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老後ひとり難民

2024.12.29 公開 ポスト

貯金が1200万円あるのに使えない?! 病院で表面化する「老後ひとり難民」問題沢村香苗

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

「老後ひとり難民」が表面化するのは病院に運ばれたとき

認知症のリスクが低く、お金の心配もないという人であれば、安心といえるでしょうか。

ひとり暮らしであっても自立した生活ができており、「現時点ではお金には困っていない」という高齢者の方もいると思いますが、実はそのような人の生活にもさまざまなリスクが隠れています。

自分が「老後ひとり難民」になっていることに気づかされるのは、転んでケガをして動けなくなったり、病気で急に倒れたりして、病院に運ばれたときです。

入院する際、身元保証人になってくれる人がいないと、受け入れてもらえる病院が見つかるまで、たらい回しにされるケースもあります。

入院できたとして、家にある入れ歯や着慣れたパジャマを持ってきてくれる人はいるでしょうか。コンビニで払っている携帯電話料金は、誰が払いに行くのでしょうか。「甘いものが食べたい」と思ったとき、買ってきてくれる人はいるでしょうか。治療費や入院費の支払いはどうすればいいでしょうか。

 

親族のなかにそれらの対応をしてくれる人がいそうだと思っていても、倒れたときに意識を失うなどして意思表示できる状態になかったら、親族には誰がどのように連絡してくれるのでしょうか。

昔であれば、病院などが電話帳を調べて連絡できるケースも少なからずありましたが、近年では携帯電話の普及によって家に固定電話を置く人が減り、電話帳では調べられないケースが大半です。

本人の意識がない場合、「半年や1年に一度くらいは連絡を取り合う」という程度のつき合いの親族がいたとしても、スムーズに連絡がつかない可能性は高いはずです。

無事に退院できることになったとして、今までのように身体の自由がきかなくなっていたら、その後の生活はどうなるのでしょうか。

階段や段差が多い家に住んでいたりすれば、転居を考える必要が生じるかもしれません。

また残念ながら、入院しても亡くなってしまう場合もあるでしょう。そのとき死亡届を出したり火葬の手続きをしたりしてくれる人はいるでしょうか。

仮にいるとして、病院などから、確実に“その人”に連絡はつくのでしょうか。住んでいた家や財産は誰がどのように処分することになるのでしょうか。

1200万円持っていても意思疎通ができないと使えない

近年、高齢のひとり暮らしの方が、本人が想定していなかったであろう最期を迎えたケースがニュースでよく取り上げられています。

例として、2024年3月、朝日新聞デジタルでは「身寄りなき最期と向きあう」というテーマで複数のケースを取り上げました。

たとえばボランティアで街路樹のせんてい中にのうこうそくを発症し、高所から転落、右半身不随となった70代の独居男性の場合、男性には複数の兄弟がいたものの、支援を頼める人はいなかったといいます。

1200万円の預金を持っていたにもかかわらず、意思疎通ができないため市や病院がそのお金を使うことは難しく、結局、市の判断で生活保護を適用して医療費などを支払ったそうです。

 

同じ連載で私が取材に応じた記事では、80代の独居男性が買い物帰りに倒れ、心肺停止状態で発見されたケースが紹介されました。男性は病院にはんそう後、意識が戻らず、数日後に亡くなりました。

婚姻歴はなく子どももおらず、いとこは関わりを拒否。海外に住むめいとは連絡がついたものの、火葬や納骨は市に一任されました。火葬の際には親族や知人の姿はなく、遺骨は一時的に市の職員が預かり、数カ月後に一時帰国した姪が同意書に署名した後、やっと納骨にこぎつけたそうです。

 

また2024年4月、NHKでは、元大学教授でひとり暮らしの高齢男性が自宅で倒れて亡くなった際、親族に連絡が取れなかったため自治体が火葬したのちに、無縁仏として埋葬し、数カ月後に車で10分ほどの近隣に住む弟夫婦がそのことを知った際には、遺骨を取り出すことさえできなくなっていたというケースも報道されました。

2024年6月10日放送のNHK「クローズアップ現代」によると、その高齢男性が亡くなる5日前にも、弟は会っていたとのことで、弟夫婦は自分たちへの連絡なしに火葬し埋葬した経緯について、京都市に説明を求めました。

京都市では葬儀を行う人がすぐにわからない場合、戸籍を調べて親族を探すようにしているとのことです。火葬をする前にその高齢男性の戸籍を調べたそうですが、載っていたのは亡くなった両親だけで、弟は結婚して別の戸籍となっていたため、名前はありませんでした。

弟の存在は古い戸籍には記載がありましたが、調査には時間がかかることもあり、京都市はそこまで行っていませんでした。

実際、身寄りのない人が亡くなった場合の取り扱いについて、国の統一ルールがないため、判断は各自治体に任されており、対応がバラバラになっているのです。

*   *   *

この続きは「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説する幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお求めください。

関連書籍

沢村香苗『老後ひとり難民』

世はおひとりさまブームで、独身人口は増え続けるばかり。だが、そのまま老後を迎えて本当に大丈夫だろうか? 配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多い。高齢で体が不自由になるなか、認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも。本書ではこのような現実に直面し、かつ急増している高齢者を「老後ひとり難民」と呼び、起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説。読むだけで老後の生き方・考え方が劇的に変わる一冊。

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老後ひとり難民

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

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沢村香苗

日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保健学)。東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。

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