2023年、107年ぶりの甲子園優勝を果たした慶應義塾高校野球部。同校のメンタルコーチで、チームを奇跡の優勝に導いた吉岡眞司さんは、日ごろから選手たちに「3つの心がけ」を伝え続けていたといいます。それはいったい、どのような内容だったのか? 著書『強いチームはなぜ「明るい」のか』も話題の吉岡さんに、「強さの秘密」をうかがいました。
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心を自在にセルフコントロールする
──吉岡さんが慶應高校野球部の指導を始めてから、チームはどのように変わったと思いますか。
自分たちの心を、自在にセルフコントロールできるようになったと思います。その変化の裏には、日本一を実現するために、自分たちに必要なことはどんなことでも素直に実践する行動がありました。
具体的には、「ありがとう」という言葉、「いい顔」をしてプレーする、試合にのぞむ際の「チャレンジ精神」。この3つのポイントについて愚直に取り組んだ結果、彼らは心を自在にセルフコントロールすることができるようになったと考えています。
──3つのポイントについて、くわしく教えてください。
「ありがとう」という言葉は、年齢や国籍を問わず、プラスの感情のときに口にする言葉の代表です。また、「いい顔」もプラスの感情のときに、自然に表情として出るものだと思います。
私はみんなに、「言葉や表情は、感情に影響を及ぼす。そして感情は、パフォーマンスを左右する」とよく言っています。
つまり、「ありがとう」や「いい顔」をつねに意識してアウトプットしていると、自分たちにとっていい状態で試合にのぞむことができる。パフォーマンスを発揮できる確率が高くなるということです。
たとえば、守備から戻ってきた選手たちは、ベンチにいる選手たちに「ありがとう」という言葉をかけます。自分たちのために、いろんな指示や声援をベンチから送ってくれたからです。
また、ベンチで迎える選手たちは、「チームのためにしっかり守ってくれてありがとう」という気持ちをこめて「ありがとう」という言葉をかけます。このように、おたがいに「ありがとう」を応酬して、いい脳の状態をつくっているわけです。
表情については、選手たちが笑顔であることが、昨年夏の甲子園大会で大きく取り上げられました。しかし、笑顔だけが大切なわけではありません。
たとえば、キリッとした表情、堂々とした表情、冷静沈着な表情、ケースバイケースでいろんなプラスの表情がありますよね。それらをすべてひっくるめて、「いい顔」と総称しています。「いい顔」をしてプレーすることで、やはりいい脳の状態をつくることができます。
──「チャレンジ精神」については、いかがですか?
負けたチームと再試合するとき、「リベンジ」という言葉をよく聞きます。しかし、私は「リベンジという思いはよくないよ」と伝えています。
なぜなら、「リベンジしよう」という思いが強くなると、勝たなければいけないとか、ここで抑えないといけない、打たないといけないとか、「◯◯しないといけない」という思いが強くなってしまうからです。
「◯◯しないといけない」という思いが強くなればなるほど、プレッシャーや義務感を感じさせてしまうので、その時点で心の振り子はマイナスへと振れます。マイナスの感情のときは行動力が下がってしまうので、パフォーマンスが発揮できなくなります。
一方、チャレンジ精神はどうかというと、ものごとにチャレンジしようとするときは気持ちが前向きです。また、自分たちが追い込まれる状況もイメージできますから、いざそうなったときの対応策も立てておくことができます。
プラスの感情を持って、事前準備をして試合にのぞむには、リベンジではなく、チャレンジ精神という思いが大切だと思います。
「心の振り子」をプラスへ振る方法
──私たちがすぐに実践できる、心の振り子をプラスに振る方法はありますか?
脳科学の進歩によって、「感情」がパフォーマンスを左右することが明らかになってきました。その感情に大きな影響を及ぼすのが、動作、表情、仕草、言葉です。
心がネガティブなときは、自信なさげに背中を丸めたり、うつむいて人と目を合わさなかったり、「疲れた」と口にしたり、人それぞれクセみたいなものがありますよね。
そんなときは、たとえ心がネガティブで、そんな気分ではなくても、プラスの動作、表情、仕草、言葉をアウトプットしてみる。そうすることで、私たちの脳は肯定的な錯覚を起こします。
どんなに気持ちがへこんでいても、脳がプラスだと錯覚すれば、心の振り子はプラスに振れます。心の状態は脳に引きずられるからです。
簡単にできるワークとしては、じゃんけんを使ったものがあります。ふつうは勝ったら「よっしゃ」とか「いいね」と思いますし、負けたら「残念だ」と思いますよね。それをあえて逆にしてみるのです。
じゃんけんをして負けたときに、そんな気分ではなくても、「よっしゃ」とか「いいね」といった言葉を、胸を張って大きな声でアウトプットしてみる。すると不思議なことに、残念だという気持ちがだんだん弱まってくるんです。
ネガティブな状況のときに、プラスの言葉や表情をあえてアウトプットすると、心の振り子をマイナスからプラスへ振ることができる。そのことを、このワークで体感してもらえればと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】吉岡眞司と語る「『強いチームはなぜ「明るい」のか』から学ぶメンタルトレーニング〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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