女子テニスでプロ2年目の石井さやか(19歳)が充実のシーズンを過ごしている。2024年10月の全日本選手権で優勝を果たし、同月に開催された東レ・パンパシフィック・オープン(PPO)ではツアー本戦初勝利をマーク。プロ野球で通算2432安打して名球会入りしている父・琢朗氏(54歳)を超えるアスリートを目指して、世界に挑む日々が続く。
世界を狙う、石井琢朗の娘
2024年10月に有明コロシアムで開催された全日本選手権。ツアー大会を主戦場とするトッププロは出場しない若手の登竜門的な大会で、プロ2年目の石井さやかがその頂点に立った。
10代の優勝は2013年大会を19歳8ヵ月で制した穂積絵莉(30歳)以来、12年ぶりの快挙。
「これをステップに、まずはグランドスラム出場を目標に頑張りたい。この優勝でちょっとはお父さんに歯向かえるというか、そういう自信もつきました」
といたずらっぽく笑った。
同月に同会場で開催された東レ パン パシフィック オープンテニス(PPO)でも勢いは止まらなかった。予選から勝ち上がった石井は1回戦で全日本選手権決勝と同じ相手となった齋藤咲良(18歳)に6-1、6-1でストレート勝ち。全日本選手権でフルセットの末に退けた難敵に快勝した。
2度目のツアー本戦出場で、待望の初白星を手にし、
「東レは3回目の出場で、初めて本戦に進んだ。勝ててうれしい」
と喜んだ。2回戦では、世界100位台の格上ゼイネプ・ソンメズ(22歳・トルコ)に4-6、6-2、6-3で逆転勝ち。第3セット途中に腹部に痛みを発症してメディカルタイムアウトを取る厳しい状況のなかで、見事8強入りを果たした。
準々決勝は世界16位でロシア出身のディアナ・シュナイダ―(20歳)と対戦予定だったが、腹筋のケガにより棄権。快進撃は故障でストップしたが、確かな爪痕を残した。
父が観にくると負けるというジンクスを跳ね返す
この2ヵ月前。ツアー本戦初出場となった2024年8月のクリーブランド選手権の1回戦で第3シードのカテリーナ・シニアコバ(28歳・チェコ)に7-6、3-6、6-7で惜敗。何度もつかんだマッチポイントを決めきれず、逆転負けを喫した。
試合後、元プロ野球選手の父・琢朗氏から電話で「大事な場面で引かずに戦え」と厳しい言葉をもらった。その助言を生かし、全日本選手権、東レPPOでは追い込まれても攻め続ける姿勢を貫いた。
父の前で試合をするのは、全日本選手権が約5年ぶりだった。琢朗氏は娘の少女時代は試合に頻繁に足を運んでいたが、14歳の時に観戦した試合で負けたことを機に
「見に行くと負けるからもう行かない」
と宣言。当時は娘も仁王立ちして熱視線を送る父に威圧を感じており「怖いから見に来ないで」と呼応した。
琢朗氏は日本一のタイトルが懸かった全日本選手権で、生観戦を解禁した。DeNAコーチとしてプロ野球のプレーオフを戦うハードな日程の合間を縫って、スタジアムに足を運び「観に行くと負ける」というジンクスを払拭。東レPPOも会場で応援して快進撃を見守った。
石井は9歳の時にウィンブルドン選手権を現地観戦して、プロになる夢を抱いた。小学3年時から海外遠征を経験して頭角を現し、数々の全国タイトルを獲得。2022年は女子国別対抗戦ビリー・ジーン・キング杯の日本代表に選出され、2023年1月の全豪オープン・ジュニアでは単複ともに4強入りを果たした。
2023年3月のプロ転向会見では同席した琢朗氏の前で
「4大大会のシングルスで優勝することが目標。今までお父さんの娘と言われてきたけど、これからは石井さやかのお父さんがプロ野球選手だったとなるように頑張りたい。自信はあります」
と言った。
プロ転向から1年8ヵ月が経過し、父の背中は確実に近づいている。4大大会のセンターコートに立つ雄姿を家族に見せる日をイメージしながら、一歩ずつ階段を上がっていく。
石井さやか/Sayaka Ishii
2005年8月31日東京都生まれ。5歳でテニスを始め、9歳の時にウィンブルドン選手権を観戦してプロになる夢を抱く。2022年全日本ジュニアU-18シングルスで優勝。2023年の全豪オープンジュニアで4強入りし、同年3月にプロ転向した。2024年全日本選手権で優勝。練習拠点は、米フロリダ州IMG。右利き。身長1m75cm。
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※この記事はWeb版GOETHEに掲載された記事を再編集したものです
アスリート・サバイブル
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。
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