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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.11.23 公開 ポスト

【夢ごは日誌】喜べたことを、喜ぶ清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

喜べたことを、喜ぶ

保育園に子どもを迎えに行き、玄関で靴をはかせていると、同じクラスのパパさんが見知らぬ年配の女性を連れてお迎えに来た。お迎えはいつもママなのにどうしたんだろう。

あら、もしかして……。

パパさんは私を見るなり、顔をぱっと明るくして「あの! 無事に産まれたんです!」と言う。ママさんは第二子妊娠中だったのだ。

「わーっおめでとうございます! そうかな、って思いました」

「そうなんですそうなんです、だからベビーシッターさんにお迎えの説明をしようと思って、」

それから赤ちゃんの性別や誕生日を教えてくれた。母子ともに健康だという。

ママさんとはお家や公園で遊んでLINEも知っている仲だけど、パパさんとこんなにしゃべったのは初めてだった。こんなににこにこしているパパさんは初めて見た。

赤ちゃんが生まれたことを誰かに言いたくてたまらなかったんだろうな、と思ったら、ふくふくと嬉しい気持ちがこみあげてきた。

昔、友だちと小さな島へ旅をしたことがあった。

ノープランで行ったので、港でぼーっとしていたら、親切なおばさんが車に乗せて島を案内してくれることになった。

おばさんはとてもニコニコして、「あのね、今日とてもいいことがあったんだよ。赤ちゃんが生まれたんだよ。この島に住んでる人は200人。それが201人になったんだよ。今日は島のみんなでお祝いだよ」と言った。

「おばさんのお孫さんですか?」というと、「ちがうよ。〇〇さんとこの子」とまたニコニコする。

友だちが「なんか、泣けてきた」と目をごしごしこすった。

あの時の気持ちと同じだ。

命が生まれたことが嬉しい。命が生まれたことを喜ぶ人がいることが嬉しい。命が生まれたことを一緒に喜べたことが嬉しい。

私は今、子宮の病気に苦しんでいる。たぶん、もう赤ちゃんを産むことはできないけれど、とても嬉しかったんだ。

「おめでとうございます」って心から喜べたこと。

 

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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