やせ型でBMIの数値も低いのに、健康診断で「脂肪肝」と指摘される人は少なくない。実は日本人は「やせの脂肪肝」が多い人種なのだ。
生体肝移植のプロフェッショナルで「スマート外来」担当医である尾形哲さんの最新刊『甘い飲み物が肝臓を殺す』より、なぜやせている人でも脂肪肝になるのか、その理由を抜粋して紹介する。
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内臓脂肪よりはるかにヤバイ「肝臓にたまる脂肪」
「脂肪肝を軽く見てはいけません。脂肪肝は“死亡肝”と言い直してもいいくらい怖ろしい病気なんですよ」
講演に呼ばれたときなどにこう話し始めると、聴衆のほとんどの方々は、最初、「まさか」「信じられない」「そんな、大げさな……」という半信半疑の表情を浮かべます。
ところが、私が説明を続けるうちに、その方々のお顔がだんだん固くなり、やがて眉間にしわを寄せた真剣なものへと変わり、講演が終わる頃になると、その表情に不安や焦りの色さえ加わってきます。
こうした様子からもお分かりいただけるように、脂肪肝は「多くの人に誤って受け止められている病気」なのです。
みなさんはいかがでしょう。脂肪肝のことを「たいしたことがない病気」「誰にでも普通にある、まったく怖くない病気」と思ってはいないでしょうか。
健康診断や人間ドックなどで脂肪肝を指摘されても、「なーんだ、脂肪肝か……これくらいで済んだのならよかった」と胸をなでおろしてはいないでしょうか。
しかし、その誤解が数々の不調や病気を招き寄せる「不幸の第一歩」となるのです。
脂肪肝を甘く見て放っていると、後々取り返しのつかない事態を招いて大きな後悔をするハメになりかねません。
いったい、脂肪肝の何がそんなにいけないのか。
まず、押さえておいてほしいのは「肝臓は、本来脂肪がたまってはいけない場所だ」ということです。
肝臓の脂肪のように、体内のたまってはいけないところに蓄積する脂肪は「異所性脂肪」と呼ばれています。
そもそも、体脂肪には「皮下脂肪」「内臓脂肪」「異所性脂肪」の3つがあります。
通常、皮下脂肪がいっぱいになると内臓脂肪がたまるようになり、皮下脂肪も内臓脂肪もパンパンになって入りきらなくなると、そこからあふれ出した脂肪が肝臓をはじめとした「異所」にたまっていくようになるわけです。
皮下脂肪は、皮膚のすぐ下につく脂肪であり、ここにたまる脂肪はたいして害をもたらしません。
一方、内臓脂肪は、腸間膜をはじめとした内臓にべったりと蓄積する脂肪です。
内臓脂肪がたまるとおなかがぽっこりとせり出してくるようになり、高血圧、高血糖、脂質異常症、動脈硬化といったメタボ系疾患を促進させることが知られています。
きっと、みなさんの中にも「内臓脂肪が多いとヤバイことになる」と日々気にして警戒をしている方が多いのではないでしょうか。
ただ、その内臓脂肪よりもはるかにヤバイのが異所性脂肪なのです。
肝臓にたまる異所性脂肪は、内臓脂肪よりもさらに厄介な問題を引き起こします。
肝臓に脂肪が過剰にたまってくると、その脂肪が毒性を持つようになり、炎症細胞を呼び集めて肝細胞に障害やダメージをもたらすようになっていきます。
これにより肝細胞破壊が進み、肝機能がどんどん低下していってしまうわけです。
とにかく、「肝臓に脂肪がたまる」ということは、基本的にあってはならないことであり、もうそれだけで異常事態だと考えるべき。
脂肪肝という異常事態を見過ごしたまま進行させてしまうと、肝臓の機能がじわじわと弱り、それとともに日々を健康に生きる力もじわじわと弱っていってしまうのです。
だから、わたしたちは、決して脂肪肝という問題を軽く見てはいけません。
「なーんだ、脂肪肝か……これくらい平気だよな」なんていう軽々しい態度をとるのは、自分から病気や不調を招き寄せて、健康な人生をみすみす放棄しているようなものだと思ったほうがいいでしょう。
日本人に多い、BMI25未満の「やせの脂肪肝」
「脂肪肝は太った体型の人がなるもの」という固定観念を持っていらっしゃる方も多いと思います。
なかには、「私はやせているから、脂肪肝なんて関係のない話」と頭から決め込んでいる人もいるかもしれません。
しかし、そうした考えも捨て去ってしまったほうがいいでしょう。
じつは、脂肪肝はやせた人にも少なくないのです。
もちろん、肥満体型を自覚している人や肥満気味の体型が気になっている人は、ほぼ間違いなく脂肪肝です。
とりわけ「辞書くらいの分厚さでおなかをつかめる」「おなかがまん丸にせり出している」「BMIや体脂肪率が高いのが気になっている」「医者からずっとメタボを注意されている」といった人は、99%の確率ですでに脂肪肝になっていると言っていいでしょう。
ところが、脂肪肝はそういう太った人だけに現われるとは限らないのです。
なかでも日本人は、「やせの脂肪肝」が多い傾向があります。
欧米では肥満の脂肪肝患者が9割以上を占めているのですが、日本を含めたアジア諸国においては、肥満のない脂肪肝患者がけっこうな割合でいるんですね。
ある疫学調査によれば、日本ではBMI25未満のやせたタイプの脂肪肝患者が、全脂肪肝患者の20.7%(約5人にひとり)を占めるというレポートも出ています。
いったいどうしてやせているのに脂肪肝になるのか。
それには、「筋肉量の少なさ」が影響している可能性があります。
筋肉には糖(グリコーゲン)を一時的に貯蔵する役目があるのですが、筋肉量が少なく糖を貯蔵できる容量が少ないと、あふれた糖が肝臓へ向かいやすく、肝臓において中性脂肪に変換されやすくなるのです。
そのため、やせ型で筋肉量の少ない人が、間食としてスナック菓子や甘いものをしょっちゅう食べたり、甘い飲み物を習慣的に飲んだりしていると、脂肪肝がてきめんに進んでしまうというわけです。
こうした「やせの脂肪肝」の人の場合は、筋トレで筋肉をつけつつ体脂肪率を減らしていく必要があるのですが、これに関しては、後で改めて述べることにしましょう。
とにかくここでは、「脂肪肝は、やせている人でも油断禁物」ということを、みなさんしっかり覚えておくようにしてください。
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