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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.11.06 公開 ポスト

【夢ごは日誌】誰かにお土産を買えた日は清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

誰かにお土産を買えた日は

人に会う予定があって、駅までの道を歩いていた。今日は珍しく時間に余裕があって、いつも自転車で飛ばす道を、のんびりと歩いていた。

お豆屋さんの前で、向こうから来た二人連れが足を止めた。

半分閉まったシャッターと落とした照明。

「開いてるのかな」「ね、」 と覗きながら、結局勇気が出なかったのか、そのまま行ってしまった。

甘納豆が並べられている。ちょうど3つ。

その数に吸い込まれるように、気づいたら奥にむかって「 こんにちは、甘納豆3つください」と言っていた。

馴染みのおじさんが、「はい、領収書は?」 と聞いてくれる。「お願いします。三人にあげたいので一つ一つ袋に入れてくれますか」「はいはい!」 と、気の毒になるくらい大急ぎで用意してくれる。紙袋がなかなか開かず、バサッ、バサッと振り下ろす。

いつも電車が間に合わないというように、セカセカとした態度で注文するので、おじさんは急いでくれているのだ。

今日はゆっくりで大丈夫なんです……と言うべきか否か迷ってるうちに、領収書も3つの梱包も終わって、トレイにはお釣りまできっちりのっていた。

シャッターが半分しまっているのは、おそらく西日が豆に当たらないようにするためで、店主が店の奥にいるのは、奥に豆を炒る機械があるからで、ここのお店の人はとても親切だ。

ちなみに今日はおじさん一人だけど、いつもはおばさんもいて、おじいさんとおばあさんもいる。朝には豆を炒る芳ばしい匂いがするのですよ。

と、さっきの二人連れに説明したくなる。

甘納豆3つ。ぶらさげてまた駅まで歩く。お土産を持っていくつもりはなかったけれど、こうやって用意してみると、喜んでくれるかなあとワクワクしてくる。

甘納豆が嫌いな人もいるだろうか、あるいは糖分を控えないといけない病気の人とか。これから会う3人の顔を思い浮かべる。

まぁ、そしたら家族に持って帰るでしょう。家族に一人くらい甘納豆が好きな人もいるでしょう。

ここ数日、自分のことばかり考えてメソメソしていた。

こうやって、またおじさんの甘納豆をお土産に買い、誰かのことを、想う、というほど大した感じじゃなく、ちょっと考えることができたことに、回復を感じる。

ここの甘納豆、本当に美味しいんですよ

渡すときの文句を考えながら、電車に乗った。

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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