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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.11.12 公開 ポスト

ようやく子猫の話をしなくなったと思ったら大間違いだカレー沢薫

ソシャゲには相変わらず金を使っている、ただわざわざ話題にするほど使ってないので書かないだけ。

 

しかし、そんなに使っていないと言っても、ここで金額を言ったら「ゲームにはそれだけ使うのに家族を叙々苑とかに連れて行ったことはないんですね?」と真顔で問われる金額だとは思う。

やはりソシャゲは趣味として本腰でやろうと思ったら、金のかかり方が異常である。どうでもいい人間がソシャゲをやろうとしていたら杉下右京のように両手を広げて「ようこそ」というが三親等以内の親族なら「バトミントンとかやったほうがいい」と止める。

しかし、ソシャゲは金銭的破滅をもたらす趣味としては「ギャンブル」の高みまで到達できなかったと感じる。

私は言うまでもなくXユーザーであり、キレイなものより薄汚いものが見たくてXをやっているまであるが、私は他人の不幸が見たいのであって、他人のケンカが見たいというわけではない。

正直最近のXおすすめ欄はケンカに寄りすぎている、それもワーママVS専業ママなど、どっちも頑張っている者同士が余裕のない社会のせいで分断しているのは見るに忍びない。「それより子なし無職の俺を殴ってみないか」と提案したくなる。

だが最近「借金で困っている」という、井之頭五郎が「うんうんこういうのでいいんだよ」と頷くタイプのアカウントが表示されるようになってきた。

借金の原因は競馬、パチンコ、オンラインカジノなど種類は多岐に渡るが総じてギャンブルであり、ソシャゲはなかなかお見掛けできない。

無理ではないだろうが、ソシャゲでギャンブルレベルの借金を作ろうと思ったらはまず金がかかるゲーム選びからはじめなければならない、ポケスリに数百万使うのは至難の業だ。

そして私のように「ガチャは股間で回す」などとぬるいことを言っている奴にも無理だ。

例え股間が外国人4コマの1コマ目であろうとも「全キャラマックスまで出さなきゃ気が済まない」ぐらいの意気込みで向かわねばならず、欲しいキャラが出た時回す程度ではなかなか高みにたどり着けない。

ソシャゲで多額の借金を背負えるのは一握りなのに対し、ギャンブルは比較的誰でも簡単に数百万の借金を作れるシステムになっているのだろう。

しかし、ソシャゲはギャンブルより安心というわけではない、やはりハマると金がかかりすぎることは否めないし、銭形警部も「奴はもっと大変な物を溶かしていきました、あなたの時間です」と言っている。

ちなみに、私がやっているのはウマ娘だが、ウマ娘もソシャゲの中では相当金がかかる部類だと思うが、ウマ娘から興味を持って競馬をはじめるという、高みからさらなる高みに向かう人もいるという。

しかし、沼から沼が派生するのは珍しいことではないし、沼一つに浸かりきると、それが干上がった時、一緒に干されるので、リスクヘッジのために沼は数個所持した方がいい、という医者もいる気がする。

オタクは病める時も健やかなる時も「しんどい」「つらみ」というため、推し活に不健康なイメージを持つ人もいるかもしれないが、基本的にはいい作用がありそれが連鎖することも多い。

スポーツ漫画にハマったことにより自身も運動を始めることもあるし、歴史系にハマったことにより、博物館めぐりなど別の文化的趣味を持つこともある。

変化に対し「男の影響?」と言われたら、まずお前の顔面を変化させてやろうかと思うが「推しの影響?」と言われたら「いいとこに気づいたな」と、自分のガムシロップを与えるぐらいまんざらではない。

だが私は、変化しないことには自信があった。

推しができると推しのイベントに出るため全国を転々としたり夜行バスに住んだりするアクティブなオタクも多いが、私は推しがいてもよほどでない限り「部屋から出たくない」を優先するし、推しのグッズを持っても、それをゴミに埋もれさせることが分かり切っているのでグッズ類は買わなかった。

外出、まして部屋を片付けるぐらいなら推しの方を諦める。

そんな「信念」とも言える意識が先日覆った。

覆したのはもちろん、前々から言っているうちに3日だけいた子猫である。

ようやく子猫の話をしなくなったと思ったら大間違いだ、一生する。

子猫は結局、次の預かり先がそのまま飼うことになったようだが、当初から「このまま飼うことになるだろうな」という予感はあったそうだ。

その気持ちはよくわかる、あのようなかわいい生き物と数日一緒にいたら手放せるわけがないのだ。

なのに私は何故それを手放し、このザマになっているのかというと、確実に私の変化なきライフスタイルのせいである、

もしあそこで「この子はこのままうちで飼うんや」と主張したとしても、夫に「自分の部屋も片付けられない奴が動物の世話などできるはずがない」と言われたら反論する術がなく、言い淀んでいるうちに子猫は連れていかれてしまった。

確かに、私の部屋は保護猫団体の人が見ても「多頭飼育崩壊を起こす奴の部屋」と判断して絶対大事な猫を渡したりはしないだろう。

猫という推しが入れる部屋にしたい。

はじめて推しのために変わりたいと思い、ほぼ丸一日かけて部屋を掃除し、数年ぶりに自室の床と対面した、大分前から腐っていた床すら今は懐かしい。

推しに出会って人生が変わったというのは誇大表現ではない、今まで動かなかったものを動かす力がある。

そんな力を与えてくれた子猫には感謝だが、逆に子猫がいない片付いた部屋はあまりにも広すぎる。

今は「明日子猫が来てもいいように」という設定で、部屋の維持に努めているが、子猫を失ったこの広い部屋で、冬を越せるのか少し心配だ。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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