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衰えません、死ぬまでは。

2024.12.06 公開 ポスト

第21話 サステナブルな筋トレ 後半

何も続かなかった宮田さんが、3週間続いている筋トレの中身とは!?宮田珠己

朝起きようと思ったら、体が重くて動かない。病院に行って告げられたことは「これは、真の老衰」ということだった――。

*   *   *

事態は抜きさしならぬところまできた。

体力の奪還は、喫緊の課題だ。

もう5年ぐらい散歩を続けているが、散歩如きではまったく功を奏していないことになる。あるいは功を奏してようやく今のレベルで持ちこたえているということか。いずれにせよ散歩では足りないということだ。運気をあげたいとか言ってる場合ではない。生きるか死ぬかの瀬戸際である。

だが私の場合、いきなり体力を消耗するような運動をすると、発作が起きて本当に死ぬかもしれない。ジョギングや登山などで心肺能力を鍛えるのは控えたい。となると、一番いいのは筋肉を増やすこと。つまり、筋トレだ。

 

筋肉は基礎体力に直結する。免疫力にも関係があるという。

何度も何度もトライして常に挫折してきた永遠の敵、筋トレ。

(写真:宮田珠己)

ボルダリングも、たまに行く程度では、面白いだけで、筋肉はちっともついてこない。毎日行くぐらいでないと、つかない気がする。そうなるとお金もかかるし、仕事をする時間もとれなくなる。

私は、あらためて筋トレ計画を練ることにした。

これまでいろいろな方法を試して失敗を重ねてきている。すでに私の中には、何度も筋トレに挫折したトラウマができており、どうしたって続く気がしないが、たとえそうであっても、真の老衰に対抗することができなければ、死あるのみだ。 聞くところによれば、筋トレを始めてもほとんどの人が3カ月以内に挫折するという。ネットで検索すると、筋トレでマッチョな体を手に入れた人が大勢動画をあげているから、世の大半の人は挫折しないのかと思っていたら、あの人たちは希少種だったようだ。

ここでもう一度今までの経緯を踏まえ、一番持続可能性のあるサステナブルな筋トレを見つけたい。

まずジムはダメだ。行くまでに手間がかかりすぎる。着替えを用意して家を出て、ジムに向かう、という前置きが長すぎ、長い分だけ、やっぱりやめよう、家に帰ろう、と心を翻す機会が多くなるからだ。めんどくさいと思うより早く取りかかるぐらいでないと、反筋トレ分子に負けてしまう。

となると自宅で自重、という選択肢しかない。もちろん自宅でできて器具も使わないからといって、楽に持続できるなんてことはない。かつて筋トレアプリに、持続可能性を感じたときもあったが、結局ダメであった。

筋トレアプリは私の意向に関係なく動画がどんどん進んでいくため、ついていけなかった。そう考えると、今まで一番長続きしたのは、学生時代の部活を除けば、超低ノルマ筋トレということになる。

前にも書いたが、腕立て伏せとスクワットをきつくない範囲で1セットずつやるだけの超低ノルマ筋トレが、1カ月間ぐらいサステナブルであった。2カ月目に突入したぐらいから、それさえもサステナブルでなくなったが、これ、サステナブルの言葉の使い方合ってる?

ともあれ、かろうじて1カ月続いたのは、腕立て伏せ10回とスクワット30回を1セットのみ、という筋トレだった。

(写真:宮田珠己)

息子に言わせると、腕立て伏せ10回ってそれ効果あんの? というレベルだが、大事なことは強度ではなく、持続できるかどうかであり、どんなに回数を増やしたところで、そのせいでやる気がなくなったら元も子もないのである。まず持続させ、それが確かなものとなった段階で少しずつ回数を増やしていけばいい。

そもそもこっちは還暦なのである。気がつけばジムに通ってムキムキになっている息子とは、人生の局面が違う。むこうは上り坂であり、こっちは下り坂、否、崖を絶賛落下中なのだ。

1カ月以上、できればずっと死ぬまで続けるためには、さらなる工夫が必要だ。そこで、レコーディングでやる気を補充することにした。数字上で変化があれば、私も少しはやる気が出ることはわかっている。ただし体重や体脂肪率の変化を実感するには時間が必要で、1カ月ぐらいでそれを期待するのは無理だ。変化が見える前にやめてしまうのは目に見えていた。レコーディングする際、大切なのは、変化である。

そこで、体脂肪率などではなく、やった回数を記録することにした。 たとえば毎日同じ回数をノルマにすると変化はないが、ノルマを廃し、何回でも好きな回数をやることにすれば変化が生まれる。

仮に腕立て伏せの回数を1日10回と設定し、表に記録していくとき、これをノルマでなく目標とすることによって、毎日そのメニューを何回やるかは気分で決められるようになる。そうすると、日によってばらつきが出る。ある日は7回でやめたかと思えば、20回やる日も出てくる。そうすると数値は、たとえば、7→20→10→18→13というふうに凸凹に推移していく。

このばらつきが大事なのだ。毎日違うからやる気が出る。

さらに目標は1日10回ではなく、1カ月で300回というふうに設定しておく。あくまできつくない数字で。

そうすると、1日に絶対これだけやらねば、みたいな精神的に負担に思う度合いが減り、ペース配分を意識するようになって、昨日はたくさんやったから今日は少しでいいや、とか、だいぶ数値もたまってきたから1日ぐらい休もうとか、そういう精神の自由が生まれる。

(写真:宮田珠己)

さっそくエクセルを使って表を作成した。日付ごとにやった回数を書き込むと、月の合計が出るようにして、その横には目標値を書いておく。

とりあえずの目標は、腕立て伏せ300回(日平均10回)、プランク2700秒(同90秒)、バックランジ900回(同30回)と全然ハードじゃない数値に設定した。1日分の数値は10分ぐらいでクリアできるレベル。体力的にはまったく問題ない。

そうして取りかかってみたところ、うまいこと継続でき、あろうことかすでに3週間続いているのであった。過去の連続記録まであと少しだ。

予想通りというか、敢えて自分でそうしているんだけども、毎回やる回数や時間が違って、表に書き込まれる数値が凸凹している。その日の回数や時間を書き込んだあと、表を眺めると、体重や体脂肪率を並べた変化のない表や、毎日同じ数値が直線的に積みあがっていくだけのノルマ表を見るより、ずっとワクワクする。

私が求めていたのは、この凸凹だった気がしてきた。

実は散歩の歩数でもこれをやっていて、毎日変動するグラフを眺めて悦に入っている。筋トレもこれでいけるんじゃないかと考えた自分GJ。

慣れてくれば回数も少しずつ増やし、時間はかかるものの、気づけば筋力と体力がついて、運気も上昇していたという、そういう流れにもっていきたい。

今3週間。体脂肪率も、気になる内臓脂肪レベルも全然変化はない。でもいいのだ。変化は回数に現れている。

いよいよ私のサステナブルな筋トレが始まった。

来月の結果報告を、刮目して待て。

(連載は「小説幻冬」でも掲載中です。次号もお楽しみに!)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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