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5度のがんを生き延びる技術

2024.10.22 公開 ポスト

闘病前の自分を目指す必要はある?5度のがんを経験して悟った病後の生き方高山知朗

大きな病気をしたら、一刻も早く治して、元の元気な自分に戻りたいと願うもの。
ところが5度のがんを経験した高山知朗さんは、「元の自分を目指す必要はない」といいます。その真意とは?
高山さんの最新刊『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』から抜粋して掲載します。

*   *   *

メリットとデメリットの天秤、手書きイラスト

これまでのがん治療が残したデメリット

病気の治療には必ずメリットとデメリットがあります。

抗がん剤には腫瘍を殺すというメリットと同時に、正常な細胞をも痛めつけるというデメリットがあります。

手術には腫瘍を摘出できるというメリットとともに、後遺症が残るというデメリットがあります。

私が受けた治療の結果、現在も残る障害や症状などのデメリットを挙げてみます。

視覚障害

脳腫瘍の手術の影響で、視覚障害が残りました。視野を縦横に四分割したときに、左下の4分の1のエリアが見えません

このため、多くの人で混み合った駅を歩いていると、左側にいる人が見えずにぶつかってしまいます。

外出の際はヘルプマークをつけています。車と自転車は手放しました。

帯状疱疹後神経痛

悪性リンパ腫の抗がん剤治療中に、合併症で帯状疱疹になり、後遺症として帯状疱疹後神経痛が残ってしまいました。

もう発症から10年以上経ちますが、右脇の下に針が突き刺さったままになっているような持続的な強い痛みが、24時間365日続いています。

根本的な治療法はなく、鎮痛薬のプレガバリン(リリカ)を朝晩、そしてトラマドール(トラマール)を3~4時間おきに飲んでしのいでいますが、痛みを完全に抑えることはできません

これが私のQOL(生活の質)を最も損なっています。

骨密度の低下

白血病の移植治療による影響。これが原因で腰椎を圧迫骨折しました

禁酒

抗がん剤治療や移植治療の影響で肝臓に良性腫瘍ができているため、以前は毎日飲んでいたお酒を完全にやめました。でも娘の二十歳の誕生日に解禁する予定です。

 

その他、体力の低下、発熱しやすさ、疲れやすさ、髪の毛が細く少なくなった、左足の痺れ、顔の皮膚の白斑等、治療で残った身体的な不都合はいろいろあります。

でもどれも小さいことだと今は思っています。なんといっても、生きていられるだけでありがたいのですから

病室で布団にくるまって苦痛を耐え忍んだり、生死をさまよったりした日々のことを思うと、命があって、自分の家で家族と過ごせること、当たり前のように明日が来ることが、本当にありがたいと思って生活しています。

バイタルサインモニター

がんになる前と同じ体を取り戻す必要はある?

入院期間が長ければ長いほど、体力が回復するのには時間がかかります。なかなか自分が思ったようには回復しません

初期の固形がんで、手術のみの治療で比較的短期間で退院できた場合は、体力面のダメージもそれほど大きくはないかもしれません。

しかし、悪性リンパ腫や白血病のような血液がんで、半年を超えるような長期間の入院で、大量化学療法(通常の化学療法よりもはるかに高い用量の抗がん剤を用いて行なう治療)や造血幹細胞移植などの強い治療を受けると、体力や内臓へのダメージも大きくなります

 

2回目のがんである悪性リンパ腫の治療を終えて退院したときに、自分の脚力だけでは床から立ち上がれなかったことに衝撃を受けました。

そこから、家の周りの散歩や、ちょっと遠くの公園までのウォーキングなどのリハビリで、体力を回復するよう努めました。

しかし、思ったようには回復しません。筋力が失われただけでなく、強い抗がん剤治療や移植治療などで肝臓や腎臓など内臓の機能も影響を受けています。体力回復のペースはゆっくりでした。

がんばってご飯を食べても、入院中に10キロ減った体重は全然増えません。体重が増えないと、体力も筋力もつきません。

 

当時は早く会社に戻りたいという気持ちばかりが先行して焦っていました。

でも結局、病気になる前の体力に戻すのは無理だと気づいて、諦めました。それが最終的には会社を売却するという決断につながります。

虎の門病院の谷口先生からは、「焦らなくても、体重は忘れたころに増えてくるから大丈夫」と言われました。

今思い返してみるとその通りで、白血病の治療を経て退院して2年ほどすると、ようやく体重が増加傾向になりました

体重計に足をのせたところ

今現在は、病気になる前(58キロ)と比べて少し少ないくらいの体重(55キロ)を維持できています。

体重はかなり戻りましたが、体力や筋力という面では、元の自分に全然及びません。外出が続くとすぐに疲れて寝込んでしまい、疲れが抜けるには何日もかかります。

視覚障害があるため、電車での外出などは駅で通行人にぶつかってしまったり、階段で足を踏み外しそうになったりと注意が必要で、余計に疲れるという面もあると思います。

 

