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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.10.02 公開 ポスト

【夢ごは日誌】私には1680円のフェアメニューを頼む価値がある清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

母のフェアメニュー宣言

この話のあと、みんなで初めて頼んだシェリー酒。

「自分の食べたいものがわからない」と、友達がうなだれた。

お互い寝かしつけを終えた夜21時半、集まった居酒屋で。

ベビーカーを押してスーパーに行っても、ぐずらないうちに買い物を終えることと、上の子が食べてくれる食材探しに集中して、自分が好きなものがなんだったか、何をおいしいと思っていたか、思い出せない。

「わかる、わかる。食べさせるのに必死で、自分はテキトーなものをテキトーにかき込んでるだけ。外食だって、子どもの食べたいものが優先だよね」

もう一人の友達が答える。

わかる、わかる。と私も相槌をうち、そして胸に秘めた決意を厳かに伝える。

「だから私、最近決めたんだ。ファミレスでフェアメニューを頼むって」

人気シェフ監修の香りきわだつポルチーニづくしのハンバーグ、牡蠣と蟹の和風ピラフ&海老と帆立のあつあつグリル、あふれるチーズと濃厚ビーフシチューのふわとろオムライス……。フェアメニューはじつにおいしそうで、かつ高い。1680円とかする。

下の子もいっちょまえに一皿頼むようになってから、ファミレスの総額があがった。つい、自分は洋食セットも和食セットもつけなくていい、ワンプレートの中から選んでしまう。子どもたちが出された料理を気に入らなかったときに備えて、辛くないもの、子どもたちが好きそうな味のものを選んで保険をかける。

「でも、もうやめたの。私には1680円のフェアメニューを食べる価値があるから」

と、ラックス・スーパーリッチのキャッチコピーを真似て宣言する。

日々の食卓で、自分をいつも後回しにしているんだから、たまのファミレスくらい、好きなものを頼ませてもらう。子どもが食べなかったときの保険? 知るか!

というわけで、最近、食べたいものを堂々と注文している私。「この三ツ星シェフの生パスタで!」と宣言すると、ハンバーグプレートを頼んだ堅実な夫は一瞬怯んだ表情を見せるが、知ったこっちゃあない。大人も食べたいものを食べたらいい。こういうとき、夫にはいつも言う。「その数百円、天国には持っていけないよ」

とはいえ、フェアメニューを頼んだときは、ドリンクバーをつけないで、なんとなく帳尻を合わせようとする自分がいる。

 

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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