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老後ひとり難民

2024.12.31 公開 ポスト

年間800億円が国庫に 死んでも銀行口座からの引き落としは続く沢村香苗

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

死んでも、銀行口座からの引き落としは続く

「老後ひとり難民」が銀行口座にお金を残したまま亡くなった場合、そのお金はどうなるのでしょうか。

「死んだら口座が止められ、お金は引き出せなくなるのでは?」と考える方が多いと思いますが、銀行が口座名義人の死亡を把握できるとは限りません。

一般に銀行は、相続人からの申し出や新聞のほうらんなどで口座名義人の死亡を知った時点で、速やかに口座からの引き出しや引き落としを停止します。

しかし、ひとり暮らしの高齢者が亡くなった場合などには、銀行は口座名義人が亡くなったことを知る機会がないこともあります。そのような場合、銀行口座は“生き続ける”ことになります。

つまり存命中と同様、銀行によって口座の管理が続けられるのです。

口座に10年以上入出金等の取り引きがない場合は、その口座は「休眠口座」となります。休眠口座の預金は一定期間経過後、預金保険機構に移管され、最終的には国庫に引き渡されることになっています。

ただし、その後も、休眠口座管理制度に基づいて、相続人などが払い戻しを請求することは可能です。

 

では、亡くなった「老後ひとり難民」の口座から、何らかの料金が引き落とされ続けている場合はどうでしょうか。

たとえば、契約していた携帯電話やサブスクの利用料などは、誰かが解約しない限り、引き落とされ続けます。

携帯電話についていえば、本人や本人から依頼を受けた代理人、後見人などの法定代理人以外による解約が、非常に困難なケースが多いようです。

いずれ口座の残高が不足して引き落としができなくなれば、携帯電話会社やサブスクリプションサービス提供会社は亡くなった方に連絡を取ろうとするでしょう。

その際に、もし相続人に連絡が入れば、引き落とし口座の存在に気づいて、銀行に死亡の連絡を入れることで口座が停止されるかもしれません。

しかし、もし大金を口座に残したまま亡くなっていれば、誰も使うことのないサービスのために延々と料金が引き落とされ続けることになります。口座から出金が続く限り、休眠口座にはならないからです。

このような状況は、不合理だと感じる人もいるでしょう。しかし銀行からすれば、積極的に口座名義人の生死を確認してまで入出金停止を行うことに、あまりメリットはありません。

富裕層顧客であれば、日常的に銀行の担当者が接点を持っているケースもありますが、そうでなければ、そもそも銀行が顧客の生死を把握するのは容易ではありません。

もし生死を把握しようとすれば、そのためのコストも必要になるでしょう。

なお、休眠預金は、毎年1200億円ほど発生している(2014年度から2016年度のデータ)といいます。そのなかには、増えてゆく「老後ひとり難民」が残した預金も、それなりの割合を占めているのだと思います。

年間800億円近い遺産が国庫に帰属している

身寄りのない高齢者が財産を残して亡くなった場合、その遺産はどうなるのでしょうか。

その行方ゆくえは、法律に基づいて決められます。まず、相続人の存在が明確でない場合、利害関係人(何らかの理由で、亡くなった方の財産の分与を求めたい人)、あるいは検察官の申し立てを受けて、家庭裁判所が「相続財産清算人」を任命します。

相続財産清算人は、本来なら相続人が行うべき「被相続人(財産を残して亡くなった人)」の財産管理を代行する役割を担います。

相続人が不在であったり、相続放棄をした場合、財産を管理する人がいなければ、債務返済が滞ったり、不動産の管理不全などの問題が生じるおそれがあるので、相続財産清算人が適切に財産を管理して清算することになっているのです。

相続財産清算人は、預金や不動産などの相続財産を調査し、債務の支払いや財産の管理を行います。また、相続人が不明な場合は、官報を通じて相続人を捜索します。

これらの手続き後に残った財産については、家庭裁判所の審判を経て、特別縁故者が相続する場合がありますが、最終的に残った財産については、国庫に引き渡されることになります。

2023年にNHKが最高裁判所に取材したところによれば、相続人がいないために国庫に納められた金額は、2022年度は768億9444万円となり、記録が残る2013年度以降で最も多くなったとのことです。

「自分の資産を国に持っていかれるのはイヤだ」という場合は、死後に財産が自分の意向に沿って管理されるよう、何らかの手を打っておく必要があります。

*   *   *

この続きは「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説する幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお求めください。

関連書籍

沢村香苗『老後ひとり難民』

世はおひとりさまブームで、独身人口は増え続けるばかり。だが、そのまま老後を迎えて本当に大丈夫だろうか? 配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多い。高齢で体が不自由になるなか、認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも。本書ではこのような現実に直面し、かつ急増している高齢者を「老後ひとり難民」と呼び、起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説。読むだけで老後の生き方・考え方が劇的に変わる一冊。

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老後ひとり難民

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沢村香苗

日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保健学)。東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。

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