しかし、今思うのは、必ずしも病気になる前の元の自分に戻る必要はないということです。

そもそも加齢の影響もあるはずです。焦って元に戻そうと思っても無理があります。

昔の自分を前提に考えるのではなく、今の自分ができる範囲で生活を組み立てればいい

例えば、外出の予定を詰め込みすぎない、電車での通院は妻に付き添ってもらうなど工夫すれば、生活上それほど困ることはありません。

そしてちょっと無理して疲れたら、体の声に素直に耳を傾けて、休む。そう考えて身体的にも精神的にも無理をしないように心がけています。

 

もちろん目標を持って体力作りをするのはよいことです。私もできるだけウォーキングをするようにしています。しかし、到達目標を〈元の自分〉のレベルに設定して、焦る必要はありません。

元の体に戻らなくても、自分であることには変わりないですし、結局は今のこの体でできることしかできないのです。焦るだけ無駄だと気がつきました。

余談ですが、私は臍帯血移植によって、血液型が元のB型からドナーの女の子のA型に変わっていますので、そもそも「元の体」に戻すことはできません(笑)。

100%健康な体なんてあり得ない

今でこそ「無理せず、焦らず。病気になる前の体を目指さなくてもいい」なんて言っている私ですが、以前は100%の健康を目指している人間でした

私は父と姉と妹をがんで亡くしています。家族のがん闘病を見てきた影響なのか、私は少しでも健康上の問題があるとすぐに対処しないと気がすみませんでした。

健康診断で「尿酸値が基準値よりもやや高いですね」と言われたときは、毎日飲んでいたビールをきっぱりやめ、1か月後、必要もないのに病院に行って尿酸値の検査だけをしてもらい、基準値内に戻したことをわざわざ確認して安心しました

あるいは、1回目のがんである脳腫瘍の手術からしばらくしたころ、腕の皮膚にしこりができて近所の皮膚科に行きました。

Man scratch itch with hand. Man scratching his

医師からは「これは皮膚繊維腫というもので、良性なので放っておいて大丈夫ですよ」と言われたのですが、いずれ悪性化するのではないかとどうしても気になって、日帰り手術で切除してもらいました。

このように、自分の体に健康上の問題があることがとにかく許せなかったのです。

 

でも、ご存じの方も多いかもしれませんが、健康な人の体でも毎日数千個ものがん細胞が生まれていて、それを免疫細胞がやっつけています。

がん細胞が生まれる速さを、免疫細胞がそれらを排除する速さが上まわれば、腫瘍を形成していくことはありません。

それが、何らかの原因で免疫力が下がると、がん細胞を退治するペースが遅くなり、徐々に腫瘍になっていくわけです。

そう考えると、100%健康な体なんてこの世にないのです。健康な人の体にも、不健康な部分(がん細胞)があるのですから。

 

だから、100%元の自分に戻す必要もないのではないでしょうか。

昔の、100%健康な体を目指していた自分にも、そんなふうに言ってあげたいです。

*   *   *

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関連書籍

高山知朗『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』

5年生存率2%の壁を突破!「折れないメンタル」をいかに作るか? がんを5回告知されても生き延びた著者。40歳で最初のがんになり、53歳の現在までに脳腫瘍、悪性リンパ腫、白血病、大腸がん、肺がんを乗り越えた。著者が5度のがん闘病で実践した、絶望を乗り越えるメンタルコントロール術を体系化して解説。闘病に不安を抱える人や患者を支える人、ストレス過多な現代を生きるすべての人の支えとなる一冊。

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40歳、脳腫瘍。42歳、白血病。5年生存率10%―― 徹底的に調べつくして2度のがんを生き延びた、IT社長のすごい方法。 30歳でIT企業を興して経営者となった著者は、猛烈に働いていた40歳の時に脳腫瘍、さらに42歳の時に白血病と、2回の異なるがんを経験した。本書では著者が2度の闘病経験から学んだ、病を生き抜くヒントを丁寧に解説。地元の病院にすべきか、東京の病院にすべきか? 民間療法を試してみるべきか? がん患者にはなんと声をかけたらよい? など、病に立ち向かい、克服するための賢い患者の知恵が満載。

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5度のがんを生き延びる技術

2024年10月9日発売の高山知朗著『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』の最新情報をお知らせします。

バックナンバー

高山知朗

1971年、長野県伊那市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、Web関連ベンチャーを経て、2001年に30歳でITベンチャー企業の株式会社オーシャンブリッジを設立。11年、40歳で脳腫瘍(グリオーマ)を発症して手術を受け、腫瘍は全摘出されたものの視覚障害が残る。13年には悪性リンパ腫を発症し、約7か月間入院して抗がん剤治療を受け寛解に至るが、体力面の不安から17年に会社をM&Aで売却。その直後に急性骨髄性白血病を発症し、臍帯血移植を受けて約8か月の闘病の末に寛解に至る。20年には大腸がん(直腸がん)、24年には肺がんを告知されて手術を受ける。53歳の現在は、3か月ごとに検査のため通院しながら、妻と娘とともに自宅で元気に暮らす。

5度のがん闘病の記録をつづった「オーシャンブリッジ高山のブログ」は、がん患者とその家族から「勇気が湧いた」「希望の光が見えた」「冷静で客観的な文章で分かりやすい」と絶大な人気を誇る。著書に『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』(小社刊)がある。

オーシャンブリッジ高山のブログ http://www.oceanbridge.jp/taka/

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