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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.10.10 公開 ポスト

【夢ごは日誌】上司と夜な夜な「サンボマスターの会」。あの頃、会社でロックしていた。清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

サンボマスターの会 ~会社でロックしていたあの頃

先日、「サンボマスターの会」が再結成された。

サンボマスターの会とは、その名の通り、サンボを愛する人々が集まり、サンボしか歌わないカラオケをしたり、日比谷野音のライブを聴きに行ったりする会のことだ。

メンバーは前いた会社の編集者4人。私、SさんとIさん、そして藤井さん。

私以外の御三方はその後、編集長となられた。

〈新しい働き方〉以前の、深夜のタクシー帰りが当たり前だったあの時代に、なぜあんなに集まれたのだろう。今回の再結成カラオケで、「コンちゃん(サンボマスターのベース)が出演した『ソラニン』って映画もみんなで観に行ったよな」とSさんが言って、さらに不思議に思った。一体、その情熱はどこから……。

拙著『夢みるかかとにご飯つぶ』で書いたとおり、藤井さんは今はもういない。誰よりも音楽的素養があり、サンボの新譜解説をかわいい文字でむちゃくちゃ専門的に書き連ね、みんなに回覧してくれた彼女は、数年前、病で旅立った。

「サンボマスターの会」は、みんなが異動や昇進で忙しくなり、転職する人もいて、自然消滅した。女子トイレで藤井さんと会うたび、「またみんなでサンボの会したいですね」と言い合った。メンバーの誰かが仕事で大変そうだ、という話を耳にすると、他のメンバーと「サンボの会で励まそうか」と連絡を取り合ったりした。

SさんとIさんと「藤井さん、この歌よく歌ってたな」「タンバリン叩きながらニコニコ合いの手入れるの、かわいかったですよね」と懐かしみながら、ああ、そうだった、と思い出した。

働きづめで、ほとんどの時間を会社で過ごしていたあの頃、その場所に仕事とは全く関係ない繋がりがあることが誇りだった。私は仕事だけをしにきてるんじゃない。ちゃんと人生をしにきてる。サンボ風に言えば、ロックンロールをしにきてる。

今回、SさんとIさんは私の作家デビューもお祝いしてくれた。花束をくれ、デザートプレートに花火があがり、二人とも予約購入したという『夢ごは』を持ってきて、「いつかキヨシはそっち側に行くと思ってた」とサインをねだってくれた。いつか会の誰かにおめでたいことがあった時、あるいはピンチの時、また〈4人〉で集まろうと約束し合った。

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ。

 

 

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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