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アルテイシアの初老入門

2024.11.01 公開 ポスト

家庭内平和の実現に向けてアルテイシア

賢明な読者諸君はもうお気づきかもしれないが、猫はかわいい。

 

賢明な読者諸君~という表現を使ってみたかっただけで、猫のかわいさは誰もが知っている。

右派と左派、ブルベとイエベなど人類は分断しがちだが、猫はかわいいという点では連帯できるんじゃないか。

猫が総理になればいいのに、そしたら世界は平和になるよね……とモンゴルマンに話しながら、家庭内平和について考えてみた。

家庭内平和の実現に不可欠なことは、やはり対話だろう。

我が家の場合、結婚前に夫が「お互い人類なんだからちゃんと言語でコミュニケーションしよう」と提案してきた。

それから「察して禁止令」を発布して、なんでも話し合うようにしている。

双方に話し合う姿勢がなければ、対話は成立しない。

妻に意見を言われると「責められてる」と勝手に解釈して、防御や反撃をしてくる夫は多い。

夫と話し合おうとしても無視されるとか、逆ギレされるとか、野生のゴリラより言葉が通じないといった声も耳にする。

うちの毒毒モンスターペアレンツも逆ギレしてウンコを投げてくる勢だった。

これからパートナーを見つけたい方は、お互いに尊重して対話できるか、耳が痛い話についても話せるかを確かめてほしい。

また我が家の平和維持のカギは、干渉・束縛しないことだろう。

私は夫から「あれをしろ」「これをするな」と言われたことが一度もない。

ある日ふと私が「頭に皿を載せてカッパとして暮らそうかな」と言ったら、夫は「いいんじゃないか」と賛成していた。

「カッパって生き方が自由な気がして」と言うと「カッパの世界はわりと厳しいぞ」と夫。

この話を上野千鶴子さんにしたら「そういう人だから18年も続いてるのね」と言われて、それを夫に伝えたら「カッパに詳しい人ってこと?」と返された。

過干渉・束縛系の恋人と付き合ったときは苦しかった。「息が……息ができない……」と酸素欠乏症になっていた。

バウンダリー(境界線)の感覚が合っていることは重要なポイントだと思う。

私も夫のやることに口出ししないし、「好きにしなはれ」というスタンスだ。

我々はお互いの年収も知らないし、SNSアカウントも知らない。

夫が「わーい、ゲーム垢のフォロワーが増えた~」と喜ぶのを、私は「よかったねえ」と聞いている。

私が「わーい、去年より年収が増えた~」と喜ぶのを、夫は「よかったねえ」と聞いている。

家庭内ジェンダー平等は、我が家において最重要の争点である。

私が「妻の出世を喜べない夫とか、妻の年収が上だと気にする夫もいるのだよ」と言うと「そんな奴おるんかいな」と夫。

めっちゃおるぞ、ということは賢明な読者諸君はお気づきだろう(二回目)

妻は自分のがんばりが報われたことを喜んでほしいのに、夫は素直に喜べない。どころか劣等感を抱いてスネたりする。

それは「男は稼いでナンボ」「男は大黒柱であるべき」的な呪いがあるからだろう。

うちの夫はその手の呪いとは無縁である。世間や他人の評価とかどうでもいいし、そもそも金や出世に興味がないからだろう。

「いずれ文明は破綻して紙幣は紙くずになるぞ」と予言する夫はサバイバルが得意だ。

釣りと昆虫採集が趣味で野草やキノコにも詳しいので、マッドマックス的な世界観においては活躍が期待できる。

一方、私は算数が得意科目だが、夫はまるでダメである。「分数の割り算ってどうやるの?」と聞かれて「今までどうやって生きてきた?」とびっくりした。

夫婦は割れ鍋に綴じ蓋、得意分野で補い合えばいいんじゃないか。

家庭内における紛争の火種ナンバーワンは、家事育児問題だろう。

子どものいない我が家でも、家事問題では度々ドンパチが発生した。

夫の家事スキルが低いのは、義母がなんでもやっちゃうババアだったからだ。

戦中生まれのババア殿を責めるのも酷だよな……と思いつつ、息子のパンツまで買ってくる義母に「二度とパンツ買ってこないでください」とパンツ禁止令を宣言した。

メーカーの下着部門で働く友人が「今は5000円ぐらいの男性用トランクスを作ってる」と言うので「そんな高いパンツ誰が買うの?」と聞くと「おばあさん」とおっしゃる。

「おばあさんが百貨店でおじいさんのパンツを購入するのよ」という話に「自分のパンツぐらい自分で買えやジジイ!!」とシャウトした私。

自分の下着の世話まで妻に丸投げする、そんなんだからに配偶者に先立たれたジジイは早死にするのだ。

自分の世話も自分でできないなんて情けなくないんかい、ガッデーム!!

