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パーティーが終わって、中年が始まる

2024.11.21 公開 ポスト

後編

「家族になる以外の選択肢が必要」40代独身ふたりが考える“老人たちのゆるいコミュニティ”pha/藤谷千明(ライター)

2024年10月4日、phaさんの新刊『パーティーが終わって、中年が始まる』刊行を記念したトークイベントが紀伊國屋書店新宿本店にて開催されました。対談のお相手は『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(コミック版も発売中)などの著書があるライターの藤谷千明さん。phaさんは1978年生まれ、藤谷さんは1981年生まれと、ほぼ同世代の2人。 

「中年たちが助け合って生きるには?~インターネット・シェアハウス・老後~」と題されたイベントでは、まさにタイトル通り、インターネットの今昔、人と共に暮らすこと、そして老後の展望まで、お二人ならではのお話が展開されました。ライター・斎藤岬さんによるレポート後編です。(前編はこちら

「一人の寂しさ」を分解して解決策を考える

phaさんは2008年から続けてきたシェアハウスを2019年に解散し、40歳になるタイミングで一人暮らしを始めました。5年たった今、「一人暮らしがわりと向いているほう」だと思いつつも、最近は寂しさも感じているといいます。

「シェアハウス時代から飼っていた猫が、去年の9月に1匹、今年の2月にもう1匹も亡くなっちゃったんです。しばらくは『1人は1人で気楽でいいかな』と思っていたんですけど、9月くらいにふと『なんか寂しいな、部屋ががらんとしてるな』って」
新刊『パーティーが終わって、中年が始まる』の刊行作業に追われて忙しさで気が紛れていたのか、それが落ち着いたタイミングで急に寂しさがやってきたそうです。

2019年から同世代のオタク女子とルームシェアをしている藤谷さんは「寂しさと一言でいっても、何が寂しいのかを分解して考えたほうがいいと思ってます」といいます。藤谷さん自身、ルームシェアを始めたきっかけのひとつは寂しさでした。友人と暮らすという発想に至る前に、どうすればその寂しさが埋まるのかを考えたとのこと。

「何が足りていないんだろう、って思ったんです。自分のことを好きだと言ってくれて信用もできる相手がいいのか、体温がある猫や犬がいいのか、体温がない魚やトカゲでもいいのか、ぬいぐるみみたいな無機物でもいいのか……っていろいろな選択肢を挙げて、メリット・デメリットを検討しました。寂しさの埋め方の種類については、今もよく考えますね」

これを聞いたphaさんは「虫もわりと可愛かったりするんだよね。部屋の中にちょっといるだけで『いるなぁ』って気がする。植物も癒されるし」と、新たな選択肢が浮かんできたようでした。

生活は共有しても、人生は共有しない

今後の暮らし方について、phaさんは「昔みたいなむちゃくちゃシェアハウスはもうやりたくないけど、藤谷さんがやっているような信頼できる相手を集めた生活はちょっとやってみたいかも、って思うところはあります」と語ります。

藤谷さんはルームシェアをスタートさせるにあたって、自分の生活能力の低さやフリーランスゆえの生活時間帯の特殊さなどを同居メンバーに自己開示し、さまざまなすり合わせを行ったそう。その結果、見つかった物件の条件の良さもあって現在までつつがなく生活が続いています。

エッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』では、この暮らしについて「生活は共有しているが、人生は共有していないことが良いほうに働いている気がする」と表現していました。同書を読んだphaさんは「一緒に住んでいるけどしゃべるのは敬語だと書かれてましたよね。そういうのっていいなと思う。“家族”だったらフラットに密に関わらないといけないという考えもあるけど、そうじゃなくても生活は全然できるから」と感想を述べます。

ルームシェアやシェアハウス生活についてメディアで語ってきた2人は、その際に“家族”という言葉が用いられがちなことに違和感を覚えているそうです。phaさんは『パーティーが終わって、中年が始まる』でシェアハウス時代を振り返って「取材などで『新しい家族のかたち』みたいに紹介されることが多かったのだけど、ずっと、そういうのじゃないのにな、と思っていた」とつづっていました。藤谷さんはエッセイを出版するとき、「帯に“新しい家族”という言葉は使わないでほしい」と編集者に頼んだとのこと。

「家族じゃなくてもみんなで暮らせるってことを書きたかった。話し合いをしながら、お互いの弱点をちょっとだけ補いあって暮らしていけたらいいよね、っていうアピールをしたかったんです」という藤谷さんの言葉に、phaさんも「そういうの、広めていきたいですよね」とうなずきます。

シェアハウスは家族の代わりではない

そこから話は老後のことにまで広がります。

「今は一人暮らしだけど、別にこれからずっと1人で暮らさなきゃいけないと決まっているわけでもないし、いろんな選択肢を考えながら老後に向けて準備していきたい」というphaさん。

「上の世代は、なんとなくみんな結婚して家族と暮らすのが“普通”であって、そうじゃない生き方を選んでいるのは気合いが入っている人が多い。でも僕らの世代は違うじゃないですか。そこまでガッツリ思想がなくてもなんとなく結婚していない人が多くて、結婚率は下がってる。だからこの世代の我々が、ゆるい感じで老人の理想的なコミュニティをつくろうとする様子を見せていきたいですね」

藤谷さんは、phaさんのギークハウスを参照しながらルームシェアを始めた経験を踏まえてその考えに賛成します。

「誰かがやってみた実例が、ネットなり書籍なりで世の中に出ていたら、それを見た人が参考にできるじゃないですか。うまくいかなかったところは除外して、いいところは取り入れて、って。そういう感じでほかの人や下の世代にやってもらえたらいいですよね」

2040年頃には高齢者人口がピークを迎えると予想されています。社会が大きく変わる中で、どんな老後を迎えることになるのか、不安に思う人も多いのではないでしょうか。他人と暮らし、その経験を世に発信してきた2人が抱く今後の夢は、希望が感じられるものでした。

トーク終了後にはサイン会も開催。大盛況のうちにイベントは終了しました。お越しくださったみなさま、本当にありがとうございました!
(文・斎藤岬)

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パーティーが終わって、中年が始まる

元「日本一有名なニート」phaさんによるエッセイ『パーティーが終わって、中年が始まる』について

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

藤谷千明 ライター

1981年生。フリーライター 。ヴィジュアル系やオタク・サブカルチャーについての記事を執筆。単著に、アラフォーオタク4人で都内の一軒家を借りて暮らす実体験をつづったエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎文庫)がある。同タイトルでコミカライズ全2刊も刊行(作画:泥川恵/幻冬舎コミックス)。ルームシェア生活は現在も継続中。そのほかの著書に、対談集『推し問答!』(東京ニュース通信社)、共著に『バンギャルちゃんの老後』(ホーム社)、『すべての道はV系に通ず。』(シンコーミュージック)など。TBS『マツコの知らない世界』V系回出演。Xアカウント:@fjtn_c

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