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老後ひとり難民

2024.12.30 公開 ポスト

「老後ひとり難民」が直面する「保証人」問題 96%の介護施設で「本人以外の署名」が必要沢村香苗

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

「老後ひとり難民」が直面する「保証人」という重大な問題

「老後ひとり難民」が、いずれ直面せざるをえないのが「身元保証」の問題です。

高齢期は、心身機能の低下にともなって、入院や転居、施設入所など「居場所の移動」が避けられない場面が多くあります。

そして、このような場面では、一般に「身元保証人」が求められます。高齢者の身元保証人が、大きな問題として浮上しやすいのはこのためです。

実は、ここからご説明していく身元保証には、法的な裏づけや明確な定義がありません。

「保証人」と聞くと、一般には「支払いがとどこおったときに代わりに払う義務を負う人」といったイメージがあるかもしれませんが、高齢者が身元保証を求められる場面では、保証人に対する期待は必ずしも金銭の支払いに限られておらず、その中身は多様です。

この曖昧さが、問題をより複雑にしているといえます。

 

高齢期に身元保証人が求められる主な場面は、入院するときと、介護施設や新しい賃貸住宅などに移るときです。

身元保証人がいないと、金銭面での未払いリスクに直面しますし、入院先では意思疎通ができなくなった場合に治療計画が決められなかったり、死後の手続きができなくなったりします。

身体が不自由になったときに、身のまわりの世話や退院時の手続きができないリスクもあります。

 

厚生労働省の「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」(2018年)によれば、全国の医療機関を対象に行われた調査において、医療機関の65%が入院時に身元保証人等を求めており、「身元保証人がいない場合は入院を認めない」と回答した医療機関は8.2%でした。

医療機関が身元保証人に求める役割は、「入院費の支払い」が87.8%と最も多く、次いで「緊急の連絡先」が84.9%、「債務の保証」が81.0%などと続きます。

このほか「本人の(退院時の)身柄引き取り」「医療行為の同意」「(本人死亡時の)遺体・遺品の引き取り」「入院診療計画書の同意」などもあげられており、期待される役割が幅広いことがわかります。

そもそも身元保証人は本当に必要か

なぜ、身元保証人が求められるのでしょうか。

高齢者が入院した場合、病状の悪化や認知機能の低下のため、治療方針について本人の意思を確認することが難しいケースがあります。そのようなとき、身元保証人には、本人の意思決定を支援したり、本人のこれまでの考え方や意向など、治療チームが方針を検討するのに必要な情報を伝えることが求められるのです。

また、病状が悪化して延命治療が必要になった場合なども、本人の意思を推測するための情報提供や、本人の意思伝達などの支援が重要な役割となります。

さらに、入院中の日常的なケアについても、身元保証人の助けが必要となることがあります。

病院内でのつき添い、差し入れ、洗濯物の交換など、家族がいれば当然サポートしてもらえるようなことも、「老後ひとり難民」の場合は、誰がやるのかが問題になるからです。

つまり、医療機関が求めているのは、「本人が自ら行えないことを、代わりに行ってくれる人」なのです。

単に金銭的な保証人というだけでなく、本人に代わってさまざまな役割を担ってくれる存在が必要とされていると考えたほうがいいでしょう。

金銭についても、お金がなくて支払えないことよりも、お金を口座から引き出して支払うという手続きができないことへの懸念が大きいといえます。

 

なお、身元保証人のような役割を果たす人は確かに必要ですが、保証人として署名できる人がいなければ入院が認められないというのは、やはり問題があるととらえられています。

このため国や自治体は医療機関に対し、身元保証人がいないことだけを理由に入院を拒否してはいけないという通知を出したり、身元保証人がいない場合の医療機関の対応のガイドラインを示したりしています。

しかし日々の医療の現場では、身元保証人の役割を担う人が欠かせないこともあり、ガイドラインが現場の対応に反映されているとは言い難い状況が続いています。

 

介護施設などへの入居の際も、事情は同様です。みずほ情報総研の「介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業」(2018年)で行われた調査では、介護保険施設や認知症グループホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホームなどの高齢者向け施設のうち、95.9%が、契約時に本人以外の署名を求めていました

署名者に期待する役割は「緊急時の連絡先」が93.1%と最も多く、次いで「遺体・遺品の引き取り」が90.4%、「入院手続き」が88.4%、「施設利用料金の支払、滞納の場合の保証」が88.2%となっています。

これらの結果から見えてくるのは、介護施設などが身元保証人に求めているのは、施設利用料金の支払い以外は、「入居者に何かあったときの対応」だということです。

入居者の体調が悪化して病院への入院が必要になったとき、あるいは亡くなったときなど、施設の通常業務のはんちゅうを超える事態が発生した際に、施設に代わって対応してくれる人が必要なのです。

*   *   *

この続きは「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説する幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお求めください。

関連書籍

沢村香苗『老後ひとり難民』

世はおひとりさまブームで、独身人口は増え続けるばかり。だが、そのまま老後を迎えて本当に大丈夫だろうか? 配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多い。高齢で体が不自由になるなか、認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも。本書ではこのような現実に直面し、かつ急増している高齢者を「老後ひとり難民」と呼び、起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説。読むだけで老後の生き方・考え方が劇的に変わる一冊。

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沢村香苗

日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保健学)。東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。

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