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文豪未満

2024.11.09 公開 ポスト

あなたの書店で1万円使わせてください ~未来屋書店上尾店~岩井圭也(作家)

読書週間、というものをご存じだろうか。

あまり知られていないかもしれないが、実は10月27日から11月9日の2週間は、公益社団法人「読書推進運動協議会」が定めた読書週間なのである。なのである、と言われても困るかもしれないが、とにかくそうなのだ。(ちなみに10月27日は「読書の日」でもある。)

そのため読書週間付近では、毎年さまざまなイベントが行われる。2024年もご多分に漏れず、多くの読書関連イベントが開かれた。「BOOK MEETS NEXT」や「神保町ブックフェスティバル」のような大規模なものから、各書店で開かれる小規模なものまで、実に多様だ。

代官山蔦屋書店では、10月26日と27日の2日、星海社が主催で「ミステリカーニバル」が開催された。イベントの目玉は総勢30名の作家による合同サイン会で、実は私もひっそりと参加させてもらった。

ご来場いただいたみなさん、ありがとうございました。

そして埼玉県上尾市でも、同じく10月26日・27日の2日間、あるイベントが開催されていたのである。

その名は「AGEO BOOK PARK 2024」。

主催は、イオンモール上尾にある未来屋書店上尾店さん。このイベントは今年が2回目らしく、昨年のレポートを拝見すると、実に楽しそうである。下記サイトの下のほうに、2023年の様子が掲載されている。

https://www.miraiyashoten.co.jp/ageobookpark2024/

開放的な芝生の空間並んだテントと本棚思い思いにくつろぐ人々……見るからに居心地がよさそうである。しかもタイムテーブルを見てみると、トークショーに生演奏、演劇、おはなし会など、かなり多様な催しが用意されている。

未来屋書店の方からこのイベントを教えてもらった瞬間、「これは面白そう!」と直感した。すぐに上尾店さんにお願いして、初日に訪問させてもらうことになった。

読書の日に行われる「AGEO BOOK PARK 2024」とは、いったいどんなイベントなのか?

 

JR上尾駅東口から、バスに揺られること約五分。停留所「イオンモール上尾」でバスを降りれば、すぐ目の前に巨大な建物がそびえたっている。未来屋書店上尾店があるのは、そのイオンモール上尾の一階。

大きい!

店長さんやスタッフの方々にご挨拶してから、あらためて屋外へ。外へ出ると、すぐ目の前が「AGEO PARK」という遊びとくつろぎのスペースになっている。「ふわふわドーム」という大きいトランポリンの山があって、十人以上の子どもたちがはしゃぎながら飛び跳ねていた。

その奥の芝生には青いテントがずらり。そしてテントの下には、本棚がずらり

イベント感あるな~!

はやる気持ちを抑えて、看板の横で一万円札とともに一枚。

「誰かの未来につながる本が きっと見つかるブックフェス!」

本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。

どこから行こうかな?

最初にうかがったのは、出版社・百万年書房さんのブース。テントには、百万年書房代表で編集者の北尾さんがいらっしゃった。

こんにちは~

棚にたくさん平積みされていたのは、向坂くじらさんの著書。向坂さんといえば、先日、小説『いなくなくならなくならないで』(河出書房新社)が第171回芥川龍之介賞の候補作となったばかり。向坂さんの才能は小説にとどまらず、エッセイ『夫婦間における愛の適温』『犬ではないと言われた犬』(いずれも百万年書房)などでもおおいに発揮されている。いずれも読んだことがあるが、本当に面白い。マジで。

そして向坂さんの創作の源流ともいえるのが詩集『とても小さな理解のための』(百万年書房)も、サイン本が店頭に並んでいた。この詩集もとてもよい。(ちなみに、翌日27日には向坂さんと北尾さんのトークショーもここで開催された。)

そんななか、北尾さんが強く勧めてくださったのが、独歩ちゃん『足りなさを味わう 独歩ちゃんの山ごもりレシピ日記・秋』(百万年書房)。タイトルには「レシピ日記」とあるが、北尾さんいわく、「読み物としてもとても面白い」とのこと。その語り口にすっかり魅了され、あっという間に欲しくなってしまった。

というわけで、今日購入する1冊目はこちらに決定。

今日の1冊目!

続いて隣のブースに行くと、そこには芸人で書店員カモシダせぶんさんが!

アメトーーク! に出てた人だ!

