『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
救急車を呼ぶか、呼ばないか。それが問題だ。
今回はちっとも「夢みる」でも「かかとにご飯つぶ」でもない出来事を綴る。
土曜日、子どもの運動会を観たあと、お腹が痛くなって横になっていた。痛み止めをのむけれど、ちっともよくならない。それどころか痛みが増してくる。
私は子宮腺筋症という持病があり、ミレーナという子宮内に入れる薬を試し始めたばかりだった。数日前から出血が続いていたので、婦人科を受診し、「卵巣が5㎝腫れているけれど、ミレーナを入れ始めのころはよくあることで、様子見で大丈夫」と言われていた。
でも、ネットで「卵巣の腫れ 腹痛」と検索すると「ひどい場合は卵巣破裂」だの「卵管が捻じれて結果的に手術して卵巣をとることに」だの、怖い情報が飛び込んでくる。
今からかかれる病院はあるだろうか。#7119で救急相談をする。近隣の緊急外来を4つ紹介してもらい、夫と手分けして順にかけるも、診察を断られる。
耐え切れず、痛み止めを追加。効かない。薬剤師との面談のもとでしか買えない強い痛み止めなのに、それが効かないことにパニックになる。
救急車を呼んでもいいんだろうか?
痛みは人と比べられない。だから自分が感じている痛みが、救急車を呼んでいいレベルかどうかわからない。他人の夫はもっと判断できない。私が救急車を呼んだせいで、もっと命の危険がある誰かの搬送が遅れてしまったら……?
夫と二人、ウンウン悩む。もう少し待てば痛み止めが効いてくるかもしれない。けれど、今日は三連休初日。このまま一晩乗り切れたとしても、日曜、さらに祝日と、二日間受診できないかもしれない。ムリ、それはぜったいにムリ。
結局、一時間以上待っても痛みが治まらず、夜はどんどん更けていき、身内の薬剤師に相談しても「みてもらったほうがいい」という意見で、とうとう夫に救急車を呼んでもらった。
子どもたちは非常事態にテンションが上がり、「ねー、ままー。これ何回目? きゅうきゅうしゃ、何回目なの?」とへたりこむ私の横で目をキラキラさせて聞いてくる。「いま、それ後にして……」(ちなみに正解は二回目。小学生の時、車に接触して搬送されたことがある)
そしてサイレンの音が近づいてきた。
(つづく)
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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