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  4. 第236回 知らない才能

時に、突如として自分の知らない才能が開花することがある。

私は取り立てて突出した能力を持っていない。無理くり出すとするならば“足の速さ”。と言ってもこれは小中高時代の話。運動会の時とかリレーの選手の常連で。運動会が近づくと給食の後、リレーの練習があって。「ちょっと行ってくるわ」と“まあまあ別にどうってことないんだけどね”顔しながら、心は“選ばれし自分”が嬉しくて嬉しくて。

 

そんなの顔に出ちゃっているだろうから、今思えば相当イヤな人ですが。何かに“選ばれる”ことなんてなかった私は、どうしても“調子こきまろ”だったんですよね。お恥ずかしい。ただその運動能力は本当に“走る”に“だけ”特化しておりまして。バレー、バスケなど球技全般(何故か卓球だけは超上手かったけれど)やハンドボール投げなど“ボールを投げる”や、走り高跳びや垂直跳びなど“上へ跳ぶ”などは出来ないどころか学年でもほぼ最下位なくらい、度が過ぎて出来なかった。しかも“走る”も短距離に限る。根性ないもんで長距離なんてとんでもない。中高時代、陸上同好会に入っていて、約5キロの皇居マラソンをやりましたが、ヘロヘロのへロ子さん。当時、血圧も人の半分くらいしかなかったので、それを言い訳に長距離はずっと避けてきた。それから30年以上経って24時間テレビでフルマラソンを走るとは思いもしなかったですが。まあ今はご覧の通りすっかり大きな体に、そしてちゃんと歳も重ね、もう“速い”“遅い”とかじゃなくて、“走る”がそもそもキツイ。ゆーっくり生きていきたいものです、ええ。

あ、あと“若い頃”限定能力シリーズで言えば“数学”。文系の科目の成績は目も当てられませんでしたが、何故か理系、特に数学は好きだったのもあってよく出来る方だった。まあそれも大人になって発揮してるか、となるとまったくもってゼロ。たまにロケで電車乗った時、切符に書かれた4ケタの番号あるの、わかります? その4つの数字を+−×使って10にする、というのをやるくらい。

そんな私がこの仕事のおかげ、と申しますか。普通だったらやらなかったであろう事をいろいろやらせていただくもので、思いもしない能力が顔を出す事がある。一番最近ですと“94キロの男を肩に乗せる”です。まあこの能力なんて、普通に生きていて確かめようがない。「世界の果てまでイッテQ!」の『ミステリーツアー』というコーナーでオーストリアに参りまして。そこでベレーナさんという体を使ってありえないバランス技を駆使した、肉体のアートパフォーマンスをする方にお会いしまして。その彼女が見せてくれた技が、まずうつ伏せで寝て、その上に94キロの男性・ラルフさんが乗る。それだけでもキツそうなのに、そこから肘を立てて上半身を起こす→片方ずつ膝を立てる→手を伸ばして四つん這いに→片足ずつ立ち上がる→右肘を右腿につけて上体を起こす→左手をあげて背中のラルフさんと手をつなぐ→体を起こして右手もつなぐ(ここでラルフさん、肩に乗る)→肩をまっすぐにしてちゃんと立つ→つないだ手を離してラルフさんのふくらはぎを持って支える(ラルフさんも直立)、というもの。文字でご理解いただけたでしょうか。じゃあこれをやりましょう! と言われても、正直1ミリも出来る気がしない。だってベレーナさんですら終始プルプルしていたくらいですよ? スタッフさんも含め、誰も出来るなんて思ってない。まあ94キロの人間がうつ伏せの背中に乗ってきたら、そもそも上半身を起こすのが精一杯。良くて四つん這いまでいけたら、くらいに全員思っていた。それがまさかのチャレンジ1回目。“左手をあげて背中のラルフさんと手をつなぐ”までいっちゃいまして。もちろん信じられないほどプルプル、いや、ブルブルしましたよ。振動系のダイエットマシンあるじゃないですか。あれか、あれ以上のブルブル。まあそんなわけで“うっかり”成功の可能性がほんのひとつまみ程度ですが出てきてしまったので、そうなるともうがんばるのみ。ただ1回やると全身の筋肉に力が入らなくなってしまうので、続けざまにやれない。しかも回を重ねるごとに疲労が溜まっていくので、いつか限界が来るのもわかっている。とにかく1回1回集中。何度かチャレンジした後、いろんな面でタイムリミットが。最終チャレンジ。VTRで観たらあっという間でしたが、体感では5分くらい踏ん張ったような。それだけ1つ1つの動きを正確に、確実にやった。ラルフさんが肩に乗る瞬間だけ、ベレーナさんが支えてくださったおかげもあり、本当に一瞬でしたが“94キロの男を肩に乗せる”に成功。何の涙かまったくわからないけれど、震えるように泣けてきた。

こうして私には“94キロの男を肩に乗せる”才能があることが発覚。おかげで何か重たいものを持つ時、誰かに「持ちましょうか?」と言われても、今までは「松屋のバイトの時、肉10キロとか持っていたんで大丈夫です!」と言っていましたが、これからは「肩に94キロの男乗せたんで大丈夫です!」と言う事にしよう。うん、レベルアップ。

他にも宮崎県でやった宴会芸・一升瓶乗り。これは裸足になって一升瓶を両足の裏で挟み、そのまま腰を落としてバランスを取り、手に小皿を持ってちょっと踊る、というもの。これはやってらっしゃるご本人が高齢のためもう出来ないということでVTRを観てやってみる、という。もはやもう独学レベル。最初はこれもまったく出来る気がしませんでいたが、ある瞬間「あれ? 乗れるかも?」の感覚と共に、急にバランスが取れて、乗れた。あとアメリカで現地の人も吹き方がわからない、謎の笛を渡されたことがありまして。曲もこれまた知らない歌を生で歌ってもらい、それを耳コピで覚えて吹く、という。めっちゃくちゃな企画でしたが、これがまさかの15分探ったら吹けるようになりまして。自分でもびっくりです。なんなんでしょうね、この力。

54歳。これからもこんな謎の能力、見つかるかもしれません。ま、何の役にも立ちませんが。その時はまたご報告させてくださいませませ。

 

【本日の乾杯】このアスパラ、生です。茹でてない、生。根元の方15センチだけ皮を剥いて、あとはそのままカット。甘いお味噌をつけていただく。アスパラってこんなにみずみずしいのね。感動。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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