ブースでは、カモシダさんの著書『探偵はパシられる』(PHP研究所)が平積みに。著者本人がサインして手売りするスタイルとのことで、これはめったにない機会なのでは。後ろにはカモシダさんの選書した本の数々も並んでいた。

なかでも目を引かれたのが、稲田豊史『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)。まず装丁がいい。

手に取ったところ、カモシダさんから「これ面白いですよ!」という熱烈なプレゼンが。いわく、ポテトチップスは戦後日本の経済状況と密接に関係しているとか、カルビーと小池屋の熾烈な戦いがビジネス的にも面白いとか、気になる情報がこれでもかと押し寄せてくる。

カモシダさんのプレゼンでますます興味をそそられ、買わないわけにはいかなくなった。それにしてもカモシダさん、本を勧めるの上手かったなぁ。

今日の2冊目。

そのお隣のブースは、YouTubeチャンネル「ミステリー文学の本棚」で数々の小説を紹介されているYouTuber・あべしぃさんの選書。

拙著も置いてくださってました。(やらせではありません)

有名作品から、「おやっ」と思うような小説まで、ずらりと面陳されるさまは壮観。特に海外ミステリーはふだんあまり読まないため、「こういうのもあるのか」とつい身を乗り出してしまった。

その横は、俳優・中根すあまさんのブース。現役高校生ピン芸人として活動を開始され、現在は劇団塩豆大福主催として、脚本執筆・演出・出演をされているという。(27日にはカモシダさんと中根さんのトークショーも開催)

カモシダさんも一緒にブースに来てくれた。

最初に気になったのは、箱入りの『ピーター・パンとウェンディ』(福音館書店)。手に取ると、すかさず中根さんから「原作のピーター・パンって結構クズなんですよ」とおもしろ情報が寄せられる。

選書を物色するなかで、「これ面白そう」と手が伸びたのが、コロナ・ブックス編集部『作家のおやつ』(平凡社)。タイトルの通り、さまざまな作家たちが食べた「おやつ」について記されたエッセイ集。写真も豊富で、昭和の作家たちがおやつを楽しむようすを鮮やかに想像することができる。

カモシダさんと一緒に「これ面白そう」と読んでいたら、中根さんからも「作家の食事について書いた本はあるけど、おやつはめずらしいですよね」とコメントが。おすすめする声に背中を押されるように、購入を決定。

3人で。

さらには一箱書店のブースも。このブースでは、作家の嘉成晴香さん島口大樹さん武内昌美さん名取佐和子さんや、百万年書房の北尾さんが選んだ本が、木箱に並べられて販売されている。

木箱に本が入っているのがかわいい。

実は、一箱書店には岩井も参加していて、「死ぬまでに読めてよかった本たち」と題して本を選ばせてもらった。

岩井のコーナーにて。

このブースで気になったのは、角川武蔵野ミュージアムの選書にあったトーマス・トウェイツ著/村井理子訳『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)である。タイトルはもちろん、表紙にデロデロになったトースター(らしきもの)もインパクト大。ここでもカモシダさんが「面白いですよ!」と勧めてくれた。

そういわれると、やっぱり欲しくなる。こちらも買うことに決定。

表紙の写真からは不吉な予感が……

各ブースでほぼ1冊ずつ買っているため、あっという間に4冊選んでしまった。

ここまでのブースの全体像はこんな感じ。

他にも、会場内にはたくさんのブースが設置されていた。たとえば、上尾市内にある上尾中学校や聖学院大学とコラボした選書もあった。こうした「上尾ならでは」の地域色が出たブースがあるのも楽しい。

中学校の生徒さんが選んだ本たち。
聖学院大学の図書館職員さんが選んだ本。

その他にも、取次のトーハンブックサンタのブースも。

トーハンブース。
ブックサンタとのコラボブース。

ブックサンタブースでは、堀静香『がっこうはじごく』(百万年書房)のカバーがひときわ目立って見えた。イラストのポップさとタイトルの悲壮さが絶妙にマッチしている。

著者の堀さんは、中高の国語科の非常勤講師として勤務されている歌人・エッセイスト。帯にはこんな文言が。

生徒はつまらない校則を守る。教員はつまらない装いをする。お互いが茶番劇であることを承知のうえで、多くの教室はそうやって均されている。

うーむ。なんか、すごく面白そうな気がする

というわけで、5冊目はこちらに決定。

装画は高橋由季さん。

よく見れば、これも百万年書房の本だった。今日はすっかり北尾さんの手のひらの上で踊らされているようだ。

ちょっと本の整理。

場内には、ハロウィーンの絵本を集めた棚も。

棚の装飾は、以前ワークショップで子どもたちが作ったものだそう。

ここでまだ未来屋書店上尾店の店舗に行けてないことを思い出し、いそいそとイオンモールのなかへ移動。店内は広くてきれいで、適度に見通しがいい。

青山美智子『リカバリー・カバヒコ』のカバヒコもいた。

AGEO BOOK PARKの一環として、「豆本を作ろう!」というワークショップも行われていた。

ちっちゃいけど、ちゃんと飛び出す絵本。

壁や柱、装飾のところどころに木が使われているためか、全体的にふんわりと温かい印象がある店内。

ここにも木が。

ありがたいことに、岩井圭也フェアも展開してくださっていた。もしかしたら、既刊は全部そろっているかも?

