肝臓に脂肪がたまる疾患「脂肪肝」。実は日本人の3人に1人が脂肪肝になっている。その最大の原因は、なんと甘い飲み物だった!
生体肝移植のプロフェッショナルで「スマート外来」担当医である尾形哲さんの最新刊『甘い飲み物が肝臓を殺す』より、脂肪肝と甘い飲み物の深い関係を、抜粋して掲載する。
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日本人の3人にひとりが脂肪肝
肝臓は生命力の源泉です。人が活動する生命エネルギーはすべてここから生み出されると言っても差し支えありません。
そのハンパない生命力を物語るうえでいちばん分かりやすいのは、肝臓の「再生能力」でしょう。
生体肝移植ではドナーの肝臓を最大で7割も切除しますが、残った3割の肝臓がたった3か月で元の大きさに再生するのです。
これは肝細胞の量が30%から100%へと一気に回復して、なおかつさまざまな肝機能もすべて元通りに復元するということ。
こんな劇的な再生回復力を備えた臓器は肝臓以外にありません。
おそらく、人間が生きていくために絶対に欠かせないエネルギーを生み出している超重要臓器だからこそ、肝臓だけがスピーディーに再生回復する「特別な力」を与えられたのでしょう。
肝臓は常時何百という仕事をこなしていて、とくに重要なものを3つ挙げるなら、「代謝」「免疫」「解毒」の役目を担っています。
どれをとっても人の生命維持に必要不可欠な役目であり、どれが欠けても生きるのが困難になってしまう機能ばかり。
「肝心かなめ」「肝腎かなめ」の言葉通り、肝臓は生命活動のかなめとなる臓器であり、わたしたちがいつも通りに生きて、いつも通りに活動していくためには、肝臓がいつも通りに機能している状況が欠かせないのです。
ところが、現代においては、この肝臓の機能をじわじわと低下させてしまっている人がたいへん増えています。
なぜ、肝臓の機能がそんなに低下してしまっているのか。
じつは、「生命活動のかなめとなる臓器」をじわじわと追い込んで弱体化させているもっとも厄介な“犯人”こそ、「脂肪肝」なのです。
みなさんもきっと聞いたことがあるはず。
脂肪肝は日本人の約3人にひとりがかかっていると言われるほど世間一般に蔓延している病気です。
中高年はもちろん若い人にも増えていますし、太った人だけではなく、やせた人にも増えています。
しかし、ありふれた病気だからといって、決して脂肪肝を甘く見てはいけません。脂肪肝はあらゆる生活習慣病の入口となる疾患です。
肝臓にたまった脂肪が炎症を起こすと進行してしまう可能性もあり、何もせずに放置していたら「死」につながることもある怖い病気だと思ってください。
そして、これからが本題なのですが、この脂肪肝を「ここまで多くの人々に蔓延させてしまった原因」はいったい何なのでしょう。
何を隠そう、その原因こそ「甘い飲み物」なのです。
たぶん、意外に思われる方が多いかもしれません。
肝機能低下の原因と言えば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのがアルコールです。
もちろん、アルコールの飲み過ぎも肝臓にとってよくはないのですが、「甘い飲み物がもたらすリスクの大きさ」に比べれば、アルコールのもたらすリスクは“まだかわいいほう”と言っても差し支えありません。
また、脂肪肝を招く要因として「脂肪分の多い油っこい食事」をイメージする人も多いかと思いますが、それもだいぶお門違いです。
脂質の摂取は肝機能にはそれほど大きな影響をもたらしません。
脂肪肝を引き起こす栄養面でのもっとも重大な問題は「糖質の摂り過ぎ」です。
さらに、日々さまざまな糖質を摂取している中でも、甘い飲み物を野放図に飲んでしまう習慣が肝臓への脂肪蓄積につながり、肝機能に大ダメージを与えることになるのです。
なかには「健康によかれ」と思って野菜ジュースや果物ジュース、乳酸菌飲料などを飲むのを習慣にしている人も多いでしょう。
しかし、その日々の習慣が肝臓の生命力をじわじわと低下させ、多くの病気や不調を呼び込むことにつながってしまっているわけです。
本書ではこれから、「脂肪肝の怖ろしさ」や「甘い飲み物がどんなに危険か」を深掘りしつつ、わたしたちが肝臓をよみがえらせ、日々の生命力をよみがえらせていくには何をすればいいのかを紹介していきたいと思います。
わずか3か月で改善できる独自メソッド
私は「生体肝移植」を専門としている肝臓外科医です。
「肝切除術」をはじめとした手術や術後管理を行なうほか、週に1回、「スマート外来」を担当し、肥満や脂肪肝の患者さんのためのダイエット指導を行なっています。
なぜ、肝臓外科医の私がダイエット指導を掛け持ちしているのか。
