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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.10.12 公開 ポスト

突然の子キャット様との3日間で気づいた自分の愚かさカレー沢薫

人生の最推しかつそれゆえに近づくことが叶わない神である「猫」しかも子キャット様が降臨し、3日で去るというまさに神話の1ぺージのようなできごとが起きた。

それ以来時間の感覚が希薄であり、周囲の空気もずっと薄いのだが、昨日も3日の間に撮影した写真や動画を見返して涙したのは確かである。

 

私は写真を撮るという習慣がなく、フォルダにあるのはほとんどガチャ結果のスクショ、飯の写真も食ってから写真を撮ろうとしてたことを思い出すため、よく見たらどれも一口食った後だ。

よってこんな短期間でこれだけ写真を撮ったのは初めてだし、動画機能をまともに使ったのも初めてだ。

つまり、戦死した兵士の胸ポケットに同じ女性の写真が複数枚入っていたら、これは妻や恋人など、親しい女性の写真に違いない、と思うかもしれないが、もしかしたら「3日だけつきあった彼女」しかも、つきあっていると思っていたのはそいつだけの可能性があるので「彼女にこいつの形見を渡してやらねば」などという余計な使命をいだかなくてよい。

私も写真を見返すたびに「手放すべきではなかった」と悔いているが、元々私の猫ではない。

しかし、それならせめて72時間ずっと一緒にいるべきだった。

最初から3日の預かりと聞いていたはずなのだが、何故か一目見た瞬間「うちの子」と思ってしまい「一生一緒にいてくれや」と私の中の道山が三木しはじめてしまったため、まさか本当に3日でいなくなるとは思わなかった。

しかし「もっと一緒にいる1分1秒を大切にするべきだった」と気づけるのはいつも失った後なのかもしれない、人間は愚かである。

だが本当に72時間ずっと一緒にいた場合、4日目に子キャットを連れ去ろうとする夫を、最もフィジカルでプリミティブかつフェティッシュな「暴力」という手法で止めていた可能性がある。

傷害事件容疑者はおキャット様の飼い主に相応しくないし、3日でここまで情緒不安定になる奴も猫を飼うのに向いていないだろう。

などと、子猫のことを思い出しては後悔し最終的に「これでよかった」という結論に達するループを1日1万回続け、最近祈る時間が増えて来た。

自分でもここまで引きずることあるかと思っているので、やはりおキャット様のギガ数はフロッピーディスクの私には荷が重い。

しかし、自分におキャット様と関わる資格があるのか否かばかりを考え、当のおキャット様から数十年遠ざかっていた私に「そんなことどうでもよくなるぐらい猫はかわいい」という原点かつ宇宙の出発点に戻れたのは本当に良かった。

実際、推しや推し活に対し真摯に向き合いすぎて、却って推しから遠ざかったり、活動自体を見送って人もいるのだ。

かつて、あるジャンルにハマったが、新参ゆえに界隈のルールが分からず、知らぬうちにルール違反を犯すのが怖いから、イベントなどの参加は控えようかと思うという相談を受けたこともある。

確かに何ごとにもモラルとルールは必要であり、真面目な人ほど輪を乱したり、何より推しに迷惑がかかることは避けたいと思うものである。

しかし、そのせいで推しに関わる機会を損失したり、心配から推し活自体を楽しめなくなるというのももったいない。

逆に言えば、あまりジャンルのルールを厳格化しすぎると、楽しめない人が増えてしまうので推しのご活躍を祈っているならほどほどにした方が良いということだ。

もちろんおキャット様含む動物というジャンルは命がかかっているので、どれだけ厳しくしても、し足りないぐらい厳格にすべき世界だとは思う。

しかし、それを重く考えるあまり、パンドラの箱に残った最後の希望であり、この腐敗した世界に落ちてきてくださったゴッズチャイルドである猫とは一切かかわらずに生きるというのも意味不明であると気づいた。

猫とのかかわりは飼うか飼わないかだけではない、避けるのではなく、自分にできる猫へのアプローチを模索していきたいと思う。

また、自分は自分が思っている以上にバカと気づけて良かった。

安易に動物を飼って手放す人間が増えているという報道を見るたびに、何故そんなことができるのか、バカなのか、と思っていた。

実際、子猫を預かるかもしれないと聞いた時、狂喜乱舞などせず、むしろ冷静に「安易にそんなことをしていいのか」という不安や危惧を抱いていた。

しかし、子猫を見た瞬間、控えめに言って判断力が5億ほど暴落し「かわいいからうちで飼う」と思ってしまったのは紛れもない事実である。

愚かな行いというのは「するかも」と思っている人間より「自分は絶対しない」と思っている人間ほどやりがちとも言う。

自分にも安易に動物を飼う人間の資質が存分にある、と気づけたのは良かった。

猫は人間のことなどお構いなしにただ生きているだけなのに、人間は猫を見ただけでこれだけのことを考えることができる。

やはり、猫は脳漿色の世界と私の人生に与えられた彩である、今後はそれを無駄にしないように生きていきたい。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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