には、こうした独特でいびつな人間関係の理解があると思います。
自分こそがルールで、それ以外の権威、たとえばアメリカ憲法より自分が上だと考える。極端な権威主義に走りやすいことが、再選されたときに大きな混乱を生む可能性があります。
この本では、トランプ氏が究極のニヒリスト、つまり既存の価値体系や権威をすべて否定する考え方を持った人間だということを、彼の好きだという歌から解き明かしています。
また、トランプ氏は権威主義的、もっと言えば独裁主義的な人間から褒め称えられることを好みます。権威主義的、独裁主義的な世界の指導者と肩を並べたいと思っており、彼らに操られてしまう傾向があります。
21世紀の4分の1が終わろうとしている2024年からの4年間、そんなトランプ氏がアメリカ、そして国際社会の指導者になるのはあまりに危険であり、壊滅的な選択ではないかと思うわけです。
共和党もまた「二極化」している
──トランプ氏を大統領候補として擁立している共和党も、今とてもまずい状況になっているそうですね。
昨今、アメリカが二分化、二極化していることは、日本でも認識されるようになりました。ここで問題なのは、共和党もまた二分化、二極化していることです。原因はトランプ前大統領にあります。
トランプ氏の大統領在任中、部下の補佐官たちが「もう一緒にやっていられるか」と次々と離反していきました。ホワイトハウスからどんどん人が消えていき、空洞状態になったトランプ氏の心に、ハンガリーのビクトル・オルバン首相という人物が温かい声をかけました。
オルバン首相は、移民排斥やメディア統制を政策とする権威主義者です。そんなオルバン首相に「あなたは心配ない、世界最高の指導者だ」と持ち上げられて、トランプ氏はオルバン首相に傾倒していくんです。
MAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大な国に)の上層部が、2020年の大統領選挙を無効にしようと犯した数々の犯罪で身動きがとれなくなっている中、トランプ氏はオルバン首相の考え方、「オルバン主義」を共和党内に広めようとしました。
どうかオルバンの話を聞いてやってほしいと、オルバン首相にアメリカ国内で積極的に講演会をやらせました。そして、トランプ氏に不満を持っている議員たちに圧力をかけ、あるいは追い出して、共和党を変容させてしまいました。
声が大きく、政治的パワハラを振りまくオルバン主義者の議員と、共和党らしい共和党を愛する議員の割合は、現在、ほぼ半々です。これが今回の選挙でどうなっていくのか、今回の選挙の大きな見どころのひとつだと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】松本方哉と語る「『トランプ VS. ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕』から学ぶジャーナリストから見た大統領選」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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