ありがたや。

レジ横には、井上スパイス工業株式会社のコーナーが。上尾市内にあって、スパイスやカレーの通販を行っている会社だそう。

棚には「カレーブック」が展開されていて、一見すると本のよう。しかし、なかには複数のスパイスとレシピが入っていて、これ一つで家庭で本格カレーが作れるようになっているという。

写真の男性もいい笑顔。

きれいなパネルが展示された一角を発見。ここは、眼鏡つかさ『日本の美しい水族館』(エクスナレッジ)のミニ展示スペースのようだ。実際に本を手に取らずとも、パネルだけでも十二分に美しさが伝わってくる。

ここでも木箱が使われている。

お隣は埼玉トヨペットの店舗で、書店の棚とシームレスに展示されている車が存在感を放っていた。

カー・バイク誌のコーナーは車のすぐ横に。

いろいろと気になる本はありつつも、「やっぱり今日は外で本を買いたい」と思い、ふたたび屋外へ。

なんとなく一箱書店のブースで本を眺めていると、名取佐和子さんが選書された、上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)が目に留まった。

実はこの本、発売直後から存在は知っていて、読んでみたいなと思いながら今まで読んでいなかった一冊。同行した担当編集者氏が「いいタイトルだなぁ」と言った通り、本当にいいタイトルなのである。

歌集ということで、ためしに一首読んでみる。

法人化したほうが税金お得だし、みたいな感じで結婚する人

あー、いいな! これはいい!

そういうわけで、今日最後の1冊はこちらに決定。

帯の「明けの明星みてぇなクソガキ」という一文もいい。

そのまま、6冊の本を持って屋外のレジへ。レジ横には未来屋書店さんの選書した本も並んでいた。

レジ周辺はこんな感じ。

かなり好き勝手に買った今日だが、ちゃんと1万円に収まっているのだろうか。結果はこちら。

お会計は電卓で。

ほぼ1万円ジャスト! なんなら、かなり近いほうでは?

記事中では紹介しきれなかったが、場内にはステージがあったり、絵本が読める広場があったりと、本を軸にしつつさまざまな催しが行われていた。AGEO BOOK PARKは今年が2年目ということだが、来年以降もぜひ続けていただきたい。

この日買った6冊。

今回の買い物で特に感じたのが、「人が勧める」ことの価値。カモシダさんや中根さん、北尾さんにお勧めされた本は、やっぱり読みたくなるし、ごく自然に、買いたいな、と思ってしまった。

みなさんの「お勧め力」が優れていることももちろんあるのだが、根本的に「生身の人が勧めてくれる」という行為にひそむ価値を体感できた気がする。本への対価というより、人とのコミュニケーションに対価を払っているような感じ。

しかもその効果は持続的で、帰りの電車で待ちきれずにいくつか読みはじめてしまうくらい。どんなにAIのアルゴリズムが発達して、レコメンド機能が研ぎ澄まされようとも、この点だけはマネできないかもな、と思った。

書店で人が働くことの価値を再認識できた、AGEO BOOK PARK 2024だった。

最後に。

この企画に協力してくださる書店さんを募集中です。

うちの店でやってもいいよ!」という書店員の方がいらっしゃれば、岩井圭也のXアカウント(https://twitter.com/keiya_iwai)までDMをください。関東であれば比較的早いうちに伺えると思いますが、それ以外の地域でもご遠慮なく。

それでは、次回また!

☆☆☆今回買った本☆☆☆

  • 独歩ちゃん『足りなさを味わう 独歩ちゃんの山ごもりレシピ日記・秋』(百万年書房)
  • 稲田豊史『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)
  • コロナ・ブックス編集部『作家のおやつ』(平凡社)
  • トーマス・トウェイツ著/村井理子訳『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)
  • 堀静香『がっこうはじごく』(百万年書房)
  • 上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)

関連書籍

岩井圭也『夜更けより静かな場所』

”人生は簡単じゃない。でも、後悔できるのは、自分で決断した人だけだ” 古書店で開かれる深夜の読書会で、男女6名の運命が動きだす。直木賞(2024年上半期)候補、最注目作家が贈る「読書へのラブレター」!一冊の本が、人生を変える勇気をくれた。珠玉の連作短編集!

岩井圭也『プリズン・ドクター』

奨学金免除のため、しぶしぶ、刑務所の医者になった是永史郎(これなが しろう)。患者たちにはバカにされ、ベテランの助手に毎日怒られ、憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が、変死した。胸をかきむしった痕、覚せい剤の使用歴……これは自殺か、病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査を依頼するが――手に汗握る、青春×医療ミステリ!

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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。

そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。

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岩井圭也 作家

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュ ー。著書に『夏の陰』( KADOKAWA)、『文身』(祥伝社)、『最後の鑑定人』(KADOKAWA)、『付き添う人』(ポプラ社)等がある。

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