健康診断の結果が手元にあれば、自分の肝臓の状態をある程度把握することが可能だ。
生体肝移植のプロフェッショナルで「スマート外来」担当医である尾形哲さんの最新刊『甘い飲み物が肝臓を殺す』より、健康診断の肝臓の数値の読み解き方を抜粋して紹介する。
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「S」よりも「L」が高い人は脂肪肝の可能性大
さて、自分の肝臓が気になるみなさんにぜひチェックしておいていただきたいことがあります。
それは「いまの自分が脂肪肝になっているのかどうか」「もし脂肪肝や脂肪肝炎になっているのなら、自分はどれくらい進んでしまっているのか」という点です。
みなさんご存じのように肝臓は「沈黙の臓器」であり、脂肪肝や脂肪肝炎に特徴的な症状はありません。
そのため、症状や体調変化から病気の兆候を見つけることは不可能。
でも、健康診断の血液検査の数値さえ分かっていれば、脂肪肝であるかどうかの目安をつけることができます。
まず、チェックしていただきたいのがAST(GOT)とALT(GPT)です。
ASTもALTも肝細胞内にある酵素なのですが、脂肪肝などの肝障害により肝細胞が壊れるとこれらの酵素が血液中にあふれ出します。
AST、ALTの基準値はともに30U/Lです。これらの両方、もしくはいずれかが30U/L以上になっている場合は、現在進行形で肝臓の細胞が壊れているということを示しています。
また、通常はAST>ALT(ASTのほうが値が大きい)なのですが、脂肪肝になるとAST<ALT(ALTのほうが値が大きい)となります。
そして、たとえAST、ALTが30U/L以下の基準範囲内であっても、ASTよりもALTのほうが高い場合は、脂肪肝である可能性が高いと言えます。
該当する人は、健診で何も異常を指摘されなかったとしても脂肪肝を疑ったほうがいいでしょう。
AST、ALTが10U/L台や20U/L台だったとしても決して油断することなく、早めに甘い飲み物の摂り過ぎや糖質の摂り過ぎを見直すようにすべきだと思います。
ちなみに、服のサイズはSがスモール、Lがラージですが、これと同様に(ASTの)Sよりも(ALTの)Lのほうが数値が大きかったら要注意、と覚えておくことをおすすめします。
健康診断の数値というのは、なかなか頭に入らないという人が多いのですが、これだったら楽勝で覚えておくことができますね。
それと、肝臓の炎症が進んでいる人は、とくにALTが高値になる傾向があります。
なかでも、ALTが100を超えて3ケタになっているような人は、脂肪肝炎による細胞壊死が慢性的に続いていると考えられます。
線維化リスクも高まっているので、早急に専門医を受診して治療へ舵を切るようにしてください。
決して放っておいてはいけません。「酒もたいして飲まないのに、ALTが3ケタある」といった状況は、もう黄色信号を通り越して赤信号になっていると判断したほうがいいのです。
なお、アルコールがお好きな方の中にはγ(ガンマ)-GTPの値を気にしている方も多いかもしれません。
γ-GTPは肝臓でつくられて胆汁に排出される酵素で、アルコール性肝障害の目安とされています。
ただ、γ-GTPはお酒の飲み過ぎだけでなく、甘い飲み物や糖質の摂り過ぎによっても高値になります。
お酒をまったく飲まないのに、AST、ALTだけでなく、γ-GTPも高いという人も少なくありません。
また、お酒をよく飲む人も、一定期間アルコールを控えてもγ-GTPが下がってこないようなら、「非アルコール性の脂肪肝」である可能性大。
要するに、お酒よりも、むしろ甘い飲み物や糖質の摂り過ぎが原因で肝機能障害が進んでいると見なしたほうがいいということになります。
自分の肝臓の状態をチェックする方法
では、「健康診断の結果を改めて見てみたら、どうやら自分も脂肪肝や脂肪肝炎がかなり進んでいるようだ」となったとしましょう。
そうなったときにいちばん心配になるのは「肝臓の線維化」が進行しているかどうかです。
線維化があるということは、肝硬変待ったなしということ。
肝硬変が悪化して黄疸などの症状が出てきたら、もう治療をしても後戻りができなくなり、肝臓移植をする以外、長く生きられる道がなくなってしまいます。
誰しも「線維化があるのかどうか」「あるとしたらどれくらい進んでいるのか」は気になるところでしょう。
じつは、これも血液検査の数値さえ分かれば、自分でチェックして見当をつけることが可能なのです。
これには「FIB-4 index(フィブフォー インデックス)」という肝臓の線維化の評価システムを使います。
「肝臓検査.com」というサイトでは、(1)年齢、(2)AST(GOT)、(3)血小板、(4)ALT(GPT)の4つの数値を入力すれば、簡単にFIB-4 indexの計算ができるようになっています。
計算の結果、「1.3超の人は線維化が始まっている可能性あり」「2.67以上の人は肝硬変ハイリスクの可能性あり」といったように、自分の肝臓がどれくらいマズイ状況になっているのかの目安を知ることができます。
みなさんもほんの少しでも不安が頭をかすめたなら、一度チェックしてみるといいでしょう。
もっとも、FIB-4 indexをチェックするくらい脂肪肝や脂肪肝炎の状況が心配なのであれば、必ず医療機関で検査をして、確定診断を受けるようにしてください。
肝臓にどれくらい脂肪がたまっているのかを見極めるには、腹部エコー検査、CT検査、MRI検査などの画像検査を行なう必要があります。
脂肪肝の診断にもっとも広く用いられているのは腹部エコー検査です。エコーを撮ると、脂肪化が進んだ肝臓部分が白っぽく映ることになります。
ただ、エコー検査で診断をつけることができるのは肝臓の脂肪化が30%以上進んでいる場合です。ここまで脂肪化が進んでいないケースだと、エコーではうまく映らないんですね。
逆に言えば、腹部エコー検査で脂肪肝と診断されたなら、それは「すでに肝臓組織中の3割以上が脂肪になっている」という事実を突きつけられたということ。
その事実は、決して甘く見ることなく、危機感を持って受け止めるべきものです。
そのうえで、早め早めにしかるべき治療や対策を進めていくべきでしょう。
ちなみに、脂肪化が30%まで進んでいない場合は、肝臓組織を針で採取してチェックする「肝生検」を行なうか、もしくはフィブロスキャンなどの特殊な超音波機器を用いて診断をつけることになります。
これにより肝臓に「5%以上の脂肪化」が認められれば、軽微な脂肪肝と診断されるのです。
ただ、肝生検は通常入院して行なう負担のかかる検査であり、生体肝移植のドナーになるなどよほどの事情がある場合を除き、一般患者を対象としてはあまり行なわれていません。
とにかく、肝臓は「沈黙の臓器」だとはいえ、健康診断をちゃんと受けて肝機能の数値を把握していれば肝臓のおおよその健康度を推測することができますし、人間ドックなどで腹部エコー検査を定期的に受けていれば、脂肪肝が進んでいないかどうかを確認することができるわけです。
ですから、こういった定期的な検査の機会を逃すことなく、肝臓をチェックする姿勢が非常に大切になります。
脂肪肝にしても、脂肪肝炎や肝線維化にしても、肝臓のトラブルは早く見つけて対処すればするほど事態を「大ごと」にせずに済ませられるもの。
当たり前のことではありますが、他の病気と同様、肝臓を守っていくうえでいちばん重要なのは「早期発見、早期治療」なのです。
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