とエレキギターをぶち壊すフェミ妻に鍛えられ、現在の夫は百均でパンツを買っているし、家事も全部できるようになった。

男だからできないわけじゃなく、やればできるのだ。

「女性ならではのホニャララ」という言葉には抑圧と言い訳が含まれている。

たとえば「女は気づかいできて当然だけど、男は気づかいできなくても仕方ない」というふうに。

でも男性だって上司や取引先には気づかいや忖度をしているじゃないか。男は気づかいできないわけじゃなく、相手を選んでいるだけだろう。

妻が「風邪引いたみたい」と言うと「俺も熱っぽいんだよ」と返す夫はあるあるだ。

もし相手が上司や取引先なら「僕も熱っぽいんですよ」なんて返さず「大丈夫ですか?」と気づかいの言葉をかけるだろう。

「妻はケアする側、自分はケアされる側」と無意識に思っているから、妻には気づかいをしないのだ。

私はおじさん向けの講演で「上司や取引先は会社を辞めたら二度と会わない人たちだけど、家族は一生ものですよね? 妻や子ども、身内にこそ気づかいや思いやりを発揮するべきじゃないですか?」とお伝えしている。

関係性は金で買えない。家族に愛想つかされて熟年離婚されて孤独死して畳のシミに……

というフィナーレにならないために、ハッピーな老後を迎えるために、男性はケア能力を磨いてほしい。

そして男性こそ「愛されおじさん」を目指してほしい。

うちの夫は算数は苦手だがケアは得意だ。上司に嫌われているので出世とは無縁だが、部下や後輩からは愛されている。

パワハラで休職した社員が夫の部署に異動を希望するため、社内では「療養所」と呼ばれているそうな。退職した元部下からも釣りや飲みによく誘われている。

以前、夫が20代の部下の女性からかわいいプレゼントをもらってきた。

「その子、おまえさんのことが好きなんじゃないの?」と冗談で言うと「20代の子が40代のおっさんをそんな目で見るわけがないだろう。ポンチさん、気は確か?」と呆れた顔で言われた。

それを聞いて「まともなおっさんやな!!」と称賛した私。

芸能人の年の差婚がニュースになるが、あれは珍しいからニュースになるのだ。

一般的に20代の女性にとっておじさんは恋愛対象外であり、父親みたいな年齢のおじさんから好意や性的関心を向けられるとギョッとして、嫌悪感や恐怖心を抱く。

一方「俺はまだイケる」「20代とも付き合える」と謎の自信をもつおじさんがいて、若い女性の敬老精神を「好意」と勘違いするから厄介なのだ。

これはおじさんだけに限った話ではない。武田砂鉄さんとの対談では次のように話した。

アル:異性の優しさを好意と勘違いする男性は一定数いますよね。男性に普通に親切に接したら好意があると勘違いされて、デートに誘われたり、断ると逆切れされたり、最悪はストーカーされてしまったり。そんな経験のある女性は多いので「男性には優しくしないように気をつけてる」という声もよく聞きます。

武田:女性と目が合ったら笑顔で会釈してくれたとか、病院で看護師さんが丁寧にケアしてくれたとか、ささいなことで「おやおや、気があるのかい」と飛躍するスピードの速い人がいますよね。

アル:おめでたいなと思いますけど、これって男性同士で優しくしないからじゃないでしょうか。だから優しさを「特別なこと」だと勘違いして、優しくされると好きになっちゃって、結果的に怖がられて優しくされなくなる。そんな哀しきモンスターみたいな話にならないために、男性同士でもっと優しくケアし合ってほしいです。

