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2024.12.08 公開 ポスト

日本バスケ界の危機。渡邊雄太「責任をもってこの問題に向き合っていく」木本新也

日本バスケットボール界が危機的状況に陥り、渡邊雄太が動いた。NBAレイカーズの八村塁が男子日本代表のトム・ホーバス監督の手腕に苦言を呈した騒動を受け、ふたりの関係修復に向けて間を取り持つ意志を表明。日本代表を強くするために、非常事態に正面から向き合う姿勢を見せた。

「八村選手とホーバス監督の関係性がよくなかったという事実はあります」

黙っていられなかった。

 

騒動勃発から15日後の2024年11月28日。都内で開催されたBリーグのイベント後、渡邊雄太が報道陣の前で“八村騒動”に言及。前代未聞の事態に発展した経緯や、自身の思いを語りだした。

PHOTOGRAPH=西村尚己/アフロスポーツ

「もう隠しようがない。八村選手とホーバス監督の関係性がよくなかったという事実はあります」と認め「悪者はひとりもいません」と前置きしたうえで、こう続けた。

「塁がいろいろな発言をした。それ自体はいいとして、ちょっと変な方向に行ってしまっている。憶測が憶測を呼んで、事実と異なることが報道されたり、個人が攻撃されるようなことがある。NBAでやっていてBリーグに帰って来た身として、最初に事実を述べさせていただいて、自分の感情も言わせてもらえればと思います」

渡邊によると、確執の発端は八村不在でパリ五輪切符を勝ち取った2023年夏のW杯後の会見。トム・ホーバス監督が「彼(八村)が(代表で)やりたいなら、彼から声をかけてくるべき。彼が来るなら、うちのバスケットをやらせる。彼には入ってほしいが、やらないなら、このチームでいいチームをつくる。自信があります」と発言したことだった。

突き放されるような言葉を受けた八村が激怒。当時、渡邊は直後に八村と連絡を取り、監督が八村を悪者にする意図はない真意を説明したが「仮にそうだとしても、世間からそう思われる時点であの発言はまずかったのでは」と怒りは収まらなかったという。

その後もふたりのコミュニケーション不足は続く。八村の所属する代理人事務所・ワッサーマンはNBAに集中させるため、八村とホーバス監督が直接連絡する手段を遮断。ふたりの意志伝達には日本バスケットボール協会(JBA)と代理人が間に入ることになった。

同じ事務所に所属する渡邊は、クライアントを大切に扱う事務所に理解を示しつつ「いいコミュニケーションが取れるわけがない」と指摘。八村がパリ五輪前の2024年7月下旬に日本代表に合流した後も、溝は深まっていった。

7月下旬の韓国代表との強化試合。八村はコンディション調整期間のため早い段階で欠場の意志を示していたが、メンバーから外れることが発表されたのは試合当日。結果的に客寄せパンダ的な扱いを受け、八村の不信感は増大した。

日本代表をさらに魅力的なチームにしていく決意

JBAの渡辺信治事務総長は「もしかしたら出られるんじゃないかという希望的観測あった。商業目的で(欠場の発表を)引っ張った意図はなかった」と釈明したが、強化よりも興行を重視した判断だった感は否めない。

ホーバス監督が日本代表に課す練習量がNBAと比べて圧倒的に多いことも選手へのリスペクトを欠くととらえる一因となった。

1次リーグ敗退に終わったパリ五輪から3ヵ月以上が経過した2024年11月13日のメンフィス・グリズリーズ戦の公式会見で、八村が溜まっていた鬱憤を爆発させる。

JBAの強化方針を「お金の目的があると感じる」と痛烈批判。2028年ロス五輪を見据えて契約延長したホーバス監督について「日本代表にふさわしい、男子のことを分かっている、そういう人がコーチになってほしかった」と不満を口にした。

渡辺事務総長は「八村選手の発言は重く受け止めている。五輪前の代表戦を含めてミスコミュニケーションがあり、彼に負担をかけてしまった」と反省。そのうえで「ロス五輪に向けてホーバス監督の下で進んでいくことが変わることはない。最大限バックアップしていく」と強調した。

JBAの三屋裕子会長は、騒動勃発から17日後の2024年11月30日に取材に対応。ホーバス監督を最大限バックアップすることを強調したうえで、八村を念頭に置いた海外選手との連絡窓口を一本化して責任者を明確にするテコ入れなどを発表した。

渡邊の会見は三屋会長の対応の2日前。八村とホーバス監督の亀裂が深まるのを見かねて報道陣の前に立つことを志願した。

「最初、僕は表に出るつもりはいっさいなかった。水面下でやればいい話と思っていたが、これ以上ことが大きくなってトムに負担がかかるのが嫌だった。塁にもNBAのシーズンに集中してほしい。ふたりがいい関係を築けるようコミュニケーションを活発に取れる状態にしたい」

事前に八村には報道陣の前で騒動に言及する旨を報告し「塁と対立をする気はない」と伝えた。そしてホーバス監督について、「日本代表の監督として誰よりもふさわしいと思っている。今代表に関わる選手、スタッフのほとんどがそう思っていると思う」と支持を表明した。

「今回の件で万が一、トムが辞めてしまうようなことがあれば許せない。トムが(身を)引くようなことがあれば日本代表は崩壊していくと思う」

報道陣からの質問を受ける時間は設けられなかったが、熱弁は約16分に及んだ。日本バスケ界を救うために立ち上がった男気ある会見。最後は日本代表をさらに魅力的なチームにするという強い決意で締めくくられた。

「今後さらに強い日本代表を皆さんにお見せできたらと思っている。僕も代表の一員として責任を持ってこの問題に向き合うので、引き続き応援をよろしくお願いします」

渡邊雄太/Yuta Watanabe

1994年10月13日香川県生まれ。香川・尽誠学園時代に全国高校選抜優勝大会で2011年から2年連続準優勝。米ジョージ・ワシントン大を経て2018年にメンフィス・グリズリーズと契約し、日本人ふたり目のNBA公式戦出場を果たす。ラプターズ、ネッツなどでNBA通算213試合に出場し、1試合平均4.2得点、2.3リバウンド、0.6アシスト。2024年夏にBリーグの千葉ジェッツに移籍した。2021年の東京五輪は日本代表の主将。ポジションはスモールフォワード。身長2m6cm、98kg。

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※この記事はWeb版GOETHEに掲載された記事を再編集したものです

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時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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