それが「脂肪肝」や「甘い飲み物」とどうつながってくるのか。
ここでちょっと、その経緯や事情をお話ししておきましょう。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、生体肝移植とは、健康なドナー(臓器提供者)から肝臓の一部を切除して、レシピエント(肝不全患者)に移植する外科治療法です。
先述したように、肝臓は全体積の7割を切除しても3か月で元の体積に戻るという驚異的な再生能力を備えています。
ドナーの肝臓を切除してレシピエントに移植しても、ドナー側の肝臓もレシピエント側の肝臓も早期に機能回復するため、こうした手術法が可能になったわけです。
ところが、この治療法に立ちはだかった問題が「脂肪肝」でした。
それというのも、ドナー側の肝臓に脂肪肝があると、移植した際にレシピエント側が肝臓に機能不全を起こしてしまうため、移植できなくなってしまうのです。
生体肝移植のドナーになる条件は、「肝生検をしたときの肝脂肪率が10%以下」。
通常、エコー検査などで脂肪肝と診断されるのは肝脂肪率が30%以上ある場合であり、この「10%以下」はけっこう厳しい条件となります。
その結果、脂肪肝があるために、ドナーになりたくてもなれないという方が大勢現われるようになりました。
生体肝移植は、末期肝硬変などがあって、移植を受けなければ6か月以内に亡くなってしまう患者さんのための治療法です。
家族など、大切な人を救うためにドナーになろうと決意したのに、「あなたは脂肪肝があるのでドナーになれません」と言われたときの心中は察するに余りあります。
ドナーがいなければ、もうレシピエントの死は避けられないわけで、外来で脂肪肝を伝えた際に、ドナー候補の方やレシピエントの方に泣かれてしまったことも数えきれません。
つまり、こういった経緯から、私は「ドナー候補者が短期間で脂肪肝を改善させられる方法」を何とか編み出そうとするようになったわけです。
脂肪肝を治すには、とにかくダイエットです。
ドナーの健康を損ねることなく着実に減量をすることが、肝臓から脂肪を追い出すいちばんの近道となります。
私は、最新の文献をあさり、研究や実地指導を重ね、「脂肪肝をわずか3か月で改善できる独自の治療メソッド」を確立しました。
その結果、私がダイエット指導をしたドナー候補の方々は、みなさん短期間で脂肪肝を完全克服し、自身の肝臓を提供できるようになりました。
すなわち、肝臓の脂肪を落としてやせたことで、レシピエントの方の命を助けることができた──そういうドナーの方々が増えていったわけです。
そして、その後、こうしたドナーへのダイエット指導で培ったノウハウを脂肪肝に悩む一般の方々にも広く提供しようということになり、2017年、同僚の糖尿病専門医・西森栄太医師とともに「スマート外来」と銘打った肥満・脂肪肝専門外来を立ち上げるに至ったのです。
私は、「肝臓から脂肪を追い出す」という視点なしには、ダイエットは語れないと考えています。
言い換えれば、「肝臓にいいやせ方」こそが「健康にいい正しいやせ方」。
体調を崩すことなく健康にやせたいのであれば、まずは肝臓の機能を正常化することからスタートしなくてはなりません。
具体的にどういう方法をとってやせるのかについては、本書でくわしくご紹介することにしましょう。
ただ、この場で1点だけ強調しておくと、スマート外来においていちばんの柱になっているルールが、「甘い飲み物をやめる」ということなのです。
スマート外来にいらっしゃる脂肪肝や肥満の患者さんは、ほぼ例外なく、これまで甘い飲み物を習慣的に摂ってきた方々で占められています。
そういう方々の肝臓には甘い飲み物によるダメージが蓄積しているので、まずは原因である甘い飲み物をやめてダメージを取り除いていかなくてはなりません。
実際、甘い飲み物をやめると、それだけで肝機能の数値がてきめんに改善し、肝臓や内臓にたまった脂肪が着実に落ちてやせていくようになります。
逆から言えば、わたしたちが普段何の気なしに飲んでいる甘い飲み物は、それくらい甚大なダメージを体にもたらしていたというわけです。
「甘い飲み物くらいで、何もそんな大げさな……」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、本書をひと通り読み終わる頃には、その考え方は大きく変わっているはずです。
これからでも十分間に合います。肝臓から自分の体を変え、日々の健康をよみがえらせていきましょう。
肝臓の大いなる生命力を味方につけて、この先の自分の人生を存分に輝かせていこうではありませんか。
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