武田:女性にケアを押しつけるんじゃなく、男同士でケアし合うことや、そして、自分で自分をケアできることが必要かもしれません。

某所でジェンダーしゃべり場に参加した際、中高年男性8人とおしゃべりする機会があった。

「つらいときに悩みを話せる人はいますか?」と質問すると「いない」と全員が回答していて、そりゃつらかろうと思った。

「今日の皆さんで集まって悩みを話す会を企画したらどうですか?」と提案すると「ほんまやな」「そりゃええな」と言っていたので、実現すればいいなと思う。

身近に悩みを話せる人がいないため、たまたま悩みを聞いてくれる女性に出会うと女神のように崇めてしまう。私も若い頃は女神化してくるメンズによく遭遇したなあ……という話を夫にしたら「『ああっ女神さまっ』より『ああ播磨灘』の方が面白いぞ」と意味不明な返しをされた。

夫に友達がいない問題に心を悩ます妻は多い。

「うちの夫は友達がいないので、私が友達と出かけると不機嫌になるんです」「いつも私のあとをついてきて正直ウザいんです」「どうすれば夫に友達ができるでしょう?」といった悩みを女性陣から聞くと、その夫同士でマッチングしてはどうかと思う。

家庭内平和の実現のためにも、男性は気の合う友人を作ってほしい。友達の作り方については、『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』に書いたのでご参考に。

うちの夫は趣味つながりの友人と出かけたり、格闘家仲間とファミコン大会をしたりして、ご機嫌に生きている。

機嫌のいいおじさんが増えることは世界平和につながるんじゃないか。

ネトウヨ化やミソジニー化してしまう男性は孤独なのだと思う。

友人や家族から愛され、楽しく充実した人生を送っていれば、ヘイトにハマったりはしないだろう。ネットでヘイトを発信して、仲間内からのイイネや称賛を求めることもないだろう。

外国人叩きや女叩きをするぐらいなら、和太鼓を習ってはどうか。太鼓を叩いてストレス発散する方が健康的だし、体幹も鍛えられる。

おじさんたちは和太鼓教室で友達を作って、ボン・ジョヴィの曲とか演奏してほしい。

おじさん同士で仲良くわちゃわちゃしていれば、若いメンズも未来に希望を持てるだろう。

うちの夫の良いところは、一人でもとにかく楽しそうなところだ。

今はクワガタの幼虫を育てることにハマっていて、毎日菌糸ビンを眺めている。「ポンチさんも見る?」と幼虫を見せてくるので「おお~立派立派」と適当にコメントしている。

先日は一人で昆虫展に出かけて、標本づくりを体験したそうな。「俺以外は全員子どもだったけど楽しかった!」とめっちゃご機嫌に帰ってきた。

「やりたいことが多すぎる、最低でも8万年は生きたい」と語る夫といると、長生きするのも悪くないかもと思える。

健康に長生きするために体幹を鍛えたい、そう思って和太鼓教室の体験レッスンを申し込んだ。アイアン・メイデンとか演奏できるようになるだろうか。

私のプロフィール写真がねじりハチマキ&ハッピ姿に変わったら「ハマってるんだな、和太鼓に」と見守ってもらえると嬉しい。

関連書籍

アルテイシア『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』

医大の不正入試から、痴漢や「生理の貧困」問題、女性政治家の少なさ等々、女たちが性差別に声を上げる一方で、「男らしさの呪い」から抜けられない男たちのしんどさも。「女は翼を折られ、男はケツを蹴られる」と喝破する著者が、男も女も繊細でいいし傷ついていい、よりよい未来のために声を上げていこう! と元気づける爆笑フェミエッセイ。

アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』

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アルテイシア『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』

生涯のパートナーを求めて七転八倒しオタク 格闘家と友情結婚。これで落ち着くかと思い きや、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金 騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも「オナラ のできない家は滅びる!」と叫ぶ変人だけど タフで優しい夫のおかげで毒親の呪いから脱 出。楽しく生きられるようになった著者によ る不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ。

アルテイシア『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった アルテイシアの熟女入門』

若さを失うのは確かに寂しい。でも断然生きやすくなるのがJJ(=熟女)というお年頃! おしゃれ、セックス、趣味、仕事等にまつわるゆるくて愉快なJJライフがぎっしり。一方、女の人生をハードモードにする男尊女卑や容姿差別を笑いと共にぶった斬る。「年を取るのが楽しみになった」「読むと元気になれる」爆笑エンパワメントエッセイ集。

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アルテイシアの初老入門

大人気連載「アルテイシアの熟女入門」がこのたびリニューアル!いよいよ人生後半になってきた著者が初老のあれこれを綴ります。

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

X(旧Twitter) https://twitter.com/artesia59
インスタグラム https://www.instagram.com/artesiajj/
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